平成11年度研究報告 VOL.49
コンクリートU字溝自動反転装置の開発支援
−コンカレントエンジニアリングシステムの活用事例−
機械電子部 古本達明 多加充彦
株式会社北計工業 橋爪慎哉

 近年,多様化する消費者ニーズへの対応から,製品の開発期間を短縮する要求が高まっている。しかも,品質の向上や意匠的に魅力のある製品を開発し,市場での競争力を確保する必要性が生じている。そこで,3次元CADシステム,ラピッドプロトタイピングおよび有限要素法による解析シミュレーションなど,情報技術の複合的活用が,試作工数の削減やニーズに応えた製品開発を実現する手段として注目されている。
 工業試験場では県内企業への関連技術の普及を目的に,平成9年度より3次元CADシステムやラピッドプロトタイピングを実現する光造形システムを導入し,企業の製品開発を支援してきた。本報告では,これらのモノづくり支援設備を紹介すると共に,具体的に本設備を活用した製品開発事例として,コンクリートU字溝自動反転装置の開発について報告する。
キーワード:コンカレントエンジニアリング,3次元CADシステム,光造形システム,有限要素解析,情報技術

Development of Auto-reverse Tool of Concrete Gutters for Roadside
- Application of Concurrent Engineering System -

Tatsuaki FURUMOTO* ,Mitsuhiko TAKA* and Shinya HASHIZUME**

 In order to increase competitive power in the market, it's very important to shorten the lead-time in the development and production for the needs of consumer and necessarily to develop attractive and good qualify products. Concurrent engineering while using 3-D CAD system, finite element analysis and stereolithography are useful for fulfilling these market needs.
 IRII (Industrial Research Institute of Ishikawa) has offered production technique using these systems to small and mid-sized enterprises. In this report, the equipments are introduced and a case study of concurrent engineering is presented.
Key Words:concurrent engineering, 3-D CAD system, stereolithography, finite element analysis, information technology


1.緒  言
 近年,製造業をはじめ各業界では,消費者ニーズの多様化に伴い,製品ライフサイクルの短期化が進み,製品開発期間の短縮が重要な課題となっている。また,売れる商品として競争力を確保するため,安全対策等の品質向上と意匠的な魅力が欠かせない1)。したがって,商品開発はこれまで以上に高品質を保ちながら短期間で開発を行うという,相反する課題を克服する必要性が高まっている。そこで,これらの課題を克服するため,コンカレントエンジニアリングと呼ばれる,機械設計支援システム(CAD/CAM/CAE)を用いてデータを一元的に利用した設計製造技術が注目されている。これは,各工程に情報技術を積極的に活用しており,設計と並列して有限要素法を用いた構造解析シミュレーションを行ったり,3次元モデルを高速に造形するラピッドプロトタイピングを用いて試作モデルを製作して試作工数が削減できるためである2)。
 工業試験場では県内企業への関連技術の普及を目的に,平成9年度より3次元CADシステムやラピッドプロトタイピングを実現する光造形システムなど,モノづくりを支援する設備を導入し,これまで技術指導事業を展開してきた。
 本報告では,これらの設備の概要を紹介すると共に具体的な製品開発を指導した事例を報告する。


2.導入設備
図1 モノづくり支援設備の体系
 工業試験場が導入した一連の設備を図1に示す。各システムの中心に位置するのは3次元CADシステムであり,設計されたCADデータを光造形システム,5軸高速マシニングセンタ(FX-5G:鰹シ浦機械製作所),YAGレーザ加工機(2×2:コマツエンジニアリング)といった設備と一元的に共有することにより,従来は時系列的にしか行うことができなかった作業が,同時並列で行うことが可能となる。また,元々存在する製品に対して設計変更を行う場合,3次元デジタイザと呼ばれる形状入力装置(Mercury:潟}ツオ製)を用いて3次元CADシステムにデータを取り入れることができる。
 次節以降に,特に利用実績の多い3次元CADシステム及び光造形システムについて詳細に述べる。

2.1 3次元CADシステム
 当試験場では,国内外の多くの企業が採用しているI-DEAS Master Series(米国SDRC製)とPro/ENGINEER(米国PTC製)の 2系統の3次元CADシステムを導入した。これらはソリッドモデラーと呼ばれ,コンピュータ上の仮想空間で,形状に厚みを持たせて立体的に部品を設計することが可能であり,設計された各部品をコンピュータ内で組み付けて干渉チェックを行うことができる。また,有限要素法と呼ばれる解析手法を用いて,部品の構造解析や熱応力解析を行うことができる。

2.2 光造形システム
表1 光造形システム仕様
使用レーザ
造形サイズ
光造形樹脂
積層ピッチ
LD励起UV固体レーザ
600×600×500mm
紫外線硬化性樹脂(エポキシ系)
0.1mm
 3次元CAD上で設計した部品を迅速に実体化する装置として,光造形システム(SOUPU600GS:(株)NTTデータシーメット製)を導入した。この装置は,紫外線硬化性樹脂の液槽に,3次元モデルの各々の高さで輪切り状にしたスライスデータに沿って,レーザ光を照射することにより,照射された個所のみが硬化されることを利用し,硬化した部分を液槽中のテーブルに逐次積層させて3次元モデルを造形するものである。本装置は,表1の仕様で示すように固体レーザを搭載しているため安定して高出力を得ることができ,サイズの大きいものを高速に造形したり,微細な構造も精度良く造形できる。

