平成10年度研究報告 VOL.48
ウェルフェアテクノハウス石川の建設 |
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3.建築設備の概要
被験者による動作能力の評価結果を建築設計および設備仕様条件に反映することで,一般の高齢者から重度障害者に対応したテクノハウス(図1)を完成した。以下に,その内容を示す。
3.1 建築仕様
(1)規模と構造
・床面積:299.4m2(1階166.4m2,2階133.0m2)
・構造:重量鉄骨構造(耐火建築物)2階建
(2)外部主要仕上げ材料
・外壁:断熱材入り押出し成形・板吹き付け仕上げ
1階玄関廻りのみタイル張り
・建具:アルミサッシ(ペアガラス)
・テラス,ポーチ:タイル張り
・外構,庭:モルタルおよび樹脂舗装
(3)内部主要仕上げ材料
・天井,壁:プラスターボード・ビニルクロス仕上げ
2階一部ワイヤーネット
・床:1階は天然木化粧複合板およびコルク材のフローリング,2階は長尺塩ビシート
・建具,家具:木目調塩ビ化粧版
(4)色彩計画
・外観:リハビリテーションセンターと同じ淡茶系色
・内部:弱視対応を考慮した明るめの明度,彩度
3.2 設備仕様
3.2.1 共通仕様
(1)移動動作への配慮
・歩行および車いす走行の安全確保のため,動線は極力短く,屋内,テラス,庭の段差を解消した。ただし,和風建築様式での各種段差解消機の試用評価を行うため,ガレージ,玄関,1階フロアのレベル差をそれぞれ150mmとした。
・通路および各室は,車いす移動や介助がしやすいスペース(直径1,500mm),開口部は有効幅900mmを確保し,玄関,廊下,階段,トイレなど主要な箇所には自動点滅式照明(足下照明を含む)を設置した。
・手すりは,高さ800mmを基準に必要最小限の箇所に設置し,そのほかの壁には手すり下地を敷設した。
・屋内の幅木は,車いすのフットレストやハンドリムの衝突を考慮し,高さ300mmとした。
・床材は,滑りにくい木質系フローリングを採用した。
(2)生活動作への配慮
・建具や家具には,車いす利用者や上肢障害者にも扱いやすい引き戸と取っ手を採用し,蹴込み形状(高さ200mm、奥行100mm)も統一した。
・キッチン,洗面台,和室,トイレ,浴室の主要設備機器に昇降装置を組み込むことで,障害レベルに対応した最適動作環境が確認できるようにした。
・水周りの水洗具は,レバーの大きいカランと注水ボタン付きシャワーコック(垂直可動式)を採用した。
・照明やインタホンなどの操作パネルは,車いす利用者にも扱いやすい高さ(1,000mm)に設置した。
・在宅生活技術支援や実証評価研究などを目的に,国内外の先進的な福祉用具を整備した。
(3)室内環境への配慮
・室内温度を一定に保つため,空調,床暖房設備の充実を図り,断熱効果のあるサッシや壁材を採用した。
・フローリング,壁紙,カーテン生地などは,健康への影響を十分考慮して選定した。
(4)視聴覚障害への配慮
・音声出力や点字表示の電化製品を採用し,手すりや取っ手は設置面とコントラストをつけた。
・インタホンや呼出装置などは,点滅ライトでも認識できるように考慮した。
3.2.2 各部仕様
(1)玄関
・門扉から玄関へのスロープ角度は1/15とし,流水式の融雪装置を設置した。また,安全歩行や視覚障害誘導のための手すりや音声誘導装置を設置した。
・玄関扉は,上肢障害者のリモコン操作,寝室でのロック開閉操作などを可能にするため,電子錠付き自動引き戸を特注した。
・玄関土間は,車いすや電動3輪車が置けるスペースを確保し,充電用コンセントを設置した。
・玄関の上がり框(かまち)には,車いす移動を支援する埋込み式段差解消機,段差越えや靴の脱ぎ履きを補助するベンチと手すりを設置した。(図2)
(2)車庫
・車庫への進入路には流水式の融雪装置,車庫から玄関までの通路にロードヒーティングと大きな軒を設け,軒には電気や温水による融雪装置を敷設した。
・雨や雪の多い気候に対応するため,車庫はビルトインとし,車庫から直接室内に入るためのホームエレベーターと据置き式段差昇降機を設置した。(図3)
・ホームエレベーターは,車庫,1階,2階に停止する通り抜け式で,高齢者,車いす利用者,上肢障害者,視覚障害者などが操作しやすいスイッチ,朗話者のためのペン入力式緊急通報装置を設置した。
