|
||||
|
||||
高齢化社会が急速に進む中,高齢者や障害者のための住環境と福祉用具の研究が重要となってきている。このため,通商産業省では,これらの研究施設としてウェルフェアテクノハウスの建設を各地で進めている。
石川県では,工業試験場と医療機関との共同研究によってウェルフェアテクノハウス石川を設計し,平成10年7月,石川県リハビリテーションセンターに隣接して竣工した。本報では,高齢者や障害者の動作能力を体系的に整理することで得られた設計指針と施設概要について報告する。
キーワード:高齢化社会,障害者,住環境,福祉用具,ウェルフェアテクノハウス
The Construction of Ishikawa Welfare Techno-House
Tetsuro TAKAHASHI, Mitsuyoshi MAEKAWA, Miyako KISHITANI, Kayo TERADA and
Yoshiaki KITANO
Since aging society is progressing rapidly,the study,which of the housing
environment and the welfare equipment for the old person and the disabled,becomes
important. Therefore,the Ministry of International Trade and Industry advances
the construction of the Welfare Techno-House(WTH) in each place as the
study facilities of the housing environment and the welfare equipment.
We designed the Ishikawa Welfare Techno-House by the cooperative study
with the medical organization,and constructed it neighbor on Ishikawa Prefectural
Rehabiritation Center in July,1998. This paper describes the construction
design concept and the facility outline which was obtained by classifying
the kinetic ability of the old person and the disabled.
Key Words:aging society, the disabled, housing environment, welfare equipment,
Welfare Techno-House
1.緒言
高齢化,少子化が急速に進む今日,医療・福祉分野では,「早期退院および在宅生活の促進」,「自立生活を支援するための住環境および福祉用具の開発」が緊急の課題1)2)3)となっている。このため,通商産業省工業技術院では,医療福祉機器研究開発推進事業の一環として,高齢者や障害者が安全で快適に住まいができる住環境や福祉用具の総合研究施設「ウェルフェアテクノハウス(以下,テクノハウス)」の建設を各指定地域に進めている。
本来,より優れた住環境や福祉用具を研究開発するためには,高齢者・障害者の身体機能やニーズを十分把握する必要がある。このため石川県では,産業技術および医療・福祉技術の中枢機関である工業試験場とリハビリテーションセンターとの連携により,一般の高齢者はもとより重度障害者までを視野に入れたウェルフェアテクノハウス石川を設計し,平成10年7月,石川県リハビリテーションセンターの敷地内に竣工した。
本報告では,高齢者や障害者の動作能力を体系的に整理することで得られた設計指針と施設内容について紹介する。
2.設計条件の抽出
2.1 対象者と住宅環境の設定
高齢者や障害者に対応した住宅設計を考える場合,数多くの障害ごとに個別対応が必要と思われがちである。しかし,これまでに蓄積した在宅生活技術支援4)のデータを分析した結果,障害別ではなく動作能力別に対応することが重要なことが分かった。さらに,動作能力別に分析すると,大きく[1]片麻痺=立位移乗・移動タイプ,[2]対麻痺=座位移乗・移動タイプ,[3]完全四肢麻痺=介助(リフト)移乗・移動タイプという三つのタイプに区分されることが分かってきた。
このため,高齢者の症例に多い脳血管障害(脳卒中による片麻痺等)やパーキンソン症など,立位で移乗・移動するタイプに対する環境設定が整えば,身体機能が衰えた高齢者への対応ができる。さらに,交通事故や落下事故による脊髄損傷や頸椎損傷(神経損傷による対麻痺,四肢麻痺等)など,座位や介助(リフト)で移乗・移動するタイプに対する環境を付加することで,ほとんどの障害に対応できると考えた。
2.2 動作能力評価による設計条件の整理
