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 新規織物の開発指導
 繊維部 ○土定育英 浜出三郎 杉浦由季恵 沢野井康成 木水貢 森大介 中島明哉
 情報指導部 新谷隆二

 本県繊維産業を取り巻く環境は,中国を始めとするアジア諸国の合繊分野のレベルアップに伴い,原糸メーカ等が生産活動を海外に大幅にシフトしたことによって,輸入が急増し,厳しい状況に置かれている。そのため,新素材を開発し,それらを複合させたものづくり技術によって,新しい用途にも応用可能な製品開発が必要になっている。そこで工業試験場は,繊維製品の企画開発に熱心な県内企業と研究会を組織し,種々の新規織物の製品試作を行った。その結果,ストレッチ使いで不規則な密度斑のしぼを発現させた“時雨”織物や天然繊維(ケナフ)を使用して清涼感のある“シーツ”及び“スーツ”地等,消費者指向にマッチした機能性織物などが開発された。

キーワード:織物,スパンデックス,特殊撚糸,ケナフ,和紙

Development of Woven Fabrics for New Use

Ikuei DONJOU, Saburo HAMADE, Yukie SUGIURA, Yasunari SAWANOI, Mitsugu KIMIZU, Daisuke MORI, Akichika NAKAJIMA and Ryuji SHINTANI

 The environment surrounding the textile industry in Ishikawa prefecture is severe situation, because Japanese makers of synthetic fiber have shifted the production factories into China and other Asian nations, and textile imports of them increase rapidly. Therefore, it is necessary to develop textiles with high added value regarding end-product application and new field. The study group was launched by Industrial Research Institute of Ishikawa and textile companies which have been active in product development of new textile. As a result, Shigure fabric with crape macula and Bed sheet made of ambari fiber were developed, and they earned reputations as the products that would be useful for promotion of the technique transfer to the textile industry of Ishikawa.

Keywords:fabric, spandex, twisted yarn, ambari, Japan paper


1.緒  言
  本県の繊維産業は,バブル経済の崩壊に伴う国内景気の低迷,東アジア諸国の追い上げ,製品輸入の増大,円高の進行,グローバリゼーションの進展等から,極めて厳しい状況に直面している。図1に主要国地域の合繊生産量の推移を示すが,これより,特に中国が突出した成長を見せていることが分かる。中国の合繊生産量は,1990年は13万tと日本のそれを下回っていたが,1991年には逆転し,1999年には520万t,2000年には600万t,そして昨年は720万tと,ここ数年間は100万t前後もの規模で,年々生産量を増加させていることが分かる1)。また中国は合繊だけでなく,綿花などの生産量,WJLの設備台数,衣類の輸出量等においても世界ナンバーワンであり,量的には既に世界の繊維大国である。これに対して日本の繊維産業を見ると,1985年以降,繊維産業は強い逆風にさらされ,比較的健闘を続けてきた合繊も,近年は生産量が減少傾向にある(図1)。一方,2002年の全国における石川と福井産地のポリエステルおよびナイロン長繊維織物生産量を,図2に示す。これよりいずれも両県で全国の80%以上を生産していることが分かる2)。北陸三県の織機台数が,1992年の89600台から2002年の34000台へと大きく減少している中で,図2の結果は,全国の繊維産地の中で北陸合繊織物産地が健闘していることを示しているものと考えられる。しかし今後も,中国からの二次製品の輸入の増加や輸出低迷が続く限り,本県の繊維産業は大変厳しい状況に置かれていくと考えられる。よって,県内繊維産業の生き残りには,グローバル化,情報化に対応し,企画力・開発力・販売力を持った個性ある自立型企業が集積して競争力を発揮し発信できる産地を目指すことが重要である。

(図1 主要国地域の合繊生産量)

(図2 石川産地の合繊織物生産量)

(表1 試織した織物の内容)

 上記に対処するには,多品種少量で付加価値の高い製品を低コストで生産し,タイムリーに消費者に提案できることが重要である。これには,多様化する消費者ニーズに対応したモノづくりを支援する必要があると考え,本製品試作を進めた。その結果を以下に報告する。

2.内  容
2.1 工試のモノづくり試作設備を活用した試作品の開発
 工業試験場では,糸加工から製品づくりにいたるモノづくり試作設備を導入し,企業の繊維製品開発を支援している。導入設備を活用することで,異なった物性の繊維や繊度(糸の太さ)のものを組み合せて機能性の高い織編物製品を開発し,素材が持っている風合いや美感を十分に生かした製品開発を行うことが出来る。本試作開発では,これらの機械を中心に試作を試みた。表1に試織した織物の内容を示し,以下第2.2.1項〜第2.2.11項に各織物の特徴を記す。

