平成11年度研究報告 VOL.49
人造大理石の表面性状向上
化学食品部 笠森正人
製品科学部 安井治之 粟津薫

 人造大理石は,その高級感のため浴槽,洗面台,キッチンおよび店舗のカウンターなどに使用されているが,さらにその使用範囲を広げるには,より厳しい条件での使用に耐える必要がある。本研究では表面層に着目し,現有材料の表面であるゲルコートに各種の無機材料を添加することによって,人造大理石の表面硬さの向上と耐熱性の向上について検討した。
 その結果,添加材としてガラスビーズやガラスフレークを用いると光沢度は上昇するが、色差の変化は僅かであった。また,圧子を押し込むバーコル硬さやマイクロビッカース硬さもガラスビーズの添加により向上するが,表面を引っ掻く鉛筆硬さは表面に存在する樹脂層のため向上しなかった。タバコによる耐熱性試験では,微小のガラスビーズの添加が耐熱性向上に効果があった。
キーワード:人造大理石,表面,硬さ,耐熱性

Improvement on Surface Properties of Artificial Marble

Masato KASAMORI, Haruyuki YASUI and Kaoru AWAZU

 Artificial marble have been used for the bathtub, the wash-basin, the counter at the kitchen and so on by its excellent quality. Furthermore, to expand the using range of artificial marble, various inorganic materials were added in the surface layer of artificial marble for the improvement in hardness and the heat resistance. As a result, with the addition of the glass beads and the glass flakes, the luster of artificial marble rose but little change of the color occurred. In the hardness, the barcol hardness and the microvickers hardness improved with the addition of the glass beads, however the pencil hardness for the resin layer which exists in the surface didn't improve. In the heat resistance examination by the cigarette, there was an affect in heat resistance improvement, by adding minute glass beads.
Key Words:artificial marble, surface, hardness, heat resistance


1.緒  言
 人造大理石は,その高級感のため浴槽,洗面台,キッチンおよび店舗のカウンターなどに使用されているが,さらにその使用分野を拡大するには,より過酷な条件での使用にも耐える必要がある。
 従来,人造大理石は浴槽に使用されることを前提として熱水に対する研究が数多く行われてきており2-9),当場でも熱水による劣化とその促進評価方法を提案した10)。また,人造大理石の使用範囲の拡大のため,前報では耐候性評価を行った11)。本研究では人造大理石のさらなる使用範囲の拡大を目指して、その表面層に着目し,現有材料の表面であるゲルコートに各種の無機材料を添加することによって,人造大理石の表面硬さと耐熱性の向上について検討を行った。


2.実  験
2.1 供試材料
 表面層であるゲルコートの性状を変化させるために添加した無機材はガラスビーズ3種類,ガラスフレーク3種類,合成マイカパールおよび蛍光顔料3種類の計10種類である。表1にこれらの粒径と略号を示す。試料は表面層のゲルコート樹脂だけのもの,およびガラスビーズ(GB)を5〜50wt%,蛍光塗料3種類を2wt%,フレーク状の合成パールマイカを2wt%添加したゲルコート樹脂を厚さ約3mmに注形成形したものをゲルコート試料とした。このゲルコートに用いた樹脂の仕様を表2に示す。また,ゲルコートに表1の各種無機 材を5wt%添加して注形(厚さ0.4mm)した後に,コンパウンドを約10mmの厚さで注形して作成したものを人造大理石試料とした。この人造大理石試料の仕様を表3に示す。この人造大理石も無機材料無添加の試料を比較のために作成した。
表1 添加材の種類,粒径及び略号
添加材 粒径(μ) 略号
ガラスビーズ UB_01E (ユニオン)
ガラスビーズ UBS_0010E (ユニオン)
ガラスビーズ UB_02NHAC (ユニオン)
  (表面処理有り)
0〜38
0〜10
0〜45
 
GB
GBS
GBN
 
ガラスフレーク REF_600 (日本板硝子)
ガラスフレーク REF_140 (日本板硝子)
ガラスフレーク REF_015 (日本板硝子)
45〜1700
5〜300
〜45
GFL
GFM
GFS
合成マイカパールSD_100(日本光研工業) 10〜60
PM
蛍光顔料 黄色1号 (東洋産商)
蛍光顔料 青色3号 (東洋産商)
蛍光顔料 赤色5号 (東洋産商)
10〜
10〜
10〜
FY
FB
FR
表2 ゲルコート樹脂の仕様
主剤
硬化剤
促進剤
硬化
エスターPG300(三井東圧化学)
55%MEKPO
6%ナフテン酸コバルト
80℃×3Hr
表3 人造大理石の仕様
ゲルコート
主剤
硬化剤
促進剤
硬化
REM_933Gクリヤー(武田薬品)
カヤメックA 1%(MEKPO)
65℃×18min
0.4mm
コンパウンド
主剤
充填剤
硬化剤
促進剤
硬化
ポリマール5450H(武田薬品)
ガラスフリット M50S 217P(日本フェロー)
PX_16 0.3P 0_50 1.0P
65℃×25min,93℃×18min
7〜8mm

