平成11年度研究報告 VOL.49
高精度・高速化を目指した自動目視検査技術の開発
−鏡面反射を有する棒状切削工具の自動目視検査装置の開発−
製品科学部 中野幸一 米沢裕司 漢野救泰

 工作機械等に使用される棒状切削工具の切れ刃面に生じる欠陥は,非常に微小であり,人間の目視により正確に検査することが困難であることから,検査の自動化が進められている。しかし,棒状切削工具の切れ刃面は鏡面反射成分を多く含み,そして刃の形状が直線ではなく螺旋状に湾曲しているため,画像処理による欠陥検査を困難にしているなどの問題がある。この問題を特殊照明装置と撮像装置のレイアウトの工夫により解決できた。さらに,欠陥を含む切れ刃面をハフ変換により2次曲線で近似し,切削工具の切れ刃形状を推定することにより,実際の切れ刃画像と刃の推定画像から欠陥の大きさを数値的に求めた。その結果,分解能1μmの精度で欠陥の大きさを求めることが可能になった。また,検査アルゴリズムの有効性を確認するため自動目視検査装置を試作し,工場の検査ラインでの実証化試験を行った。
キーワード:画像処理,目視検査装置,棒状切削工具,欠陥,ハフ変換

Development of an Automatic Vision Inspection Technology Aimed at
High Precision and High Speed
- Development of a System to Inspect Rodlike Cutting Tools with Specular Reflection for Defects -

Kouichi NAKANO, Yuji YONEZAWA and Sukeyasu KANNO

 Because of the minute defects and difficulty while making accurate inspection, efforts are made to automate vision inspection of rodlike cutting tools used for a machining center. However, for automation using image processing, there are very serious problems that need to be addressed: the blade has a surface of specular reflection and has a helical structure. We solved the first problem by putting some thought into the placement of a special light and a camera. Then we solved the second problem based on the presumption that shape of a blade could be expressed as an approximate second-degree curve using Hough transformation from a grab video image of a blade. As a result, the size of a defect could be obtained numerically with 1-micron resolution. Finally, a prototype of automatic vision inspection system was built and tested to perform verification of the inspection algorithm at the inspection line.
Key Words:image processing, vision inspection equipment, rodlike cutting tool, defect, Hough transformation


1.緒  言
図1 エンドミルの外観
 生産工場の現場では,人間の目視を必要とする組立や検査工程の自動化が難しく,未だに人間の目視に頼っているところが多い。そのため,検査基準が検査員の体調や心理状態に左右され一定とならず,製品品質に大きなばらつきが生じ,製品信頼性の点において重大な問題が生じている。
 特に目視検査が困難なエンドミルに代表される棒状切削工具では,その切れ刃面にキズや欠け等の欠陥があると,その工具により加工された加工物の切削面にキズが生じたり面粗さが悪くなるなどの悪影響を及ぼす。そこで,棒状切削工具の生産工程においては,刃面のキズの有無の検査が必要である。
 しかし,従来このような検査は人間の目視により行われてきた。これは,図1で示すように検査を行う切れ刃面が金属による鏡面を有しており,さらに切れ刃面が直線ではなく螺旋状に湾曲しているため,検査の自動化が困難であったためである。さらに切れ刃面の湾曲の度合いは工具の外径等の違いにより様々であり,パターンマッチング1)による欠陥検出では膨大な量のリファレンスデータ(参照比較データ)が必要になるなどの問題があった。
 そこで本研究では,斜方向からの拡散照明を用いることにより,鏡面反射の影響をできる限り排除するとともに,ハフ変換を用い正常な刃の形状を推定することにより,リファレンスデータを必要とせずに,欠陥を自動的に検出する方法を開発した2)。本稿では,棒状切削工具のうち,エンドミルを例として,その検査手法と実験結果について述べる。


