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熱可塑性CFRPシートのプレス成形技術の研究

■企画指導部     ○多加充彦
■機械金属部       根田崇史,山下順広
■有限会社北鉄工所  北 文雄

1.目 的
 自動車産業では,車体の軽量化を図るため,鋼板部品を軽くて強い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部品に転換するニーズが高まっている。このようなニーズに対応するため,県内プレス加工業では,熱可塑性樹脂と連続炭素繊維織物を複合した熱可塑性CFRPシートに着目し,プレス加工による部品量産技術の開発に取り組んでいる。しかし,熱可塑性CFRPシートの成形は加熱により軟化した樹脂の流動を利用するもので,塑性変形を利用した金属材料の成形とは異なる金型構造とプレス機械の制御が必要となっている。さらに,熱可塑性CFRPの熱特性や機械的性質は,樹脂の種類や炭素繊維の配列により異なるため,これらの諸特性が成形性や成形品の品質に及ぼす影響を把握しておくことも必要不可欠である。
 そこで,本研究では,熱可塑性CFRPシートに対し,種々のプレス成形実験と成形品評価を行うことにより,量産化に向けた短時間成形可能なプレス成形技術について検討した。

2.内 容
2.1 プレス成形プロセス
 本研究では,図1に示すように成形品に合わせた形状に板取りした熱可塑性CFRPシートを予備加熱により軟化させ,加熱したシートを金型に投入してプレス加工する成形プロセスを採用し,短時間成形に必要な条件を探索した。
 予備加熱に使用した加熱装置は,スライド式の金網にシートを載せ,上下の近赤外線ヒータによりシートの両面を同時に加熱する方式で,板厚1mmシートの場合,60秒以内で350℃以上に加熱することが可能である。ここで,加熱温度は金型への搬送中の放熱を考慮し,樹脂の融解温度以上にしなければならないが,過熱による樹脂の劣化に注意を払う必要がある。
 プレスのスライドモーションは,図2に示すようにシート投入後,上死点から下死点まで下降し,一定時間下死点で保持した後,上死点に復帰して成形品を取り出すまでが1サイクルとなる。ここで,シートは金型との接触による熱伝導で冷却されるため,加圧は樹脂が固まる前に行う必要があり,下死点保持は,冷却で収縮する成形品の形状を安定化するために行われる。

2.2 プレス成形実験
 熱可塑性CFRPシートの特性やプレス成形条件と成形品の品質(特性)との関連性を把握するため,フランジ付丸絞り成形や角絞り成形実験を実施した。

(図1 プレス成形プロセス)

 丸絞り成形では,温調金型を用いて,金型温度を25℃,50℃,120℃とし,下死点保持時間を5秒,15秒,30秒の条件で実験を行った。
 角絞り成形では,絞り形状の直線部分を基準にして,シートの繊維配列の角度を[0/90]度と[-45/45]度とした場合について実験を行った。
 なお,各成形実験にはポリアミド樹脂(PA66)を繊維束3K(3000本)の直交綾織り炭素繊維で強化したシート(TEPEX dynaline201 : BOND LAMINATE社製)を用いた。

(図2 プレススライドモーション)

2.3 成形品の品質評価
 各成形実験で作製した成形品の品質は,表面観察,形状測定,実物強度試験等によって評価した。
 図3は,金型温度による丸絞り成形品の表面状態を外観観察および共焦点顕微鏡観察により比較したものである。この結果より,金型温度を高くすると表面が樹脂に覆われ光沢性に優れることがわかる。

(図3 金型温度による成形品表面状態の比較)

  図4および図5は,角絞り成形においてシートの繊維角度の違いによる成形性および圧縮試験による強度を比較したものである。成形性は,繊維方向が影響しており,フランジ部の材料の引き込み量やコーナ部の繊維配列に相違が生じている。また,強度・剛性も,同じ形状でも[-45/45]度の方が優れていることが確認された。

(図4 繊維角度の違いによる成形性比較)
(図5 繊維角度の違いによる強度比較)

3.結 果
 熱可塑性CFRPシートについて,種々のプレス成形実験を行った結果,本研究で採用した成形プロセスの短時間成形に必要な条件を見出し,60秒以内の成形を実現した。
 また,成形品評価を行った結果,プレス条件やシート特性と成形品の品質との関連性を示すデータを蓄積することができた。