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金属小片の周期配列による電波吸収体の開発

■電子情報部 ○杉浦宏和,吉村慶之

1.目 的
 近年,無線通信装置が多機能・高性能化している。例えばスマートフォンは通話・メールのみならず無線LAN等の利用により高速・大容量コンテンツの送受信を可能とし,また,ETCシステムは高速道路料金のノンストップ精算を実現するなど,快適なライフスタイルを提供している。一方で,こうした電波利用の増加は混信による機器の誤動作・誤通信や漏洩電波による情報の盗聴・改ざん等を引き起こす恐れがある。このようなトラブルの対策の一つとして電波吸収体(電波を吸収する材料)が用いられる。しかし,電波吸収体は厚く重いものが一般的で,また開発に多くの時間や費用を必要とするという課題がある。そこで,本研究では新たな電波吸収体技術となる金属小片周期配列(金属周期構造体)に着目し,従来材料の課題の解決について検討することで,その有効性を示すことを目的する。

2.内 容
2.1 金属周期構造体の吸収特性
  (1)金属周期構造体による電波吸収体
 金属周期構造体は,導電性平板上の樹脂に金属等の小片(パッチ)を周期的に並べたものである(図1)。本構造はこれを構成するパッチの並びや樹脂の厚み等により電磁気的特性が変化するため,この調整により電波吸収特性が発現する。

(図1 金属周期構造体)

  (2)構成パラメータの実測評価
 前項について特性を把握するため,パッチの並び(寸法 w および間隔 g)の異なる試料を試作し,吸収特性を測定した(図2)。まず w に関しては,その大きさに反して周波数が低くなる。パッチが平板アンテナと同様の原理で動作すると考えた場合,周波数と波長の関係からこの変化傾向は妥当な結果である。また,g については周波数よりも吸収率への影響が大きい。これは,パッチ間の静電容量の増減に伴い,電波入射面の電気特性が変化するためと考えられる。

(図2 パッチの並びによる電波吸収特性)

  (3)電気的パラメータのシミュレーション解析
 本構造の電気的パラメータ(誘電損失,導電率)による吸収特性についてシミュレーション解析(MW-studio:(独)CST社製)を行った。まず,誘電損失について検証したところ,吸収率には大きく関与するが周波数は殆ど変化しないことがわかった(図3)。このことについて,誘電損失をパラメータとした際の吸収のピーク値についてシミュレーション解析した(図4)。これより,十分な吸収性能を得るには,パッチの構成パラメータごとに適切な誘電損失が必要になることがわかる。

(図3 誘電損失による電波吸収特性)
(図4 誘電損失に対する電波吸収特性)

  次に,パッチの導電率に対する電波吸収率について解析した。導電率も誘電損失と同様に周波数には殆ど影響しない。吸収率のピーク特性についての結果を図5に示す。この解析結果より,ある範囲(導電率が 106 S/m 程度)までは導電性が高いほど吸収性能が大きくなり,これ以降はほぼ一定となることがわかる。すなわち,吸収性能を得るにはパッチの導電率も考慮しなければならないと言える。

(図5 導電率に対する電波吸収特性)

2.2 有効性の検証
 これまで検証してきた金属周期構造体のパラメータ特性をもとに,用途ごとの周波数で吸収性能が発現する試料を設計・試作した。設計周波数は2.45GHz(無線LAN 等)および5.8GHz(ETCシステム)とした。樹脂には誘電損失が0.06程度のポリスチレンを用い,その厚み(d)を一定(1mm)とし,パッチの寸法(w)および間隔(g)により設計を行った(表1)。この設計に基づき2.45GHz/5.8GHz 用試料を試作し測定した結果(図6), いずれも電波吸収体で一般に要求される性能(吸収率:20dB以上)を実現できた。ここで従来材料の場合,2.45GHz/5.8GHzで吸収する吸収体の厚みはそれぞれ7.3mm/3.0mmであるのに対し,本構造では厚み一定(1mm)で薄型となっている。
 以上,金属周期構造体による電波吸収体と従来材料の特性比較を表2に示す。

(表1 試作した電波吸収体の設計値)
(図6 試作品の周波数に対する電波吸収率)
(表2 金属周期構造体と従来材料の比較)

3.結 果
  本研究では,金属周期構造体の特性を把握し,2.45GHz/5.8GHz において要求性能以上の電波吸収体を実現できた。そして,従来材料との特性比較を行うことにより,従来材料の課題解決を検証することができた。