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パール色調漆器の製品開発

■繊維生活部 ○梶井紀孝,江頭俊郎,藤島夕喜代

1.目 的
 工業試験場では,光を反射する雲母材(従来品より輝度が高い顔料)を用いて,パール調の鮮やかな色漆(以下パール漆)を開発し,県内の漆器業界に成果普及を図っている。
 このうち,輪島漆器商工業協同組合員の5社からなる若手グループは,World Wide WAJIMAプロジェクトを立ち上げ,平成24年度いしかわ産業化資源活用推進ファンド事業(H24.9〜H27.8)の採択を得て,パール漆を応用した新しい輪島塗の開発に取り組んでいる。
 本報告では,このプロジェクトへの技術支援の概要について紹介する。

2.内 容
2.1 パール漆の特長
 従来の酸化チタン白色顔料を配合した白漆は,漆自体の色が濃い茶褐色であるため,ベージュ色になり,青色顔料を配合した青漆は,漆の茶褐色が影響して色味の鈍い青色になる。さらに,これらの漆器は日光により変色し易いことが問題となっていた。これに対し,工業試験場で開発した漆は,粒子が細かく非常に光輝性のあるチタンコート雲母顔料を漆中に分散させることにより,これまでにはない明るく,パール調の鮮やかな色味が特長である。また,従来の漆と開発漆の塗膜試料で促進耐光性試験を行い,従来の漆より色差で2割以上変色し難いことを確認している。(平成23年度研究報告VOL.61 光輝性顔料による鮮やかな色漆の開発参照)。

2.2 パール漆の技術移転と共同開発
 パール漆を用いた輪島塗の開発にあたっては,まず産地企業へ工業試験場で開発したパール漆の特長や配合条件を説明して,漆技術の移転を図った。図1のように産地企業でパール漆を試用評価して,塗師の要望に応じて漆と顔料の配合比を微調整するとともに,亜麻仁油や樟脳油による色漆の粘度低減や顔料の分散状態の改善を行うなど輪島塗に最適な調合方法を検討した。
 またパール漆は,刷毛で塗った跡(刷毛目)が目立ち易い傾向があったが,産地企業で刷毛目を模様に見せる塗り方を考案し,刷毛目とパール調の色彩が調和した気品のある漆器ができた。さらに,パール白漆に従来の色漆を混ぜ合わせることで,新しくパール調の緑系や赤系の色味も展開できる方法を見出し,多くの色が表現できるようになった。

(図1 産地企業によるパール漆の試用評価)

2.3 新しい製品開発の支援
 プロジェクトでは,未来生活に求められる魅力ある輪島塗をテーマに,産地企業各5社が新商品の企画書を作成してグループ討議を行いながら試作開発を行っている。工業試験場は,パール漆の技術移転とともに,毎月漆器組合で開催される開発研究会に参加して,デザイン開発から展示に至るまで,一貫したフォローアップを実施している。
 デザイン開発支援の事例としては,パール調の色漆が似合うカップのデザインをする上で,木地図面を三次元CGで仮想試作して,仕上がりの造形や色の検討を行った(図2)。これらの技術的なフォローアップと約半年の開発期間を経て,各産地企業が皿やカップ,スプーン等,カラーバリエーション豊かな30種以上の輪島塗を製品開発することができた(図3)。また,プロジェクトでは,事業の一年目から試作開発品や製品を産地内外で展示発表して,新しい輪島塗を積極的にアピールしてきた。それらの展示に際して,パール漆および漆器の特長を説明する技術パネルの原稿作成を協力した。

(図2 三次元CGによる造形デザインの検討)
(図3 鮮やかな色漆塗りの輪島塗)

 ・輪島漆器会館 二階特設展示 H24.12.20〜H25.1.10(図4)
 ・いしかわ伝統工芸フェア2013東京ドームシティ・プリズムホール展示 H25.2.8〜2.10(図5)
 ・軽井沢プリンスホテル 北陸フードフェア展示 H25.2.13〜H25.3.15

(図4 輪島漆器会館の展示)
(図5 いしかわ伝統工芸フェアの展示)

3.結 果
 輪島漆器商工業協同組合員のWorld Wide WAJIMAプロジェクトに工業試験場が開発したパール漆を技術移転し,共同で新しい輪島塗の開発に取り組んでいる。
 開発した輪島塗を産地内外に展示発表し,これまでの漆器にはないパール調の色味が注目を集めている。二年目となるプロジェクトでは,さらに独特の色味を特長としたテーブルウェアおよび,地球儀オブジェ等の開発を進めている。
 また,パール漆は漆製造業(渠\作うるし店)で製品販売され,山中漆器の漆塗り工房への塗装相談など,各産地企業への技術移転を図っている。
 工業試験場は,今後も新しい漆を研究開発するとともに,県内企業への技術移転と新製品開発を支援していく。