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音響評価機器を活用した騒音対策技術 −多層壁の遮音性能が予測可能に−

■機械金属部 ○吉田勇太,新谷隆二

1.目 的
 工場の設備機械等から発生する騒音を防ぐためには,遮音壁による対策が一般的である。遮音壁の遮音性能は壁を厚くすることで向上するが,コストや重量が増加するため施工性が悪くなる。そこで,薄く,軽量で高い遮音性能を得るためには遮音材料と吸音材料を組み合わせた多層構造が有効であり,最適な材料の組み合わせを求めるための試行錯誤が必要である。本稿では,多層構造における遮音・吸音性能の予測技術についての評価を行ったので,その結果を報告する。

2.内 容
2.1 遮音・吸音性能の予測手法
 遮音性能とは,入射音に対して壁を透過する音がどれだけ小さくなったかを表し,遮音材料は音を遮断したい場合に用いられる。また,吸音性能は入射音に対してどれだけ吸音されたかを表し,吸音材料は音の反射を抑えたい場合に用いられる(図1)。
 遮音性能は壁を伝わる固体伝播音や壁の振動と関係するため,その計算に材料の剛性や重さなどの弾性特性を示すパラメータを使用する。また,吸音性能の計算では,上記と同様の弾性特性に加えて,材料内部で音が熱に変換されるときの熱交換損失や空気の粘性損失などの流体特性を使用する。
 鋼やアルミニウムなどの一般的な材料の弾性特性は,既知の値として知ることができる。一方,材料の流体特性は,一般的に知られていない値を含むため入手しにくいが,吸音性能から逆算することで取得可能である。
 材料の4つの弾性特性と5つの流体特性が,多孔質系吸音材料の性能を精度良く表す特性として,Biot(ビオ)パラメータと呼ばれている。Biotパラメータは音響管を用いて取得した吸音率をもとに逆推定できる(図2)。逆推定には,Biotパラメータ逆推定ソフトウェア(ESI製 Form-X)を使用した。また,特性値は試料の厚みを変えて測定データの数を増やすほど,より正確な値の取得が可能となる。本研究では,吸音材料に用いられるグラスウール,ロックウール,ポリエステル不織布,ウレタンフォーム,フェルトの5種類について取得した。
 多層構造の遮音・吸音性能は,個々の材料で得られた弾性特性,流体特性を用いて数値計算(ESI製 NOVA使用)により予測した(図3)。

(図1 遮音,吸音の説明)
(図2 遮音・吸音性能の特性値)
(図3 遮音・吸音性能の予測)

2.2 予測値の検証
 予測手法を使用するに当たり,実際の多層壁の遮音・吸音性能と一致するかどうかを確認する必要があることから,予測値と実測値の比較を行った。
 (1)遮音性能
 試料@:アルミニウム板とポリエステル不織布の2層壁(図4),試料A:炭素繊維強化複合材料(CFRP)の2重壁の間にグラスウールを入れた3層壁(図5)について予測値と実測値の比較を行った。なお実測値は残響・無響室で1uの試料を使用して測定した。
 図4,5の結果より試料@と試料Aの予測値と実測値はほぼ一致することを確認した。

(図4 試料@の遮音予測)
(図5 試料Aの遮音予測)

 (2)吸音性能
 試料B:グラスウール,フェルト,ウレタンフォームを積層した3層壁(図6)について予測値と実測値の比較を行った。予測値に用いた各吸音材料の特性値は2.1項で記した逆推定により取得し,実測値は音響管を用いて測定した値である。
 図6の結果より,予測値と実測値がほぼ一致することを確認した。

(図6 試料Bの吸音予測)

3.結 果
 予測した多層壁の遮音・吸音性能についての評価を行い,予測値は実測値とほぼ一致することを確認した。これにより,単層吸音材料のBiotパラメータが多層壁の遮音・吸音性能の予測手法として活用できることが分かった。
 この予測手法を用いると多層壁での材料の種類や厚み等の選定が容易になることから,今後,県内企業の騒音対策や遮音壁の開発に役立てていきたい。