・据置き式段差昇降機は,車いすの乗り込み角度が極力小さいもの(最低地上高76mm)を採用し,電動シャッターとともにリモコン操作が可能なものとした。
(3)リビング
・家具は,高齢者にも立ち座りがしやすい椅子やソファー,車いすに対応したセンターテーブル,書斎カウンター,昇降式ダイニングテーブルなどを設置した。
・障害に応じた各種コンピュータ入力装置,意思伝達装置などを整備した。(図4)
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図2 埋め込み式段差解消機 |
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図3 ホームエレベーター(左),据置き式段差解消機(右) |
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図4 立ち座りや車いす利用を配慮した家具 |
(4)和室
・和室は,高齢者や障害者にとって心身の安らぐ空間であり,家族とのコミュニケーションを保つためにも1階中央に配置し,リビングとの境界を開放した。
・立ち座りや車いす移乗の最適値を求めるために,畳全体が高さ0〜550mmの範囲で昇降する機構とし,開口部の両脇に垂直手すりを設置した。
・姿勢の安定を目的に堀こたつを設置し,立ち座りを補助する電動昇降座椅子も用意した。(図5)
(5)キッチン
・個々に適した調理作業環境を確認するため,シンク,調理台,レンジが独立して上下する電動昇降式L型キッチン(垂直可動域620〜920mm)と,せり出しながら上下する電動昇降式吊戸棚(垂直可動域1,000〜1,300mm、水平可動域200mm)を特注した。(図6)
・シンクのボールは、深さ120mmのものを採用し,収納庫は車いすの移動を考慮してワゴン形式とした。
・レンジは,操作部の表示や加熱状態が認識しやすい消し忘れ防止器付き電磁調理器を採用した。
(6)ユーティリティー
・車いすでも容易に洗濯作業ができるドラム型洗濯機,作業カウンター,汚物洗い器,座ったまま利用できる折り畳み式物干しユニットを設置した。(図7)
(7)洗面所・トイレ
・洗面,トイレ,脱衣場をパッケージ化して寝室に隣接させ,温度差による脳血管障害などを防止するために床暖房設備を敷設した。(図8)
・洗面台は,カウンターの高さが620〜920mmの範囲で可動する電動昇降洗面台を特注し,洗面ボールは車いすが進入しやすい浅型形状を採用した。
・便器は,暖房・洗浄機能および便座開閉装置付きで,操作部が移乗を妨げないないものを採用した。
・手すりは,L型手すりと回転手すりを採用し,便器の中心から左右250mm離し,手すりの先端を便器の先端から前方250mm,高さ700mmに設定した。
・手洗器は,便器に座りながら手が洗え,排泄器具なども置けるカウンター形式とし,洗浄リモコン,ペーパーホルダー,汚物入れ,緊急通報装置などを操作しやすい位置にレイアウトした。
(8)浴室
・脱衣場と洗い場の水平手すりは,連続してつかまれるように互いの距離をできる限り縮め,脱衣場にはスツールを用意した。
・浴室は,広い開口部を確保するために3枚引き戸を採用し,左右いずれの片麻痺でも試せるように,手すり,洗面カウンター,水栓具は左右両壁に設置した。
・浴槽は,左右に幅400mmのステージがある和洋折衷型(内寸:長さ1050mm、幅610mm、深さ550mm)で,エプロンに蹴込みを付けたものを特注し,浴槽の縁高は立ち座りや移乗を考慮して床から400mmに設定した。
・浴槽側の水平手すりは,浴槽の全長に近い長さで,浴槽縁から高さ120mmの壁面に設置した。(図9)
・洗面カウンターは,浴室の出入りを妨げない形状のものを特注し,椅子に座って洗面がしやすい高さ400mmに設置した。
・床材は,滑りにくい保温性発泡タイルを採用した。
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図5 最適な高さが検討できる電動昇降式和室 |
図6 最適な調理環境が検討できる
電動昇降式キッチン |
