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 電子機器のはんだ接合信頼性向上支援
 −県内企業支援の効率化−
 電子情報部 ○米沢保人 筒口善央 部家彰
 企画指導部 南川俊治

 電子機器業界では,製品の小型化が進む中で,耐衝撃性等のより厳しい信頼性保証が要求されている。また,長年用いられてきたはんだについても鉛フリー化しなければならない。石川県内企業が抱えるこれらの解決技術を支援するため,はんだ接合部の機械的強度を評価するジグを作製し,その有効性を確認した。また,県内企業から依頼される信頼性向上のために行う不具合解析の効率化を図るため,解析事例をデータベース化した。これらのことにより,今後は過去の事例を参考にした迅速な解析が期待される。本報告では,データベースにある幾つかの不具合解析事例についても紹介する。
キーワード:不具合解析,信頼性,はんだ接合

The Evaluation of Solder Joints Reliability for Electronic Products
Industrial Research Institute of Ishikawa (50th Report)

Yasuto YONEZAWA, Yoshiteru DOUGUCHI, Akira HEYA and Toshiharu MINAMIKAWA

     In the field of electronics, products are required to have highly reliable performance, including impact-resistance, in spite of the trend to downsizing. Moreover, solder will have to be replaced with lead-free material in the near future. In order to help companies in Ishikawa Prefecture cope with these problems, a jig for evaluating mechanical properties of solder joints was introduced and its effectiveness was confirmed. In addition, a database of past failure analysis was prepared in order to improve the efficiency of failure analysis in the future. It will improve manufacturer reliability, and is expected to facilitate prompt failure analysis in the future. Some examples of failure analysis are presented in this report.
Keywords:failure analysis, reliability, solder joint

1.緒  言
 電子機器業界では,モバイル機器等の普及で製品の小型化が進むとともに,耐衝撃性等のより厳しい信頼性確保が求められている。また,環境への配慮から,はんだの鉛フリー化が進み,従来用いられてきた錫(Sn)と鉛(Pb)の合金の代わりにSnを主体とした合金に置き換えられつつある。鉛フリーはんだは,従来のSn-Pbはんだに比べて機械的強度は高いが,融点が高いために高温ではんだ付けする必要があったり,電極へのぬれ性が劣っていたりして,はんだ付けにはこれまで以上に厳密な製造管理が必要となっている。当場では,県内企業のはんだの鉛フリー化を支援するため,はんだ接合部の機械的強度を評価するジグを作製し,有効性を確認したので報告する。
 また,当場では県内企業から依頼される不具合品解析を行っている。不具合品解析は,製品の信頼性向上のためには重要で,常に迅速さと正確さが求められる。以上のことから,本報告ではこれまでの解析事例をデータベース化したので,その概要といくつかの不具合解析事例について紹介する。

2.接合強度評価システム
 当場では,電子機器製品の長期的な信頼性を評価するため,振動試験や環境試験等の機器を設置しているが,はんだ接合部の評価を簡便に行える機器がなかったため,部品のはんだ付け接合部の機械的強度を評価するシステムを作製した。以下に試験方法の概要や実施例を示す。
 2.1 接合強度評価システム
3種類の機械的強度試験が可能となったので,図1に各試験方法の概略を示し,以下に概要を述べる。
(1)押し強度試験(参考規格:JIS C0051,EIAJ ET-7403)
図1に押し強度試験の概略図を示す。部品裏のプリント基板に穴を開け,部品の中心を裏からジグで押すことで,接合面に引っ張りの力を作用させる。部品にリードを付けて,引っ張り試験を行うことができないような小さい部品等に対して用いる方法である。
(2)固着性試験(参考規格:JIS C0051,EIAJ ET-7403)
図2に固着性試験の概略図を示す。電解コンデンサ等,比較的背の高い部品に適用する方法で,部品を基板面に対して平行に押すことで,接合面に剪断力を作用させる。
(3)リードプル強さ試験(参考規格:JIS Z3198-6)
図3にリードプル強さ試験の概略図を示す。QFP等のリードを基板水平方向に対して45°の角度で引っ張り,最大荷重値を評価する。鉛フリーはんだの接合強さを測定するために規定された方法である。
これらの試験により,従来のはんだ接合強度と比較することで,はんだ付けが適切に行われたかどうかの判断が可能となった。さらに,寿命試験と組み合わせることで,信頼性の評価にもつなげることができる。

2.2 接合強度評価システムの実施例
 表面実装したアルミ電解コンデンサとチップ抵抗に対して,それぞれ押し強度試験及び固着性試験を行った結果を表1に示す。試料は,はんだ付け直後の接合強度比較のため,@共晶はんだ(Sn-Pb)付け,A鉛フリーはんだ(錫-銀-銅:Sn-Ag-Cu)付け,さらに,温度サイクルにより繰り返し応力を与えた後に機械的強度を評価することで,寿命に関する指標を得るため,B冷熱衝撃試験後の鉛フリーはんだ付け(Aと同等)の3種類を用いた。
同一プリント基板上の同一部品3点に対して試験を行い,平均の最大荷重を求めた。表1に各はんだ付け試料の相対的機械強度として,@の共晶はんだ付けの強度を基準に,A及びBの相対強度を示す。表の数値からは,鉛フリーはんだ付けは共晶はんだ付けとほぼ同等の接合継手強度が得られ,冷熱衝撃試験後の継手強度はやや低下したことが示された。

(図1 押し強度試験の概略)

(図2 固着性試験の概略)

(図3 リードプル強さ試験の概略)

