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 ペットボトルのリサイクル技術に関する研究
  笠森正人* 中村静夫* 森 大介** 井上智実*
   七山幸夫*** 新保善正**
    *化学食品部 **繊維部 ***機械電子部

ゴミの減量と資源の有効利用からリサイクルの必要性が高まっている。ペットボトルはその利便性から使用量が増大しており,回収率も向上しているために,ペットボトルのリサイクル製品の開発は急務となっている。このペットボトルのリサイクルを進めるために,県内の企業や大学と共同でリサイクル製品の開発とその物性評価を行い,次のような成果を得た。
(1) シート成形品として,部品トレーと名刺の開発
(2) 射出成形品として,小型容器や溶接機のハンドル,ペンケース,プランター等の開発
(3) 上記成形品の物性評価から,使用目的に合わせたリサイクル製品開発のための基礎データ
キーワード:ペットボトル,リサイクル,シート成形,射出成形,物性評価

Recycling Technology of PET Bottles in Ishikawa Prefecture

Masato KASAMORI, Shizuo NAKAMURA, Daisuke MORI, Tomomi INOUE,
Yukio NANAYAMA and Yoshimasa SHIMBO

The recycling is required in terms of the loss in weight of the trash and the effective utilization of the resources. The development of the recycling products for PET bottles becomes necessary with the increase of amounts of collected PET bottles. The development of the recycling product and that material evaluation were conducted with the enterprises and universities of Ishikawsa prefecture. The following results were obtained.
(1) Parts trays and name cards were developed as the sheet molding products. (2) Small containers, handles of the welding machine, pen cases and flower planters were developed as the injection molding products. (3) The fundamental data of the development of recycling products were obtained from the material evaluation of the above recycled products.
Keywords:PET bottle, recycle, sheet molding, injection molding, material evaluation


1.緒  言
 平成7年6月に制定された「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(容器包装リサイクル法)が,平成9年4月からペットボトル,ガラスびん等について施行することとなった。
 石川県では平成9年8月に,廃棄物を資源として再利用する「石川型のリサイクル社会」の構築を目指し,県内産業構造や消費規模に適したリサイクル技術を確立し,事業化を図ることを目的に「環境保全・リサイクル支援協議会」を発足させ,工業試験場内に産学官で再生利用技術を研究する「技術研究推進委員会」を設置した。試験場においても、事業推進にあたるために「環境・リサイクル技術研究推進プロジェクト」を編成した1)。
技術研究の対象品目の一つとして,ペットボトルが初年度から選定され,県内で回収されるペットボトルを県内でリサイクルすることを目的に事業を推進したので,その結果について報告する。

2.ペットボトルリサイクルの状況
2.1 ペットボトルの量とリサイクル
 日本におけるペットボトルのリサイクル状況は
PETボトルリサイクル推進協議会から発表されており,ペットボトルの使用量及びリサイクル率はともに増加している。なお,再生ペットの用途は繊維,シート,洗剤ボトルが中心であり,中でも繊維用途への利用が増加している2)。一方,成形品への用途開発は遅れている。

表1 石川県におけるペットボトルの回収率
9年度 10年度 11年度 12年度(4月〜3月)
排出見込量 t 2,741 2,751 2,760 3,048
収集実績 t 203 531 1,326 1,589(速報値)
回収率 % 7.4 19.3 48.1 52.1
2.2 県内のペットボトル回収の現状
 平成9年度よりペットボトルが分別収集・再商品化の対象となり,石川県内におけるペットボトルの収集は表13)に示すように収集実績、回収率とも着実に増加している。

2.3  県内におけるリサイクルの検討

図1 トレーコンテナ

図2 エコペットカード


図3 トーチハンドル
 当事業が発足した当時は,ペットボトルの回収率がまだ高くなく,回収されたペットボトルはすべて県外のリサイクル工場に送られていた。しかし,長距離搬送はリサイクルコストの増大となり,将来,ペットボトルの回収率が向上すると県外での引取りが困難となることが技術研究推進委員会で勘案された。そこで,県内にリサイクル工場ができることを想定して,県内企業で可能なリサイクル製品の研究開発を行った。
 日本における主なリサイクル品は繊維製品であるが,県内には大規模な繊維工場が無いことから,多品種少量生産が可能な射出成形品を中心に開発を行った。