2.2 実験方法
 表面性状の評価は光沢度,色差,硬さ,摩擦および耐熱性について行った。
 添加材により光沢や色調が変化する可能性があるので,光沢度と色差の測定を行った。光沢度はデジタル光沢計(スガ試験機 GK-60D)を用いて60度および20度鏡面光沢度を測定した12)。色調はL*a*b*表色系をカラースペクトルメータ(日本電色工業慨Z--80)を用いて測色し13),無機材料を未添加のゲルコート樹脂または人造大理石を基準として色差を算出した。
 硬さについては圧子による押し込み硬さを測定するために,FRPの硬さ試験で用いられるバーコル硬度計(BARBER-COLMAN GYZJ934-1型)14)と,比較のために一般に金属の硬さを測定するマイクロビッカース硬度計(竃セ石製作所MVK-E)を用いた。また,表面の引っ掻きによる硬さの評価には,鉛筆引っ掻き硬さ計(東洋テスター工業梶jおよびマイクロスクラッチ試験機(CSEM社)を用いて測定した。これらの試験条件はマイクロビッカース硬さは荷重0.49Nで加圧時間15secとし,鉛筆引っ掻き硬さでは荷重9.8N,試験速度0.5mm/sec15)で行った。マイクロスクラッチ試験は圧子に先端角度120゚,曲率半径0.1mmの円錐型ダイヤモンド圧子を用いて荷重増加速度10N/min,試験速度10mm/minで行い,併せてAEも測定した。摩擦係数もマイクロスクラッチ試験機の圧子を直径6mmの鋼球(SUS440C)およびナイロン球に変えて,荷重増加速度30N/min,試験速度10mm/minで走査させて測定した。
 また,火の付いたタバコを試料の上に65秒間置いたのち取り除き,ゲルコートの表面変化を調べる耐シガレット試験にて耐熱性も評価した。表面に変化がなければ0に,すぐに変化が分かるものを2に,その中間で少し変化があれば1に,かなり変化すれば3として4段階で評価を行った。


3.結果と考察
3.1 光沢度および色差
図1 添加材による人造大理石の
光沢度(60°)の変化
 
図2 添加材による色差△の変化
 ゲルコートに各種無機材料を添加した場合の光沢度(60度)の変化を図1に示す。上図はゲルコート試料と人造大理石試料のガラスビーズ添加率による変化を,下図は添加量を5wt%一定とした場合の人造大理石試料の添加材による変化を示している。
 上図でゲルコート試料と人造大理石試料を比較するとゲルコート試料の方が光沢度は減少している。これは蛍光塗料を添加した場合も同様であり,人造大理石試料ではコンパウンド層が光沢度の上昇に大きく寄与していることが分かる。ガラスビーズの添加量による変化をみると,ゲルコート試料では添加量が増加するに従い減少しているが,人造大理石試料では添加量10wt%までは上昇し,それ以降は減少傾向にある。また,ガラスビーズを樹脂との接着性を上げるために表面処理すると,光沢度の上昇は少なく,20wt%も添加すると逆に低下している。これは表面処理剤がガラスビーズを覆っているために,ガラスビーズでの光の反射率が低下するものと考えられる。
 添加材の種類による影響は,何れの添加材によっても光沢度は上昇するが,ガラスビーズでもガラスフレークでも粒径が小さいほど上昇している。また,蛍光塗料の添加では赤色,青色,黄色の順で上昇するが,見た目にも赤色が最も着色として目立つことから,光の吸収と関連していると考えられる。合成マイカパールを添加すると,人造大理石試料,ゲルコート試料とも光沢度は上昇し,人造大理石試料の場合は60度鏡面光沢は測定できないほど上昇している。これは,この合成パールマイカにはパール調にするために合成マイカに酸化チタンのコーティングがされており,光沢度が著しく上昇したものであり,下層のコンパウンド層の影響を受けなくなったものである。そこで,光の入射角を20度として鏡面光沢を測定したところ,合成マイカパールの光沢度は,ガラスビーズおよびガラスフレークの粒径が小さいものを添加した試料と同程度の上昇であり,その他の試料では低下した。光の入射角度が小さくなると,添加材が小さいほど光沢度は上昇するが,表面コーティングの種類による影響は減少するものと思われる。
 色差の変化を図2に示す。上図に示すようにゲルコート試料ではガラスビーズの添加量に従い色差は大きく変化しているが,人造大理石にすると20wt%添加しても色差は3程度と小さく,肉眼では色の変化は目立たないものとなっている。また,表面処理があると明度L*と色度a*は少し異なるが色差はさほど変化していない。蛍光塗料を添加したゲルコート試料は,蛍光塗料の色が現れ,特に赤色が顕著であったが,光に晒した後では充分に蛍光を発した。
 さらに,添加材の種類が異なっても下図に示すように合成マイカパールを添加した試料のみがそれ自身の色を出すために大きく変化するものの,それ以外は色差の変化は小さいものであり,添加剤を入れても色の変化は目に付き難いことが分かった。そのために蛍光顔料の添加による効果も少なく,表面のゲルコート層のみへの添加では蛍光性はほとんど確認できなかった。蛍光性を持たすには,ゲルコート層よりもコンパウンド層に添加する必要があると考えられる。合成マイカパールの場合は少ない添加量で色が大きく変わり,下層の素材や色の遮蔽効果が期待でき,リサイクル材の応用が検討できる。