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図7 車いす作業が容易なユーティリティ |
図8 片麻痺者や車いす利用者に対応した
洗面所・トイレ |
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図9 左右いずれの片麻痺でも試用できる浴室 |
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図10 さまざまな障害に対応した寝室 |
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図11 対麻痺に対応した昇降式便器・移乗台 |
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図12 重度四肢麻痺に対応した天井走行リフト |
(9)寝室
・寝室は,さまざまな障害に対応できるような設備とスペースを確保した。(図10)
・ベッドは,動作能力や体調に合わせて調整ができる4モーター式のものを採用した。
・重度四肢麻痺者が,和室,トイレ,浴室へ移動するための天井走行式リフトを設置した。リフトは水平移動,回転,上下昇降が全てリモコン操作でき,緊急下降装置の付いたものを選定した。
・ベッド,空調,照明,電話,テレビ,インターフォン,カーテン,窓,雨戸,玄関扉などを自立操作できる環境制御機器を整備した。
・車いすでも利用しやすいドレッサーを作り付け,衣類収納棚には可変棚やスライドハンガーを組み込んだ。
・床材は,車いすとベッドの移乗の際にタイヤがスリップしにくいコルク材のフローリングを採用した。
(10)可変式トイレ
・便器への座位移乗の最適条件を求めるため,昇降式便器(垂直可動域400〜550mm)を設置し,前方と側方に面積1,200×1,000mm,1,000×1,500設置し,高さは便座から250〜500mm,幅は570〜840mmの範囲で調整できる。長時間の排便動作にも配慮して,柔らかい背もたれを設置した。
・重度四肢麻痺にも対応するため,天井走行リフトを設置した。(図12)
・身障者用便器は,高さが340〜600mmの範囲で昇降し,便器の両側に水平垂直可動式手すり(床から高さ600〜850mm,幅400〜670mmの範囲で可動)を設置した。
・床材は脱衣場を含めてコルク材のフローリングを用い,床暖房設備を敷設した。
(11)可変式浴室
・脱衣台は,便器側方の移乗台を兼用し,床から高さ800mmの壁面に脱衣台と同寸の水平手すりを設置した。
・浴室は,障害者や介助者の最適条件を求めるため,浴槽と3つに分割した洗い場(面積1,000×1,000mm,1,000×750mm,1,200×1,000mm)は,それぞれ高さ0〜550mmの範囲で昇降する。(図13)
・浴槽は,姿勢の安定する和洋折衷型で,天井走行リフトとの位置関係を十分考慮した。(図14)
(12)研究スペース
・2階のシミュレーションフロアは,住宅改造や福祉用具による支援および検証を行うために,動作空間を自由なサイズに設定できるスライディングウォール(移動壁)を設置した。(図15)
・主要な設備機器としては,ベッドから車いすやポータブルトイレなどへ移動するための据置式リフト,車いすから浴槽に移動させる水圧昇降式リフトを取り付けた簡易浴室ユニット(0.75坪型),車いす移動に必要な通路幅と開口幅を評価できる移動式パーティション(ドア付き)などを設置した。
(13)天井裏観察フロア
・生活動作や福祉用具を実際に利用している様子をより正確に分析,評価するため,1階と2階の天井裏に観察用のキャットウォーク(渡り通路)を設置した。
・1階は,キッチン,トイレ,脱衣場,浴室,寝室重度障害者用トイレ,脱衣場,浴室の天井に観察窓を設置し,2階は,ほぼ全域が観察できるように天井をワイヤーネットとした。(図16)
(14)庭
・庭の3分の2は,車いすが回遊しやすい樹脂舗装面(残りは芝生)とし,周辺には,身長,車いすの高さ,上肢能力などに応じて使いやすさが検討できる階段状の花壇(高さ700,600,500,400,300mm,蹴込み高さ200mm,奥行き50mm)を設置した。(図17)