3.ペットボトルリサイクル事例4)
3.1 シート成形試作品
3.1.1 トレーコンテナ
 機械部品及び電子部品搬送用のトレーをリサイクルPET(以下RPETと略)シートから真空成形で試作した。深い形状の成形品はシートが途中で結晶化して作成できなかった。しかし,浅い形状の成形品では若干の異物や僅かな変色,引張強度の幾分の低下があるものの搬送用トレーとしては十分な性能であった。この浅い形状の成形品はトレーコンテナ(図1)として石川県リサイクル認定製品(認定番号第14号)に認定された。

3.1.2 エコペットカード
 表面を荒らしたRPETシートに特殊印刷し,名刺を試作した。現在,男性用と女性用,透明と白色がある。これはエコペットカード(図2)として,名刺ケースとセットで石川県リサイクル認定製品(認定番号第22号)に認定された。

3.2 射出成形試作品
3.2.1 トーチハンドル
 ガラス繊維(以下GFと略)30%充填された未使用のPET(以下VPETと略)を用いて成形している炭酸ガス溶接機ハンドルにRPETを混合して成形を試みた。樹脂のリサイクル率50%においても十分に成形が可能であり,耐熱性及び強度は共に若干低下したものの,製品としては十分な性能を示した。この試作品はトーチハンドル(図3)として石川県リサイクル製品(認定番号第12号)に認定された。
3.2.2 エコボックス
 PET樹脂に相溶性が良いポリカーボネート(以下PCと略)を添加して小箱の成形を試みた。図4に初期の成形品を示す。左端の小箱はRPET100%で成形されているが,ひけが発生し表面状態は荒れている。右側の小箱ほどPCの添加率が多くなっているが,PC添加率の増加に伴いひけの発生は改善された。さらに,成形条件を整えることにより成形品の外観は改善され,RPET100%での成形が可能となった。

図4 エコボックス


図5 こまめ


図6 ペンケース


図7 プランター
3.2.3 小物収納容器
 小物収納容器は前のエコボックスの成形を基本に開発したもので,側面は容器同士を連結できるように填め込み式のため編肉になっており,ひけが発生し易いデザインであったが,成形条件の検討によりひけの発生を抑えることが可能になった。当容器は「こまめ」(図5)として石川県リサイクル製品(認定番号第13号)に認定された。
3.2.4 その他の射出成形品
 その他の射出成形品としては,RPET100%のペンケース(図6)やプランター(図7),土木作業の際に傾きを直すスペーサーやマンホールの蓋等の試作に取り組んでいる。なお,ペンケースは石川県リサイクル製品(認定番号第21号)に認定された

4.ペットボトルリサイクル品の評価
4.1 供試材料
供試材料には,RPETとVPETを種々に配合したシートから切り出した短冊形試験片5)と射出成形したダンベル形試験片6)を用いた。また,その他の材料として,PETボトルのキャップの混入を想定したポリエチレン(以下PEと略)や前出のPC,IV(極限粘度)値の高いPET(以下HPETと略)を配合したもの,及びGFや他の無機物も添加したダンベル形試験片を作成した。

4.2 試験方法
短冊形試験片は万能試験機(島津製作所 DSS-5000)を用いて,試験速度2mm/minにて引張試験を行った。また,示差走査熱量計(理学電機 DSC-8270)を用いて熱分析を行った。さらに,簡易型分子配向計(王子計測機器 MOA-3012)にて分子配向度を測定した。
ダンベル形試験片は万能試験機を用いて,試験速度2mm/minの引張試験と,支点間距離50mmで試験速度2mm/minの3点曲げ試験を行った。また,荷重たわみ温度試験は,クリープ試験機(東測精密工業CP-D-6)を利用して,試料2枚を支点間距離50mmに平行に並べ,荷重500g,昇温速度約1.5℃/minで行った。さらに,衝撃試験をシャルピー衝撃試験機(東京試験機製作所)を用いて行った。

4.3 結果および考察
PET樹脂のリサイクル率と引張強度の関係を図8に示す。押出成形であるシートはリサイクル率が上がるにつれ引張強度が低下した。一方,射出成形品の引張強度はリサイクル率に関係なくほぼ一定の値を維持した。また,VPETのシートでは延伸加工されているために配向度は高かったが,RPET100%のシートの配向度は低かった。一方,射出成形品では樹脂の流れ方向はダンベル形試験片に平行であるものの延伸加工されていないことから,配向度が引張強度に影響しているものと思われる。このことからシート成形品は,RPETを混合すると強度が低下するため,リサイクル製品への応用分野が限定されるものと思われる。射出成形品はリサイクルによる強度低下が無いことから,リサイクルに有望と思われる。