2.3 利用実績
図2 モノづくり支援設備の利用実績
 モノづくり支援の各設備導入後2年間の利用状況を図2に示す。主に3次元CADを用いてモデリングした後,CAE(Computer Aided Engineering)を用いて解析シミュレーションを行ったり,光造形システムを用いて試作モデルを造形する事例が多く見受けられた。これらの中から具体的な指導事例として,3次元CADおよびCAEを利用したコンクリートU字溝自動反転装置の開発支援について次章で述べる。


3.コンクリートU字溝自動反転装置の開発
3.1 背景
 コンクリートU字溝は,運搬の容易性や安全性のため上下反転した状態で納品される。そのため,U字溝を施工する場合,人力によって180度回転させ施工場所へ位置決めすることが必要となる。しかも,U字溝の大型化による重量の増大に加え,作業者の高齢化により,作業能率の悪化が大きな問題となっていた。
 そこで対象企業は,作業能率改善のため,U字溝を自動で反転させる装置(以下,反転装置)の製品開発にあたり,工業試験場の3次元CADシステムを用いて強度設計を行い,設計モデルの検討を行った。


3.2 装置の概要
 反転装置は,本体,U字溝回転用パイプと側面固定ピンで構成される。図3に,3次元CAD(I-DEAS)で設計した各部品を組み付けた状態を示す。本装置は,まず図4に示すように,2つの反転装置をあらかじめU字溝に開けられている穴に差し込んで取り付ける。次に,これらにロープをかけクレーン等で全体のバランスを保ちながら吊り下げる。このとき,U字溝回転用パイプを軸としてバランスがとれており,U字溝が容易に回転することができる。

図3 反転装置   図4 反転装置の使用方法

3.3 有限要素法による強度解析
 反転装置がコンクリートの重量に耐えうるかを確認するために,3次元CADで作成した形状データを直接利用して,CAEの代表的手法である有限要素法による解析を行った。有限要素法とは,モデルを有限個の要素に分割し,各要素の特性を近似する要素方程式と呼ばれる数学的モデルを作成し,それを組み合わせた全体の方程式を解くことによって応力分布を計算する手法である3)4)。この手法を用いると,モデルが複雑形状で多数個にわたり材質が異なっていても,容易に応力分布を求めることができる。
 図5に本解析で用いた解析条件を示す。反転装置が実際に設置された状態を考慮し,U字溝との接触部分に拘束条件,実際のU字溝重量に安全率を乗じた値を荷重条件とした。また,3つの部品を組み合わせて解析を行っているため,各部品間の接触部位から応力が伝播するように解析条件を与えた。
図5 解析条件   図6 解析結果
 解析によって得られた応力分布を図6に示す。応力分布は,応力値の大小に伴い異なる色で表示されるため,応力の集中箇所や分布の様子を容易に判断することができる。この結果より,固定ピンと本体との接触部位や固定ピンを移動させる切り欠き部位に応力が集中していることがわかった。また,最大応力値が材料の許容応力値より大きな値を示したことから,リブによる補強や材料厚みを検討する必要が生じた。そこで,最大応力値が材料の許容応力値内になるように設計変更と応力解析を繰り返した。
 設計変更により,最終構造は全体の肉厚が大きくなり,更に図7に示すように,初期モデルに比べ本体下部に補強リブが付加された。このモデルにおける解析結果を図8に示す。この結果より,最大応力値が材料許容応力値より小さくなり,応力集中が緩和されていることが確認できる。

図7 3次元モデル(設計変更後)   図8 解析結果

図9 反転装置
 解析終了後,解析結果の検証を行うため,図9に示すような反転装置を製作し,荷重試験を行った。その結果,解析結果以上の荷重をかけても破壊には至らず,製品として十分に機能することが確認された。

3.4 効果
 3次元CADシステムを活用することにより,設計から装置製作までに何度も繰り返す必要のあるモデル製作工程を最小限に抑えることができ,設計コスト削減に貢献した。また,3次元データを修正して設計変更を行うため,設計時間も短縮することができた。


4.結  言
 モノづくり支援の各設備を用いた指導事例から,以下のことが確認された。
(1)3次元CADシステムを用いて設計を行うことにより,設計変更が容易になり設計プロセスの期間短縮が実現できた。
(2)3次元CAEを用いて解析を行うことにより,試作モデルを製作することなく許容応力値を予測することができ,製品開発コストの削減が実現できた。
 工業試験場では,モノづくり支援機器の操作修得研修会を行い,開放試験設備として県内企業に開放している。また,コンカレントエンジニアリング研究会を発足させ,機器利用技術の向上や最新技術の情報提供を行っている。今後も,これらの各設備を県内企業の振興に役立てていきたい。



謝  辞
 本報告を行うにあたり,データ提供に御協力頂いた飯田工業株式会社,株式会社北計工業に深く感謝の意を表します。


参考文献
1) 岡田久豊:設計支援システムの軌跡,精密工学会誌,Vol.65,No.1,p7-12(1999)
2) 日経デジタルエンジニアリング,日経BP社,No.14,p93-101(1999)
3) 戸川隼人:マイコンによる有限要素法解析,培風館,p59-60(1982)
4) 山田芳昭,山本善之,川井忠彦:有限要素法ハンドブックT基礎編,培風館,p3-17(1981)



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