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色素増感型太陽電池用電極の開発

■企画指導部  ○嶋田一裕,豊田丈紫,橘泰至,加藤直孝

1.目 的
 太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池は,エネルギー問題や温室効果ガス削減の対策として注目を集めている。現在,シリコンを原料とした太陽電池が世界の90%以上の市場を占めている。しかし,この種類の太陽電池はシリコンが非常に高価な材料で,製造工程も複雑なために高コストである。
 そこで新しいタイプの太陽電池である色素増感型太陽電池が,1990年代に発明された。これは,電極間に酸化チタン膜,色素(インク等の着色物質),電解質を挟むだけの簡便な構造かつ安価な材料で構成されている。また製造方法も塗布・印刷といった簡便な方法が使われており,低コスト化を図ることができる。さらに色素増感型太陽電池は,様々な色の色素を利用できるほか,微弱な光でも発電可能であり,既存のシリコン太陽電池の用途に加え,壁や窓への設置,意匠性の高いインテリアなどへの応用が期待されている。しかし,実用化にはさらなるコスト削減などが求められている。そこで,電池のマイナス側(以下,負極)は柔軟性のあるプラスチック部材を用いて作製し,電池のプラス側(以下,正極)は使用する白金の量を削減することで低コスト化を図る。装置を試作し,金属と樹脂のレーザ溶着に対する適用性を検討した。

2.内 容
2.1 発電原理
 図1に,色素増感型太陽電池の発電原理を示す。まず,色素が光を吸収し電子が発生(増感)し(@),その電子が色素から酸化チタン膜へ移動する(A)。次に電子は負極から外部回路を経由し,正極に移動し発電する(B)。最後に,電子は電解質(ヨウ素化合物)を介して色素に戻る(C)。以上の4ステップにより発電する。

(図1 色素増感型太陽電池)

2.2 プラスチック部材を用いた負極の作製
 従来,負極で用いる酸化チタン膜はガラス部材上で酸化チタン粒子を高温(500℃)で焼き固めて作製する。そのため,プラスチックなどの低融点の部材上には作製できない課題があった。
 そこで,図2に示す酸化チタンとの接着機能を持つ有機分子で覆った修飾白金ナノ粒子を新たに合成した。これにより修飾白金ナノ粒子を介して酸化チタン同士を接着することが出来る。図3に合成した修飾白金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像とヒストグラムを示す。粒径が3.9nm程度(標準偏差0.68nm)であり,粒径の揃ったナノ粒子であることが観察された。
 プラスチック部材上に酸化チタン粒子と新たに合成した修飾白金ナノ粒子の混合液を塗布することによって,室温で酸化チタン膜の作製を行った(図4)。湾曲させても膜が剥がれることはなく,発電することを確認できた。このことは,従来からのガラス部材のように高温処理装置を必要としないために製造プロセスの簡素化が図られるので,低コスト化に繋がる。また,柔軟性に優れているので用途拡大が期待でき,屋根等への設置に限らず屋内などの様々場所での利用が見込まれる。

(図2 酸化チタン粒子を接着する修飾白金ナノ粒子の構造)
(図3 TEM像及びヒストグラム)
(図4 プラスチック部材上での酸化チタン膜)

2.3 白金使用量の削減
 従来,正極には発電効率の良さと電解質の安定性から高価な白金を多く使用する蒸着白金膜が使用されており,高コストになる課題があった。そこで,負極の低温作製で用いた修飾白金ナノ粒子を用いることで課題の解決を図った。部材を室温で修飾白金ナノ粒子溶液に浸漬させる方法で白金電極を作製した。
 白金使用量は従来品(蒸着白金膜)の90分の1程度まで削減できることが,ICP発光分光分析装置を用いた定量分析により確認できた(表1)。また,発電効率は従来品とほぼ同程度であった。さらに,修飾白金ナノ粒子は非常に小さいので,光透過性に優れたものになり(図5),意匠性の広がりに加え,室内光と屋外光と言った両面から光を取り込んで発電することが可能となった。これらにより性能を低下させずに低コストが図られ,かつ意匠性も高めることが出来る技術を確立することができた。

(表1 白金使用量)
(図5 従来品と開発品の色素増感型太陽電池)

3.結 果
 色素増感型太陽電池用電極(負極および正極)を開発し,低コスト化や用途拡大を図ることが可能となった。
 (1)負極については,高温処理装置が不要となり,室温での作製を可能としたことで,プラスチック部材を用いた電極が作製可能となった。
 (2)正極については,白金の使用量を大幅に低減できたばかりではなく,優れた透過性を持つ電極が作製可能となった。