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ナノ粒子複合インクを用いた熱電変換モジュールの開発

■企画指導部 ○豊田丈紫,嶋田一裕,橘泰至,加藤直孝

1.目 的
 近年,身の回りにある光や熱,振動,電波などのエネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギー・ハーベスティング(環境発電)が注目されている。環境発電は,工場等の空調制御スイッチや環境モニタリング用センサー電源として応用が検討され始めている。一方で,熱を電気として回収可能な熱電変換技術を用いることで,廃熱を有効利用したセンサー用電源として利用できる。熱電変換とは,図1に示すように電池のプラスとマイナスにそれぞれ相当するp型とn型の2種類の熱電材料を組み合わせた素子に温度差をつけることで電力が発生する「ゼーベック効果」の原理を利用した発電方法である。当場では,熱源の規模に合わせて熱電素子の形や大きさを自由に形成することが可能な印刷技術を活用し,熱電変換素子の製造技術に関する開発を行ってきた(図2)。本報告では,従来に比べて材料の使用量を低減し製造工程を簡略化することで安価な環境発電を実現するため,低温焼付型のインクとインクジェット印刷で作製した熱電変換モジュールを開発したので紹介する。

(図1 熱電素子の概念図)
(図2 印刷法を用いた素子の製造方法)

2.内 容
 ある温度で部分的に溶解して接着し,更に導電性を持つ微粉末のガラス材料を導電性フリットと呼ぶ。本研究では,高い導電率を示すバナジウム系のガラス材料に注目し,2BaO・Fe2O3・7V2O5の組成のガラス材料を合成した。X線回折の結果から,本材料はガラスの特徴である非晶質構造であることを確認した。また,図3に示す熱分析結果から通常のガラスよりも転移温度(Tg=285℃)が低いことがわかった。接着効果が得られる結晶化温度(Tc)は361℃であり,この材料が低温のフリットとして適していることがわかった。
 次に,導電性フリットとしての効果を検証するため,ガラス材料を粉砕した微粉末を熱電粉末に対して5wt%添加してペレット形状に成型した後,500℃で1時間保持することで熱電素子を作製した。図4にn型素子の熱電特性を示す。同図よりゼーベック係数(熱電効果)は変わらすに,導電率はフリットの導入前後で1桁以上向上することが確認できた。また,n型粉末の素子化には通常1200℃以上の熱処理が必要であるのに対して,開発した導電性フリットを添加することで500℃の熱処理で同等の接着効果が得られ,熱電素子として機能することを確認した。また,p型素子においても導電率はフリットの添加による導電性の向上と接着効果が得られた。
 次に,本導電性フリットを用いてp型とn型の熱電インクを試作し,ディスペンサー方式のインクジェット印刷機(図5)にて24対の素子を電気的に接続した3cm×3cmの熱電変換モジュールを試作した(図6)。また,モジュールの発電特性を評価した結果,358℃の温度差で1.3mWの出力が得られた。これより720対で単3電池相当の電源として利用できる。

(図3 合成した導電性ガラスの熱分析結果)
(図4 n型熱電素子のフリット添加効果)
(図5 インクジェット印刷装置の外観)
(図6 熱電変換モジュールの製造工程)

3.結 果
 本研究では,従来に比べて製造工程を簡略化するため,導電性フリットを添加したインクを開発した。開発したインクは,500℃の熱処理で熱電粉末の素子化に必要な密着性が得られた。従来まで酸化物熱電材料は,p型とn型の焼結温度が異なるため素子化工程が煩雑になる課題があったが,導電性フリットを利用する本手法はp型とn型の接合を伴うモジュール化の一体成型を同一の焼結温度で可能とする有効な技術である。
 また,開発したインクとインクジェット印刷により熱電変換モジュールを試作して発電特性を評価した結果,720対の熱電変換モジュールを用いることで環境発電の電源として利用可能であることが分かった。今回開発した熱電変換モジュールは,機械的可動部を持たず小型化しても効率が低下しない特性を持つことから,省電力機器用に適した電源としての利用が望めるものと期待している。