3.2 硬さと摩擦
図3 添加剤による人造大理石の
バーコル硬さの変化
 
図4 添加材による人造大理石の
ビッカース硬さの変化
 
図5 添加材による鉛筆引っ掻き硬さの
変化
 
図6 ガラスフレーク添加材の
スクラッチ 試験
 
図7 ガラスフレーク(大)添加材の
動的摩擦係数
 FRPの硬さ試験で一般に用いられているバーコル硬さの結果を図3に示す。ゲルコート試料のみではガラスビーズの添加量が増えるに従ってバーコル硬さは向上し,人造大理石試料でも添加材により硬さは向上する傾向が見られる。下図の添加材による硬さの変化では,いずれの添加材でも僅かに向上するものの,特に表面処理したガラスビーズが顕著であり,表面処理の重要性が認識できる。また,ガラスビーズおよびガラスフレークの粒径の小さいものに硬さの向上がみられ,ゲルコートへの分散が良いのではないかと推察できる。合成パールマイカ添加の場合は,人造大理石試料では効果が少なかったが,ゲルコート試料では硬さの向上が大きく,ゲルコート層の厚さが影響しているものと考えられる。
 バーコル硬さと同じく圧子を押し込むマイクロビッカース硬さの結果を図4に示す。ガラスビーズの添加により,ゲルコート試料は硬さの向上が見られ,人造大理石試料では僅かながら向上し,20wt%添加ではバラツキが大きいものの平均すると硬さは向上している。また,添加材の種類ではガラスビーズは硬さは向上するものの,他の添加材では反対に低下してしまった。これは,マイクロビッカース硬さの場合にはバーコル硬さに比べて加圧する力の設定が小さく,圧子のゲルコート内部への浸入が少なくなり,極表面の樹脂層の硬さを計測したものと考えられる。しかし,樹脂そのものの硬さより低下したことについては,今後さらに検討する必要がある。なお,合成マイカパールの場合は,人造大理石試料では硬さを測定できなかった。しかし,ゲルコート試料では添加量が2wt%と少なくても,ゲルコート樹脂単体の場合の約3倍に向上した。このため人造大理石試料でも加重を大きくしたが,光沢が強すぎるためか,今回は硬さを求めることができなかった。
 表面を引っ掻いて硬さを評価する鉛筆引っ掻き硬さの結果を図5に示す。ゲルコート試料,人造大理石試料ともガラスビーズの添加量によって硬さは向上するが,5wt%の添加による種類の差異は殆どなく,僅かに合成パールマイカの硬さが1ランク向上しているだけである。しかし,ゲルコート試料の場合は合成パールマイカを添加しても硬さの向上はみられなかった。これもマイクロビッカース硬さの場合と同じくゲルコートの極表面を覆っている樹脂に傷が付くためと考えられる。表面の耐擦過性を向上させるには樹脂そのものの硬さを上げる必要がある。または,表面の樹脂層を研磨して取り除き,無機材料を表面に出すことが考えられる。しかし,この場合は耐水性が低下することを考慮する必要がある。
 鉛筆引っ掻き硬さと評価方法が似ているダイヤモンドチップによるスクラッチ試験を人造大理石試料で行った。その中で,最も変化が大きく現れたガラスフレークの結果を図6に示す。ガラスフレークの粒径の増大に従い抵抗力の振幅は大きくなり,AEの強度も大きくなっている。各種添加材を入れた人造大理石試料はいずれも負荷加重に対する抵抗力の変化の傾向は全体を通じてこのガラスフレークとほぼ等しく,粒径が小さいために抵抗力やAE強度はより変化の少ないものとなった。これは,いずれの試料においても,ほぼ同じ負荷加重でコンパウンド層までダイヤモンドチップが達してためであり,負荷加重の変化が大き過ぎたためではないかと考えられる。
 上述のスクラッチ試験のダイヤモンドチップを直径6mmの鋼球(SUS440C)とナイロン球に換えて摩擦試験を行った。ガラスフレークの粒径の大きい添加材を入れた人造大理石試料の結果を図7に示す。鋼球,ナイロン球とも初期の動的摩擦係数の振幅は大きいものの,加重が増加するに連れて摩擦係数は小さくなる傾向にあるが,鋼球はナイロン球に比べて動的摩擦係数の変化が大きく,その平均値も大きくなっている。この傾向はいずれの人造大理石試料においても同様であった。今回は2種類の球で試験を行ったが,球の種類を増やせば製品評価に必要な表面性状の評価が可能になる。