2.検査対象欠陥
 エンドミルの外観および検査対象箇所を図1に示す。実線で囲った部分は底刃と外周刃のコーナー部分であり,この箇所が欠けているものは不良品である(図2)。また,点線で囲った部分は外周刃であり,この箇所にキズや欠けがあるものも不良品である(図3)。本装置はこの2種類の欠陥の有無を自動的に検出する装置である。
 エンドミルは図1のように螺旋状をしているので,一度にすべての検査画像を取得することは不可能である。そこで,本装置では,エンドミルの位置を制御しながら,図1のようにいくつかの領域ごとに分割して検査画像を取得し,欠陥の検出を行っている。
図2 コーナー部分の欠陥
(上:良品、下:不良品)
図3 外周刃部分の欠陥
(上:良品、下:不良品)


3.検査装置の構成
 図4に欠陥検出装置の構成を,図5に装置の外観を示す。棒状切削工具はコレットチャックを備えたスピンドルに装着されており,パソコンからの制御により東西南北方向および回転方向の任意の位置に動かすことができる。また,棒状切削工具の斜方向に拡散照明を配置している。これは,照明から直接光は入射せず,リフレクタで反射した光が棒状切削工具の刃面に入射するようになっている。この照明により,刃面に比較的均一に光が当たるようになり,強い正反射を避けるようにしている。
 CCDカメラで取得した検査画像はテレビモニターを経由してパソコンに取り込まれる。パソコンは切削工具の位置を制御するとともに,4章で述べる手法により,切削工具の欠陥を検出し,画面に表示するようになっている。
図4 装置の構成 図5 装置の外観

表1 試作した検査装置の仕様の概略
1)検査対象 切削工具(エンドミル)のキズ検査
2)検査項目 外周刃のキズ、コーナー部の欠け
3)検査仕様  
・検査時間
・分解能
・照明方法
・カメラ
・レンズ
・ワーク位置調整機能
・XYステージ
・スピンドル
・Zステージ
・処理用コンピュータ
10〜20秒
1.3μm
拡散照明(バウンスランプ200W)
モノクロ標準カメラ(640X480)、Z軸移動可能
光学倍率 〜9倍
XYステージおよびスピンドルにより調整可能
分解能0.004mm 移動速度40mm/sec
分解能0.48度  回転速度800rpm 芯振れ精度10μm以内
分解能0.002mm 移動速度10mm/sec
CPU:PentiumIII 600MHz メモリ:384MB OS:WindowsNT4.0


4.欠陥検出手法
4.1 外周刃の欠陥検出
 欠陥の有無を検出するにあたり,正常な場合の刃の形状を画像処理により推定し,それと実際の刃の形状とを比較することで欠陥の検出を行った。具体的には,検査対象箇所をカメラでとらえ,次の1)〜4)の画像処理を行うことで,キズの検出を行った。
1)検査画像の2値化
 検査画像(図6)を2値化画像1)(図7)に変換する。
図6 検査画像
2)刃先形状の検出
 エッジ検出1)を行うことにより,刃先形状の検出を行う(図8実線)。
図7 2値化画像
3)正常な刃先形状の検出
 ハフ変換3)により,2)で検出した刃先形状を2次曲線(図8点線)で近似する。この2次曲線をキズなどがない正常な刃先の形状とみなす。
図8 刃先の形状の検出
4)キズの程度の数値化
 2)で検出した実際の刃先形状と3)で検出した正常な刃先形状の差異を検出する(図9)。キズがある場合はこの差異が大きくなり,キズがない場合は差異は小さくなることから,この処理により,キズの程度を数値化することができる。
図9 キズの大きさの検出
 この手法は,検査画像自身を用いて,検査の基準となる正常な刃先形状を推定するため,あらかじめリファレンスデータを備えておく必要がない。そのため,径の違いなどによって,刃の形状(曲率等)が異なる場合でも,それに対応したリファレンスデータをその都度入力することなしに,検査を行うことができる。

