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環境に対応した繊維難燃加工の研究

■繊維生活部 ○守田啓輔

1.目 的
 近年,安全や防災に対する消費者の関心が高まる中,人体や環境に配慮した繊維製品が求められている。インテリア製品(例:カーテン,カーペット等)においては,火災発生時の延焼を食い止め避難時間を稼ぐ目的で,使用素材には難燃性が要求される。一方,最近の化学物質規制強化に伴い,繊維加工用の難燃剤も従来の主流であったハロゲン系からより安全性の高い非ハロゲン系へと移行しており,環境に対応した難燃加工のニーズが高まっている。
 本研究では,非ハロゲン系難燃剤の一種であり,これまで主に電子材料分野で使われていたホスファゼン系難燃剤に着目し,カーテン用繊維布帛の難燃加工に本薬剤を適用して,従来の加工法に比べて生産性が高く廃液が少ない連続式難燃加工法の研究を行った。

2.内 容
2.1 連続難燃加工の条件
 本研究で実施した連続難燃加工及び評価試験の概要を図1に示す。ホスファゼン難燃剤分散液に織物を浸漬し,絞ってから熱処理することにより難燃剤を定着させた。加工布の難燃性試験は,公定法(消防法規定)に基づき行った。本研究における難燃性の指標は,同方法により試料が燃え尽きるまでの着炎回数とし,この値が大きいほど難燃性が高いことを示す。
 最適な熱処理条件を決定するため,難燃剤分散液(濃度1, 2, 5%)を用いて,種々の処理温度・時間で未染色布に対し連続難燃加工を行った。図2に,難燃剤濃度2%で加工した場合の各処理温度・時間における着炎回数を示す。処理温度で比較すると,いずれの処理時間も100℃より120℃の方が着炎回数が多く,120℃以上では着炎回数は5〜6回の範囲で推移し温度依存性は殆んどない。処理時間に着目すると,2分の場合は各処理温度での着炎回数が4回以下で,5,10,15分では着炎回数は4〜6回の範囲でほぼ同水準であった。他の難燃剤濃度(1, 5%)の場合も類似の傾向が認められた。インテリア製品の要求難燃基準は着炎回数が3回以上とされているので,熱処理条件が120℃以上・5分以上であれば,実用的に十分な難燃性が付与できると思われる。

(図1 連続難燃加工及び評価試験)
(図2 熱処理温度・時間と難燃性との相関 処理時間:2分(○), 5分(◇), 10分(□), 15分(△))

2.2 染色濃度,難燃剤濃度と難燃性の相関
 布の染色濃度及び難燃剤濃度と難燃性との相関性を調べる目的で,染色濃度の異なる4種類の染色布(青色の分散染料を使用)を用いた比較試験を行った。熱処理条件を120℃・5分とし,難燃剤濃度を0〜10%の5水準として連続加工した場合の難燃性試験結果を図3に示す。ここで,染色濃度の単位である%owfとは,布重量に対する染料の重量比を意味する。図3の難燃剤濃度に注目すると,いずれの染色濃度においても,難燃剤0%(難燃加工なし)の試料は着炎1回目で燃え尽き,難燃加工を行うと着炎回数は増加した。ただし,難燃剤2%以上では着炎回数の増加は認められなかった。一方,染色濃度で比較した場合,未染色布(0%owf)が着炎回数が最も多く,染色濃度が増大するにつれて着炎回数は減少し,染色濃度0.5%owfでは難燃基準値の3未満であった。
 図4に,難燃剤濃度2%,染色濃度0〜0.2%owfで連続難燃加工した布に,消防法規定による洗濯試験(60℃・15分で5回)を行った場合の難燃性結果を示す。いずれの染色濃度でも洗濯により着炎回数が減少し,染色濃度0.2%owfの試料は洗濯後の着炎回数が3回を下回った。このことから,布の染色濃度が0.1%owf以下の淡色域であれば,洗濯耐久性も備えた実用的な難燃加工が可能であることが分かった。

(図3 染色濃度,難燃剤濃度と難燃性の関係)
(図4 洗濯による難燃性の変化)

3.結 果
 今回,これまで繊維加工に用いられていなかったホスファゼン系難燃剤分散液を使用し,連続加工法における最適加工条件(熱処理温度及び時間,難燃剤濃度及び染色濃度の範囲)を明らかにすると共に,本方法により淡色系の遮光カーテン用ポリエステル織物に対して実用水準の難燃性が付与できることを確認した。図5は,連続加工法により要求水準の難燃性を付与した,淡色系プリント遮光カーテンの一例である。現在は,青以外の色やプリント柄の遮光カーテン布に対する難燃性試験を行っており,今後は遮光カーテン以外の素材についても試験を行いながら本方法の適用範囲を拡大し,県内企業による難燃性繊維製品の開発支援に繋げる。

(図5 連続法により難燃加工した遮光カーテン織物)