簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:282KB、2ページ)

石川県伝統食品である加賀の棒茶の特徴について

■化学食品部 ○笹木哲也,武春美,道畠俊英

1.目 的
 石川県で古くから作られている棒茶(図1)は,茶の茎を焙煎したほうじ茶で,香ばしく甘み豊かな特徴を持つ。棒茶は石川県金沢市が発祥の地とされ,石川県でお茶といえば棒茶,といわれるほど地元で愛飲されているものの,県外にはあまり知られていない全国的に珍しいお茶である。本研究では,棒茶の付加価値向上,高品質化を目指し,棒茶の香り成分の解明を試みた。

(図1 棒茶)

2.内 容
2.1 棒茶と煎茶の香気成分比較
 棒茶と煎茶の香気成分を比較するため,熱湯抽出液に含まれる香気成分を評価した。煎茶は,棒茶の原料となっている茶茎を使用した。評価結果を図2に示す。横軸は分析時間であり,各時間に現れているピークはそれぞれ異なる香気成分を示している。棒茶は煎茶よりも香気成分の種類が多く,その量も多いことが確認できる。香気成分数の正確な見積もりは困難であるが,解析ソフトの自動検出機能によれば,煎茶の香気成分数は約60に対し,棒茶は2倍以上多く含まれていた。
 棒茶に含まれる,高強度ピークの成分の構造を調べたところ,ピラジンと呼ばれる成分が多かった。ピラジンはコーヒーやトーストにも多く含まれており,焙煎の香り(焼けた香り)を示す成分である。一方で,棒茶は,焼けた香りとは異なる独特の香ばしさを示すことから,ほかにも重要な香気成分が含まれていることが予想される。続いて,匂い嗅ぎ評価による棒茶の主要香気成分の特定を試みた。

(図2 煎茶(左)と棒茶(右)の香気成分分析結果)

2.2 棒茶の主要香気成分の把握
 匂い嗅ぎ評価により,棒茶に含まれる香気成分の匂いの質と強度を評価した。具体的には,図2のように時間ごとに現れる各成分をヒトの鼻で嗅ぎ,各成分の匂いの質と強度を評価した。最も匂いの強い成分として,焙煎の香り成分(ピラジン)が検出された。次に匂いの強かった成分として,バラの香り成分が検出された。この他にも,ラベンダーの香りや,イチゴのような甘い香りの成分も検出された。棒茶の独特な香りは,焙煎の香り成分に加え,バラやラベンダーなどの花の香り成分,甘い香り成分が混ざり合って形成されていると判断できる。なお,別の実験で,これら主要成分は焙煎処理で生成,増加することも確認されている。

2.3 茎と葉のほうじ茶の香気成分比較
 棒茶の重要な特徴は,茶茎を用いている点である。そこで,茶茎と茶葉のほうじ茶について,香気成分を比較した。その結果を図3に示す。茎は葉に比べ,焙煎の香り成分は約1.5倍,花の香り成分は約4倍多く含まれていた。棒茶は葉のほうじ茶よりも,香気成分が豊富であることが確認された。

(図3 茎と葉のほうじ茶の香気成分比較)

3.結 果
 棒茶に含まれる主要香気成分を特定した。また,これら香気成分は,焙煎することで生成,増加し,かつ茎の方が葉よりも香気成分を豊富に含むことが判明した。棒茶は商品価値の無かった茶茎を焙煎することで開発されたものだが,茶茎は香り豊富な個性を持ち,かつ焙煎はその個性を活かす加工処理であるとの興味深い結果が得られた。本研究成果は,棒茶の品質向上,及び棒茶を用いた新商品開発等の支援に活用する。