4.2 コーナー部の欠陥検出
 コーナー部分の欠けの有無の検出においても,外周刃の場合と同様に,ハフ変換を用いた方法で行った。具体的には,外周刃と底刃とのコーナー部分をカメラでとらえ,次の1)〜5)の画像処理を行うことで,欠けの検出を行った。
図10 コーナー部分の欠陥検出
1)検査画像の2値化
 検査画像を2値化画像に変換する。
2)刃先形状の検出
エッジ検出を行うことにより,刃先形状の検出を行う。
3)外周刃の正常形状の検出
 ハフ変換により,2)で検出した刃先形状を2次曲線(図10:破線)で近似する。この2次曲線をキズなどがない正常な外周刃の刃先の形状とみなす。
4)底刃の正常形状の検出
 ハフ変換により,2)で検出した刃先形状を直線(図10:点線)で近似する。これをキズなどがない正常な底刃の刃先の形状とみなす。
5)欠けの大きさの検出
 3)の曲線と4)の直線で囲まれた領域内で,刃がない部分の画素数を調べる。これは欠けの大きさに相当し,この部分が大きい物は不良品である。


5.初期位置合わせの方法
 適切な検査画像をカメラでとらえるには,エンドミルの刃面での反射光がカメラに入射するよう,エンドミルの刃面とカメラ軸との角度を精度良く調整する必要がある。また,正確な検査のためには検査箇所が画面中央に位置するようエンドミルの軸方向についても位置を合わせる必要がある。このような位置合わせは検査員が手作業で行うことも可能ではあるが,検査員の負担軽減と検査時間の短縮のために,自動化を行った。

5.1 軸線方向の位置合わせ
 エンドミルのコーナー部が画面の所定の位置にくるように,次の手順で軸線方向の位置合わせを行う。
1)エンドミルの画像を取得し,エンドミルの左端の位置を取得する。ただし,エンドミルの回転方向の向きによってはエンドミル画像が取得できない場合があるので,図11のように90度ずつ回転させながら4回画像を取得し,その中で,一番左端の位置をエンドミルの位置とする。図11では,270度の画像の矢印の位置がこれに相当する。
2)1)で検出したエンドミル位置とあらかじめ定めた所定の位置とのずれを計算し,ずれ量に応じてエンドミルを移動させる。図12は軸線方向の位置合わせを行った後の画像の例である。
図11 軸線方向の位置合わせ
(エンドミル位置の検出)
図12 軸線方向の位置合わせ
(位置合わせ終了後の画像)

5.2 回転方向の位置合わせ
 軸線方向の位置合わせの後,次のような方法で回転方向の位置合わせを行なう。
1)エンドミルの画像を取得し,2値化を行う。
2)2値化画像を図13のように2分割し(それぞれ画像上部,画像下部とよぶ),それぞれの領域における白の画素数をカウントする。そして,この画素数に応じて次の4通りに分け,エンドミルを回転させる。

a) 画面上部の白の画素数がある程度以上ある場合
(図13:(a))
画面の上方または画面外にコーナー部が写っている場合であり,300度回転させる。
図13 回転方向の位置合わせ
(エンドミルの位置の検出)
  b) 画像上部,画像下部ともに白の画素数が0の場合(図13:(b))
画面にコーナー部が全く写っていない場合であり,10度回転させる。
  c) 画像上部の白の画素数が0で,画像下部の白の画素数が0でない場合(図13:(c))
画面下部にコーナー部が写っている場合であり,2度回転させる。
  d) 画像上部の白の画素数が少量ある場合(図13:(d))
画面中央にコーナー部が写っている場合であり,位置合わせを終了する。
 ここで用いる回転角度や基準となる画素数等はエンドミルの径などによって異なる。
3)位置合わせが終了するまで1)2)を繰り返す。