前述した三つのタイプに対応した住環境の設計条件を導くため,それぞれ典型的な身体機能を呈する被験者によって動作能力を評価した。評価項目は,在宅生活技術支援で常に問題となる起居,移乗,移動,排泄,入浴動作に関する内容で,その結果を表1に示す。
表1 動作能力評価による設計条件の整理
| [1]片麻痺/立位移乗・移動タイプ | [2]対麻痺/座位移乗・移動タイプ | [3]四肢麻痺/介助移乗・移動タイプ | ||
|
居 ・ 移 乗 動 作 |
動 作 能 力 |
・麻痺のない側への起き上がり,利き足を軸にした立ち座り,移乗などが自立的に行える。 | ・ベッドの柵や背上げ機能があれば,寝返りや起き上がりは自立的に行える。 ・車いすへの移乗は,ベッドと車いすの座面が同じ高さで,隙間なく横付けできれば,座位で自立移乗ができる。 |
・寝返り,起き上がり,移乗動作は,すべて介助となり,座位姿勢も困難である。 |
| 設 計 条 件 |
・体勢が不安定なため,ベッドは下肢が床に着地する高さが必要で,ベッド柵や硬めのマットレスがあるとよい。 ・床材は滑りにくいフローリングや硬めのカーペットを選ぶ。 |
・体勢が著しく不安定なため,硬めのマットレスが必要となる。 ・床材は,車いすに移乗するときにタイヤが滑らないものを選ぶ。 |
・介助用に床走行リフトや天井走行リフトを利用することが多いので,部屋の間取りやスペースを十分考慮する。 ・天井走行リフトの場合は,レールと機器設備の位置関係が重要となる。 | |
| 移 動 動 作 |
動 作 能 力 |
・麻痺側に短下肢装具を装着し,杖や手すりによる歩行が可能だが,歩行が不安定な場合や屋外移動には,回転半径の小さい車いすを利用する。 | ・移動は,室内外ともに車いすで自走が可能で,屋外は運転補助具付自動車の利用も可能である。 | ・室内移動は,介助用車いす,各種リフトなどで介助移動を行うか,チンコントロール(顎での操舵)などを利用して電動車いすで自走する。 |
| 設 計 能 力 |
・フロア面の段差をなくし,動線と手すりの位置関係を十分考慮する必要がある。 | ・通路幅の確保やフロア面に段差や勾配のないことが原則である。 | ・いずれの場合も移乗にはリフトが必要になり,障害や体型に応じた吊具の選定が重要となる。 | |
| 排 泄 動 作 |
動 作 能 力 |
・歩行の場合は,便器の正面に立ち,利き手でL型手すりにつかまり,利き足を軸に回転して便器に移乗する。 ・車いすの場合は,便器の側面から歩行の場合と同じ要領で移乗する。 |
・排尿は,車いすを便器に対面させ,自己導尿(自分で陰部にカテーテルを差し込み排尿する方法)を行う。 ・排便は,車いすを便器に横付けるか移乗台を用いて座位移乗し,座薬利用や肛門刺激による長時間動作となる。 |
・すべての動作に介助が必要となり,排尿は介助導尿方式,排便はオマルやポータブルトイレを利用することが多いが,介助用トイレチェアーや各種リフトなどを利用してトイレで行う場合もある。 |
| 設 計 能 力 |
・便器は,移乗しやすい高さを考慮し,後始末のしやすい洗浄・乾燥機能付きのものを選ぶ。 ・L型手すり,洗浄リモコン,ペーパーホルダー緊急通報装置などは,便器に腰掛けた状態で麻痺のない側の適切な位置に設置する。 |
・車いす移動に必要なスペースや便器に接近しやすい配置を考慮する。 ・便器は,車いすの座面高と揃え,疼痛や褥そうを防止するソフト便座,姿勢保持具や手すりも必要になる。 ・周辺機器は片麻痺の場合に準ずるが,手洗器や排泄器具の台も必要となる。 |
・介助移動機器に必要なスペースを考慮する。 ・便器は,対麻痺の場合にほぼ準ずる。 |
|
| 入 浴 動 作 |
動 作 能 力 |
・腰掛けて脱衣を行い,手すり歩行で浴槽の縁に一旦腰掛けて入浴する。 ・立位や歩行が著しく不安定な場合は,シャワーキャリーを利用して入浴する。 |
・脱衣は,ベッドまたは脱衣台の上で行い,車椅子の座面と脱衣台,洗い台,浴槽縁の高さが揃っていれば,座位移動で自立的に入浴できる。 |
・すべての動作に介助が必要となり,脱衣はベッド上で行い,介助用シャワーチェアや各種リフトで移動し,介助入浴を行う。 |
| 設 計 条 件 |
・手すりは,麻痺のない側の脱衣場,洗い場,浴槽縁間に連続的に設置する。 ・浴槽は,麻痺のない側に腰掛け台があり,入浴姿勢が安定する形状(和洋折衷型)を選ぶ。 ・水栓具は,レバー式カランや注水ボタン付シャワーを選び,適正配置する。 |
・脱衣台,洗い台などの材質は臀部を傷つけないことが条件である。 ・身体を洗う場合に,姿勢保持具や上腕で身体を支える手すりが必要となる。 ・浴槽は,片麻痺の場合に準ずる。 ・水栓具は,片麻痺の場合に準ずるが,洗い台で操作しやすい位置に配置する。 |
・浴槽は,片麻痺の場合と同様に,姿勢を保持できる和洋折衷型を選ぶ。 ・シャワーチェアーは,姿勢保持ができる座面角度調節付きのものを選び,臀部筋肉が減退しているため,シートはソフトな素材が要求される。 |
|
|
|
|