2.2 試織織物の特徴
2.2.1 ケナフ涼感スーツおよび涼感シーツ
 ケナフ(アオイ科ハイビスカス属の一年草)は,麻に似た風合いで,軽くて丈夫,しかも吸湿性に優れた特徴がある。このケナフ繊維を使用し,織物組織によって蒸れにくく,湿度が高い日本の夏に最適な,“さらっと感”に優れた“ケナフ涼感スーツ地”と“ケナフ涼感シーツ地”を製織した。

(図3 上段特殊ガイドによる解撚)

(図4 メンズおよびレディス用スーツ)

 織物はケナフ繊維のよこ糸に独特の膨らみと肌触りの良い風合いを持たすため,よこ糸ケナフの元撚(750T/m)から撚を90%解撚させても糸が切断しない方法を試みた。糸の製造方法は,カバーリングマシンを使用して行った。芯糸に水溶性ビニロンを用い,下段SPでケナフをS撚に,上段SPに特殊ガイドを取り付けZ撚に解撚して,ケナフ繊維の元撚り750T/mをほぼ0にできる特殊技法により製造した(図3)。この方法は,仕上加工で水溶性ビニロンを溶解させることにより,一般的な綿やポリエステル繊維に比べ太く,硬いケナフ繊維を柔らかく膨らませて手触り感を考慮した。涼感シーツ織物は,たてよこの長い浮きによって,布面にはちの巣のような凹凸を表したはち巣組織により,さらっとして快適な汗を逃がしやすい“さらっと感”に優れた介護用シーツ地を表現した。また涼感スーツ織物は,表面に斜めの線を表した綾組織により,”冷涼感,さらっと感,蒸れない”等の風合いを表したメンズおよびレディス用スーツ地を製品化した(図4)。

2.2.2 “さみだれ”と”さみだれチェック”
 撚糸機に特殊装置を取り付けて,ポリエステルカチオン糸とポリエステルレギュラー糸を2本引き揃え,糸の長さ方向にS撚とZ撚を交互に連続的に加撚するSZ交互撚糸を3種類(800,1200,1600T/m)試作した。
 “さみだれ”は,この特殊撚糸した糸を,たて糸に3本交互に配列して,カチオン可染糸のみを染めることで,ナチュラルな杢(霜降り)表現を明瞭に発現させ,梅雨空に“さみだれ”が降る様を表現した(図5)。“さみだれチェック”織物も,同たて糸に対し,よこ糸にもカチオン使いのスラブ調の糸を織り込むことで,チェック柄の高級な表面感を表した婦人服地である(図6)。

2.2.3 月夜の海
 よこ糸にレーヨンとアセテートを複合した飾り撚糸を使用することで,後染めではあるが先染め効果を狙った織物とした。異色染めして,よこ縞模様を強調することにより,月夜に海面がきらきら光る様子を表現した(図7)。また,ポリエステルとレーヨン等の交織により,涼感タッチの風合いを持たせた。

2.2.4 時雨(しぐれ)織物
 たて糸にポリエステル糸,よこ糸にマイナスイオンを発生するパウダーを混入したポリエステルを紡糸し,スパンデックスにこの糸をカバーリングして伸縮性のあるストレッチ糸を製造し,平組織で製織した(図8)。よこ糸のポリエステル糸の巻き付け撚数や,たてよこ糸の製織密度のバランス,仕上加工の工夫によって,加工後に紋組織調の不規則な密度斑と“しぼ”を出現させ,快適性に優れた時雨(しぐれ)を思わせるしぼを表した織物を開発した。

2.2.5 レース調織物
 貝殻を練り込んだ抗菌糸を紡糸して,よこ糸に特殊ウレタン樹脂を付着させ,仕上加工で光沢発砲させて,平組織で大胆な透け感を持たせたレース調の織物を表現した(図9)。
 さらっと感に優れた表面感により,女性のブラックフォーマルドレスや夏用婦人特殊着物地として開発した(図10)。特徴を出すため,織機上の,たて抗菌糸の配列中に,ボビン巻した,金および銀のラメ糸25個を等間隔に,バックレストの後方に配列させた。ボビン巻きの金銀ラメ糸は,ベースのたて抗菌糸に,製織中は常に追従できるよう消極的送り出し方法により(図11),金銀ラメ糸に弛みが発生しないようかつベースのたて糸に接触しないよう梨地バーを挿入する等,考慮して製織した。
 仕上げ加工で黒に染色することで,さりげなく光る金銀糸の輝きに特徴を持たせた。

(図5 さみだれ)

(図6 さみだれチェック)

(図7 月夜の海)

(図8 時雨(しくれ))

(図9 透け感のレース調織物)


2.2.6 PTTちりめん

(図10 夏用特殊きもの)

(図11 製織中の金銀ラメ糸)

 ポスト形態安定加工を意識した,ポリウレタン並みのストレッチ性が出せる風合い素材であるPTT繊維(潜在的に伸縮性能を持つ構造捲縮性素材)を使用した。従来にはないソフトで柔らかな新感触の風合いと快適なストレッチ性を備え,ヌメリ感もなくしなやかな肌触りの織物とした(図12)。

