平成10年度研究報告 VOL.48
発光原理を用いたバイオセンサによるBOD測定法 |
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2.実験方法
2.1 微生物の発光メカニズム
発光遺伝子を有する海洋微生物の発光メカニズムは,図1に示すように基質ルシフェリンと酵素ルシフェラーゼとの反応によるものであること2)は既に解明されている。この発光反応はFMNH2(還元型フラビンモノヌクレオチド)に特異的である。ルシフェラーゼ−FMNH2複合体が酸素と1:1で反応すると,反応中間体(1)が生成する。この中間体は飽和長鎖脂肪族族アルデヒドと反応するとアルデヒドが酸化されると同時に発光がおきる。アルデヒドが中間体(1)と反応して中間体(2)が生じる。中間体(2)が基底状態(中間体(3))に移行する際に,エネルギーが光量子として490nmの光を放出する。
図1に示すE1がルシフェラーゼ,E2がNAD(P)H-FMN還元酵素,E3が還元酵素である。
2.2 微生物の培養
海洋性発光微生物 P.phosphoreum IFQ 13896は,20℃で16時間,相互シェーカで増殖培地で培養した。
その増殖培地のpHは7.0でその液組成を表1に示す。培養後の菌体密度は,約5×108個/mlに達する。分光光度計でこの菌体濃度を確認した後,-80℃で凍結保存した。再活性の手順は,25℃の水中にカプセルを入れて素早く解凍してから新鮮な増殖培地に添加して,測定に供した。
表1 増殖培地の液組成
試薬 |
濃度(wt %) |
グリセリン |
0.5 |
ポリペプトン |
1.0 |
酵母エキス |
0.2 |
MgSO4・7H2O |
0.1 |
NaCl |
2.5 |
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表2 最小培地の組成
試薬 |
添加量(g/) |
NaCl |
14.4 |
MgSO4・7H2O |
14.3 |
KCl |
0.746 |
FeSO4・7H2O |
0.028 |
K2HPO4 |
0.058 |
NH4Cl |
1.018 |
Tris |
6.058 |
CaCl2・2H2O |
1.470 |
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2.3 微生物の発光強度
発光強度の測定は,海洋性発光微生物の菌体液1000μlを遠心分離して微生物を沈殿させた後,上澄み液を捨てる。この沈殿管に表2に示す最小培地1800μl又は1000μlを加えてよく混合した後,測定セルに移す。このセルを図2に示す測光室にセットして,空気を送気しながら発光量の測定を開始して検水200μl又は1000μlを添加して連続発光量を測定する。
受光はSiフォトダイオード(浜松フォトニクス(株)製S1227-1010BR)を用いて行い,増幅器(浜松フォトニクス(株)製 C2719)に処理した後,デジタルマルチメータ(アドバンテスト(株)製R6551)でA-D変換し,パソコンに取り込む。
発光強度の測定例を図3に示す。測定開始後,発光量が低下し始める。(最低発光量を初期発光量)それ以後資化し始めるにつれて発光量が上昇する。(最大発光量)
最大発光量を示すピーク到達時間は,資化源及びその濃度によって異なり,最大で20分以内であった。その最大発光量と初期発光量との差を試験水の発光強度とした。
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図2 発光強度の測定システム |
図3 発光強度の求め方 |
2.4 水質評価項目
有機物の資化源及びその濃度に応じた発光強度の信頼性は,植種法によるBOD測定(JIS K 0102)と全有機炭素測定装置(島津製作所製 TOC-5000A)でTOCを測定し,TOC-発光強度-BODとの関係について比較評価した。
2.5 水質評価実験
2.5.1 標準溶液について
BOD測定の標準試薬になっているD(+)グルコース300mgを蒸留水1000mlに溶解する。この標準液に対する発光試験を行った。
2.5.2 活性汚泥処理した処理水について
小型の活性汚泥処理試験装置(容積6.27 l)を用いてD(+)グルコースを資化源として9.44gを水に溶解して,バッチ式で汚泥負荷0.43kg-BOD/kg-MLSS・日の条件で活性汚泥処理を行った。処理直前の瀑気液の条件は(pH
7.2,TOC 9.7mg/l,MLSS 2360mg/l)である。
1時間毎に瀑気液を採取して,GPFでろ過した水について発光強度,TOC及びBODを測定した。
2.5.3 産業排水への応用について
フィールド試験は以下の3段階に分けて行った。
第一段:同バイオセンサの応用に適不適かどうか検討する目的で表3に示す21業種24事業所で採取した流入原水及び活性汚泥法で処理した放流水について評価した。
第二段:第一段の中から都市下水,食品(菓子),産廃処理施設及び染色整理業の4事業所に絞り,流入原水及び活性汚泥処理した放流水について約10回にわたって追跡調査した。
第三段:第二段で追跡調査した企業の3業種と新たに乳製品製造業の流入原水及び活性汚泥処理した放流水をろ紙(アドバンテスト(株)製GB140)でろ過して溶解性有機物を対象に評価した。
産業排水の発光強度は,写真1に示すように試作した評価装置を用いて実験した。装置の試作は(株)イシメックスが行い,発光量の検出は,7チャンネルで行うものである。
表3 フィールド試験に供した業種
No. |
業種 |
No. |
業種 |
1 |
洗濯 |
13 |
製菓 |
2 |
織布 |
14 |
水産練製品 |
3 |
絹精錬 |
15 |
〃 |
4 |
加賀友禅 |
16 |
製麺 |
5 |
染色整理 |
17 |
製菓 |
6 |
畜産 |
18 |
豆腐 |
7 |
飼料 |
19 |
漬け物 |
8 |
化学工業 |
20 |
デンプン |
9 |
〃 |
21 |
酒造 |
10 |
〃 |
22 |
乳製品 |
11 |
煙草製造 |
23 |
都市下水 |
12 |
廃棄物埋立 |
24 |
市場 |
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写真1 試作した評価装置(PD-700型) |
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