図9 各種配合材の充てん率による引張強度の変化


図10 各種配合材の配合率による引張破断伸びの変化

図11 小松市にできたペットボトルリサイクルセンター
(上:外観,下:内部の様子)
各種配合材の充てん率を変化させた試験片の引張強度と破断伸びの関係を,それぞれ図9,図10に示す。その結果,GFPETの引張強度はGFの充てん率の増加に伴って増大したが4),7),8),破断伸びは減少した。
HPETでは,充てん率が増加しても引張強度に変化が見られなかった。これはPCを配合した傾向とほぼ同様であった8)。また,IV値はHPETを充てんすることにより高くなることが期待されたが,RPETよりも若干高くなる程度であった。これはIV値が高くても成形時に分子鎖が切断されるためではないかと思われるが,試料の乾燥や成形条件と比較する必要がある。しかし,HPET20%配合では破断伸び率が著しく低下したが,20%を超えると破断伸び率はHPET100%と同程度に向上している。この低下の原因はRPETとHPETの相溶性によるものではないかと考えられる。

図8 リサイクル率による引張強度の変化
PEの場合は少量の充てんにより,引張強度は低下し,破断伸び率も急激に低下した。さらに,PEの充てん率が増えると強度,伸び率ともに低下した。これは両者の相溶性が悪いためである。
その他にガラスボトル,パーライト,熱硬化性樹
脂の粉砕物やガラスビーズの添加を行ったが,いずれも強度は低下したものの,弾性率は幾分向上する傾向にあった。しかし,ガラスビーズ添加試料は,添加量が少ないとシャルピー衝撃強度が幾分向上する傾向が見られた。他の添加試料ではガラス繊維も含めてシャルピー衝撃強度は著しく低下した。また,耐熱性はGFPETのみが向上した。さらに,結晶化すると,シャルピー衝撃強度は低下するものの引張,曲げ物性,耐熱性ともに向上するため7),リサイクルする分野を考慮すれば,これらの材料も十分に使用可能と考えられる。

5.ペットボトルリサイクルセンターの稼動
 図11に示すペットボトルリサイクルセンターが平成13年4月より小松市で稼動をし始めた。現在,県内13箇所のPETボトル集積所の内,金沢東と加賀市を除いた県内11箇所のPETボトル約1000tをフレーク化し,マテリアルリサイクルの原料に供している。

6.結  言
 平成9年度より,ペットボトルの石川県内でのリサイクルを目指して事業を推進してきた。現在は,リサイクル品の開発と評価が進んでいることや,県内にリサイクル工場が完成したことより,当初の目的が達成できた。今後は,県内から回収されたペットボトルが,このリサイクル工場にてフレーク化され,リサイクル製品となって,県内で使用されていくように支援を行っていきたい。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた技術研究推進委員会の各位に謝意を表します。また,試作して頂いた叶V木プラスチック工業所,馬場化学工業兜タびに鰹ャ林太一印刷所,貴重なデータを御提供頂いた金沢大学工学部教授中本義章氏,助教授山岸忠明氏,金沢工業大学教授宮野靖氏に感謝します。

参考文献
1)環境保全・リサイクル支援協議会,石川県工業試験場,石川県環境安全部:廃棄物リサイクル技術の開発状況調査報告書 (1998)
2)PETボトルリサイクル推進協議会ホームページ,
http://www.petbottle-rec.gr.jp (2001)
3)石川県環境案全部環境政策課資料 (2001)
4)石川県工業試験場,石川県環境安全部グリーン化推進室,環境保全・リサイクル支援協議会:環境・リサイクル技術の研究開発成果報告書 (2001)
5)日本工業規格:プラスチック-引張特性試験方法-
第3部:フィルム及びシートの試験条件,日本規格協会, JIS K 7127の1号形試験片
6)日本工業規格:プラスチックの引張試験方法,日本規格協会, JIS K 7113の1号形試験片
7)笠森正人,井上智実,七山幸夫,新保善正,宮野靖,中田正之:第30回記念FRPシンポジウム講演論文集,p.185-186 (2001)
8)笠森正人,森大介,井上智実,七山幸夫,新保善正,宮野靖,中田正之,新木洋満:第12回プラスチック成形加工学会年次大会講演論文集,p.57-58 (2001)



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