3.3 耐熱性
図8 添加材による人造大理石の耐熱性の変化
 試験の結果を図8に示す。無機材無添加の場合はタバコ火による黄変は目立つものの,ガラスビーズを添加すると変化は小さくなるが,添加量による差異は殆ど現れていない。しかし,ガラスビーズの粒径が小さくなると一挙に状況は変化し,タバコを置いてあった場所を指摘し、目を凝らさないと変化が分からないほど耐熱性は改善され,変化無しとは言えないが,それに近いものとなった。これは,細かいガラスビーズにより表面の樹脂が相対的に少なくなったためと思われるが,今後さらに検討する必要がある。
 添加材の種類ではガラスビーズ,ガラスフレークおよび蛍光塗料は無添加よりも改善されるものの変化はあり,蛍光塗料による改善度合いはガラスよりも小さい。合成マイカパールでは着色が無添加よりも目立ている。これは合成マイカパールの光沢が大きく,より樹脂の着色が目立つものと思われる。


4.結  言
 人造大理石の表面であるゲルコートにガラスビーズやガラスフレーク等の無機材を添加することにより,人造大理石の色差の変化が少なく,光沢度や硬さを向上させることができることが分かった。さらに硬さを向上させるには表面の研磨が必要であるが,耐水性などの低下を考慮し,使用場所を限定する必要がある。
 また,タバコによる耐熱性試験では,微小のガラスビーズの添加は耐熱性向上に著しい効果があることが明らかになったが,今後はさらに過酷な耐熱性試験を検討する必要がある。


謝  辞
 最後に,本研究を遂行するに当たり,試料の作製と助言を頂いた活苡繝vラスチック製作所社長井上徹氏,試料を提供して頂いた潟ニオン,日本光研工業梶C日本板硝子鰍ィよび三井東圧化学鰍ノ感謝します。



参考文献
1) 小柳卓治,強化プラスチック,Vol.41,p.181(1995)
2) 奥野利文,藤岡康成,岡村秀志,大河内芳則,39th FRP CON-EX'94講演要旨集,p.6(1994)
3) 村井裕之,村瀬吉彦,39th FRP CON-EX'94講演要旨集,p22(1994)
4) 越久村博之,山田晃男,石川雅人,39th FRP CON-EX'94講演要旨集,p.27(1994)
5) 中川好正,氏川典久,39th FRP CON-EX'94講演要旨集,p31(1994)
6) 土井勝広,神崎満幸,40th FRP CON-EX'95講演要旨集,A-3(1995)
7) 郷豊,泉弘文,40th FRP CON-EX'95講演要旨集, A-4(1995)
8) 森多憲一,秋山浩一,三牧博昭,福田宜弘,40th FRPCON-EX'95講演要旨集, A-16(1995)
9) 森井亨,幾田信生,41st FRP CON-EX'96講演要旨集,A-13(1996)
10) 笠森正人,粟津薫,坂本誠,舟田義則,石川県工業試験場研究報告,Vol.45,p.85(1996)
11) 笠森正人,舟田義則,粟津薫,石川県工業試験場研究報告,Vol.46,p.41(1997)
12) JIS Z8741
13) JIS Z8722
14) JIS K7060
15) JIS K5400



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