2.2.7 レッドシャーク
よこ糸に,ポリエステルセミダルとスパン糸を複合飾り撚糸し,新感覚梳毛調でドライタッチな表面変化を持たせた織物である(図13)。飾り撚糸を用いることにより,後染め異色による複合混繊織物を目標に,飾り撚糸特有の意匠効果による配色を表し,独特のボリューム感の風合いと光沢を表現した。

(図12 PTTちりめん)

(図13 レッドシャーク)

(図14 清 流)

(図15 チャイナードレス)

(図16 スピンドルに固定した和紙)

(図17 和紙織物)

(図18 よこうねかすり)

2.2.8 清流
 山麓にうねるに澄んだ緑色の輝く谷川を感じさせる婦人服織物を表現した(図14)。表朱子組織をたて方向にランダムストライプ調に配列した。よこ糸には,ポリエステルカチオン可染糸の強撚糸を使用することで,異色染め効果と楊柳効果を表し,しなやかで肌触りの良い風合いを実現した。

2.2.9 華雅(はなみやび)
 画像データーベースから花柄模様を製織データに変換し,電子ジャカード搭載のレピアルームで製織した。青系の先染めポリエステル加工糸を用いて,雅な花柄模様を表現させ,チャイナードレス風に製品化している(図15)。

2.2.10 和紙織物
 特化糸使いの開発を目標に,紙繊維独自の糸使いで付加価値を高め,他繊維との組み合わせの交織により市場拡大を狙う。カバーリングマシンにより,スパンデックスを芯に,ポリエステル金ラメ糸を鞘に,押さえに軽量で独特のハリコシを有するスリット状の素材である和紙によって表面を覆う方法を試みた。なおチーズ形状に巻かれている和紙は扁平(幅:3mm)であって,通常の撚糸用ボビンへの巻き返しが不可能であり,和紙をチーズ巻き形状姿で,通常の撚糸スピンドルに固定し,バランス良く撚糸できるよう工夫して行った(図16)。たて糸にポリエステル異収縮混繊糸,よこ糸に上記和紙を用いた糸使いにより,コンピュータジャカード搭載のレピアルームで製織したが,和紙が切断しないよう,レピアのヘッド部を微調整してよこ入れさせた。また表面効果を表すため,スリット状の和紙表面に起毛加工を施し,染色加工で深みのある光沢を持った清涼感のある織物を表現した(図17)。

(図19 金沢ステーションギャラリーでの展示風景)

2.2.11 よこうねかすり
 よこ糸に熱セット違いによる染着濃度の異なる2種の複合糸を用いることで,加工後に独特の濃淡斑を表すと共に,多彩な色合いの輝きを織物表面に出して高級感を表した(図18)。

2.3 試作製品の展示会への出品
 試織開発した製品については,@平成14年12月2,3日に,東京青山ベルコモンズで開催された“いしかわコレクション by デサンテスダリ展”に“時雨(しぐれ)”織物をドレスとブラウスに製品化して出品した。A平成15年1月25日〜2月6日まで,約20点の詩織した製品を“旬の素材・知の恵・技の力!石川の織物”と題して金沢ステーションギャラリーに展示した(図19)。B毎年開催される全国繊維技術交流プラザ(公設繊維関連試験研究機関の試作品)に出品している。その結果,本県で開催された第38回技術交流プラザにおいて“時雨(しぐれ)”織物が,最高賞の中小企業庁長官賞を受賞した。なお,時雨織物は県内企業へ技術移転し,和服縫製メーカが,新感覚の着物地として全国販売することになった。

3.結  言
 これまでの原糸メーカや商社が主導で行っていた量産品を中心とした委託加工から,多様化する消費者ニーズに的確に対応できる新製品開発力の向上支援を目的に,機能性の高い新規織物数十点を開発した。中でも,天然繊維(ケナフ)を使用した清涼感の織物や特殊撚糸・密度斑による表面効果の織物,さらには異種・異繊度素材を組み合せた異色染め・杢(霜降り)調効果を表現した織物,貝殻繊維との複合によるレース調織物等の機能性に優れた織物等11点を照会した。これから得た技術を繊維業界に対する技術相談や技術指導に反映させ,県内繊維企業の活性化および新分野への進出や企画提案力支援の一助としたい。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,仕上加工にご協力を頂いた,加越産業鰍ネらびに能登テキスタイル・ラボまた試作織物の縫製に対し,ご協力を頂きました金沢文化服装学院の担当職員の方々に深く感謝の意を表します。

参考文献
1)平井克彦.日本の繊維産業の現状と再活性化の方策.繊維トレンド,東レ経営研究所, 2002, p.4-17.
2)石川県織物構造改善工業組合.ポリエステルナイロン長繊維糸月別生産量と全国対比.2003.





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