 以上のような位置合わせ手法により,どのような向きおよび位置にエンドミルをチャッキングした場合でも,常にエンドミルのコーナー部分が画面中央左側に位置するように移動させ,コーナー部の検査を正しく行うことができる。また,外周刃部分についても,このコーナー部の検査位置を基準に,外径等に応じてあらかじめ定めた一定量分だけエンドミルを移動することにより,外周刃の検査を正しく行うことができる。


6.欠陥検出実験
 エンドミルをスピンドルに装着し,欠陥の検出実験を行った。実験に用いたエンドミルは直径3mmの2枚刃のもの104本で,そのうち4本が不良品である。それらの欠陥を本装置により正しく検出できるかどうかを検証した。
 実験では,5章で述べた手法により位置合わせを行った後にコーナー部分の検査を自動的に開始し,その後外周刃の検査初期位置にエンドミルを自動的に動かした後,外周刃の検査を行った。外周刃については1枚の刃につき27カ所の領域に分割し,XYテーブルやスピンドルをパソコンで制御することにより,検査領域を順に変えながら行った。また,コーナー部分,外周刃部分にそれぞれしきい値を設定し,しきい値を超えるキズが検出された場合,不良品と判定した。なお,検査画像の分解能は約1μmである。また,検査に要した時間は,エンドミルの初期位置によって多少異なるが,位置合わせに要する時間を含めて1本につき15〜20秒であった。
 実験結果を表2に示す。不良品の4本はすべて本装置により欠陥が検出され,正しく判定された。例として,コーナー部の欠陥を本装置により検出した結果を図14に示す。図の左上の白い三角形は本手法により欠けと判断された領域を示しており,コーナー部分の欠けの領域を正しく検出していることがわかる。
 また,外周刃の欠陥検出の例を図15に示す。図の上側は検査画像を,下側のグラフは4.1で述べた手法により検出されたキズの大きさを表している。図からわかるように,キズがある場合は,それが検出結果によく表れている。
 一方,表2にみられるように,良品であるにもかかわらず,誤って不良品として判定されることがあった。これは,エンドミルの刃先の表面に付着したほこりなどをキズと判断してしまったためである。これについては,ほこりなどとキズとを判別する手法を組み込むなど,今後の改良が必要だと考えている。
図14 コーナー部のキズの検出
図15 外周刃のキズの検出
 
表2 実験結果
サンプル総数 104本
検査員による
目視検査結果
不良
100本 4本
装置による
目視検査結果
不良 不良
92本 8本 0本 4本


7.結  言
 本研究では,従来人間の目視に頼っていた棒状切削工具の欠陥検査を自動的に行う装置の開発を行った。開発した装置の主な特徴は以下の通りである。
(1)工具の斜方向から拡散照明を行うことにより,鮮明な検査画像を得ることができた。
(2)ハフ変換を用い正常な刃の形状を推定することにより,リファレンスデータを必要とせずに,欠陥を検出することが可能になった。
(3)欠陥検出実験から,キズを精度良く検出できることを確認した。
 以上のような特徴を有した本装置の使用により,棒状切削工具に生じる欠陥を精度良く検出することが可能になった。しかし,問題点として,工具に付着したほこりの影響で,誤って不良品と判定されるという問題があった。今後,この点について改良し,工場の検査ラインへの導入を目指したいと考えている。


謝  辞
 本研究は,中小企業庁の補助事業である地域活性化連携促進事業費補助金事業(広域共同研究)によって大分県,静岡県,福島県と石川県との共同研究によって行われたものである。本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた通商産業省工業技術院電子技術総合研究所知能情報部の坂上勝彦主任研究官に感謝します。


参考文献
1) 谷口慶治:画像処理工学,共立出版,(1996)
2) 米沢,中野:鏡面を有する棒状切削工具の欠陥検出装置の開発,画像センシングシンポジウム講演論文集,pp111-116,(2000)
3) 松山,輿水:HOUGH変換とパターンマッチング,情報処理,Vol.30,No.9,pp1035-1046,(1989)



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