(表1 はんだ付けの機械的強度の相対比較)

3.不具合解析データベース

 当場では,企業からの依頼による不具合品の原因究明のため,元素分析や拡大観察等の分析を行っているが,複数の分析手段や文献調査が必要となり,時間のかかることが多い。また,これらの事例は,守秘義務の観点から外部に公表されることはなく,廃棄されるか解析担当者のみが持つデータとして保管されることが多く,類似の解析依頼を別の担当者が受け持った場合には,余分な時間や費用がかかる恐れもある。
そこで,これらの効率化を図り,県内企業へのサービス向上につなげるため,不具合解析事例をデータベース化し,データ検索を可能にした。
3.1 不具合のデータベース化
データベースはExcelによって構築し,主な入力項目は,@依頼日,A依頼企業,B依頼者,C工業試験場担当者,D不具合品内容,E解析内容および結果,Fコメント,G解析結果フォルダ名,とした。
分析のスペクトルや観察像等の結果は,Gのフォルダに保存されており,パスワードによって閲覧が可能である。また,測定時期や依頼企業名から,測定装置に保存された生データだけでなく,測定条件も参照できる。

(a) 良 品        (b) 不具合品
(図4 Niめっき電極のSEM像(像全幅60mm))


   (a) 良 品        (b) 不具合品
(図5 IのNiめっき電極のEPMAスペクトル)

3.2 不具合データベースの解析事例
本節では,データベースにある解析指導事例について紹介する。
 3.2.1 めっき電極(I)
 ニッケル(Ni)めっき下地の金(Au)めっきは,プリント基板等の接合部分の表面処理によく用いられる。不具合内容は接合不良で,不具合頻度の高いロットの製品について解析した。
 図4に良品と不具合品の電極部の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を,図5に電子線マイクロアナライザー(EPMA:日本電子梶CJXA-8100)のスペクトルを示す。良品は,画像から表面性状が均一となっている様子が,スペクトルからは,Ni,Auおよび下地電極のわずかな銅(Cu)がみられる。また,りん(P)はNiめっき中に混入しているもので,炭素(C)は,めっきあるいはその後のプロセスで付いた表面の汚れと考えられる。一方,不具合品は表面が荒れており,スペクトルは,ほぼ良品と同じであるが,酸素(O)のピークがみられる。これらの結果から,不具合品は,Niが酸化し,表面が荒れて,接合不良を起こしたと推察される。

(a) 良 品        (b) 不具合品
(図6 UのNiめっき電極のEPMAスペクトル)

3.2.2 めっき電極(U)
前述とは異なる製品であるが,電極の構成は同じである。図6に良品と不具合ロット製品の電極部のEPMAスペクトルを示す。前述の例とは異なり,Oの量に差はみられないが,半定量結果のPとNiの割合は,良品と不具合品ではそれぞれ0.12と0.14とわずかに差がある。Niめっき中のP濃度が多くなると,はんだ等の接合時に,めっき界面にP濃縮層が形成され,接合強度も低下するという報告があり1),不具合はNi中のP濃度が高いために発生した可能性が示唆された。

 3.2.3 めっき電極(V)
前述のめっき電極T,Uと基材は異なるが電極の構成は同じである。図7に良品と不具合ロット製品電極部のX線光電子分光(XPS:Thermo Electron,Sigma Probe)のスペクトルを示す。良品と不具合品ではNi2pスペクトルに差がみられ,不具合品の表面にNiが析出し,なおかつ酸化していた。表面が荒れ
ていることも含め,長期間放置されたり,プロセスの途中で大気中で高温に曝されたりしたことが原因と推察される。
 以上のように同じ材質の電極構成でも,不具合の内容や程度は異なっており,事例を参考にした注意深い解析が必要である。

3.2.4 BGA部品の接合不良
 BGA(ボールグリッドアレイ)部品のプリント基板実装品に接続不良の不具合が生じた例である。BGA部品を剥離した後の基板側にあるはんだボールの写真を図8に示す。左図のようにボール形状が平坦なものと,右図のようにボール形状を維持したものがあった。左図のボールはBGA部品と接触していたが,右図のボールは接触した形跡はない。

(a) Ni2pスペクトル    (b) Au4fスペクトル
(図7 VのNiめっき電極のXPSスペクトル)

(図8 はんだボールのマイクロスコープ像)

(図9 BGA実装部の光学像)

(図10 A-A'赤線箇所の形状計測結果)

図9に,BGA部品実装部の全体像を示す。部品中央部の光沢のある部分には,図8右図のようなボール形状が多く存在した。実装基板中心付近のボール一列分(図9 A-A'線の箇所)について,非接触三次元測定機(潟jコン,NEXIV VMH300N)で形状計測した結果を図10に示す。中央部のはんだボール高さは低くなっており,基板の反りが原因であると推察される。
基板裏面の同位置には部品があり,工程上,先にその実装が行なわれたために基板が反ったものと考えられる。BGA部品のように基板における占有面積が大きく,部品の接合点が多い基板では,基板の反り影響も考慮した部品配置レイアウトを考える必要がある。

4.結  言
 電子機器のはんだ付け接合部の機械的強度を評価するジグを作製し,その有効性を確認できた。
また,電子機器の不具合解析事例をデータベース化したことにより,類似する事例の場合には,迅速かつ正確な解析が期待できる。

参考文献
1) Y. Chonan, T. Komiyama, J.Onuki and R Urao . Proceedings of Mate2002, Japan, Feb. 2002 363-366.




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