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熱可塑性CFRPプリプレグ製造技術の研究開発

■企画指導部 ○木水貢,奥村航
■繊維生活部   長谷部裕之

1.目 的
 炭素繊維強化複合材料(CFRP)は軽量で高強度・高弾性率という特性から鉄代替材料として注目され,宇宙や航空機分野で実績を挙げている。近年,CFRPの量産化に向けた検討が行われ,成形時間を短縮でき,リサイクル可能ということから,熱可塑性樹脂を使ったCFRPの開発が盛んになっている。この熱可塑性樹脂は熱で溶けたときの粘度が高く,炭素繊維間に樹脂が含浸しにくいため,CFRPの中に空隙(ボイド)が残り,強度等が十分に出ないという課題がある。
 そこで,本研究では成形で,ボイドの発生をしにくい方法として,炭素繊維織物に熱可塑性樹脂を塗布する(ラミネート)方法を試みた。ここでは,熱可塑性樹脂にポリプロピレン(PP)を用い,炭素繊維織物ラミネートを重ねたプリプレグ製造の検討結果を報告する。

2.内 容
2.1 PP樹脂を炭素繊維織物に塗布する試験(ラミネート試験)
  図1のフィルム成形押出機(潟vラスチック工学研究所製)を用いて,PPフィルムを試作してその成形条件を基に,炭素繊維織物を用いて織物へのラミネート試験を行った。この試験では炭素繊維に樹脂を含浸させるため,溶融した樹脂が接触するローラ温度条件を30〜120℃として試験を行った。その結果,110℃以上ではPPフィルムがローラ面に貼り付いた。そのため,ローラ温度を100℃以下として試験し,ラミネートした織物試料の剥離強度を測定したところ,ローラ温度100℃で一番強く,炭素繊維と樹脂の含浸性が向上した(図2)。

(図1 フィルム成形押出機)
(図2 ラミネート試料剥離強度試験)

2.2 プリプレグ試作
 プリプレグは,高温型プレス機(テスター産業叶サ)を用いたプレス成形により,PPフィルムと炭素繊維織物を交互に重ねる方法(フィルム法)とラミネートした織物を重ねる方法(ラミネート法)で試作した。プレス温度は,炭素繊維の間に樹脂が含浸する条件を,熱分析試験でPP樹脂の熱特性度を確認した上で決定した。
 図3にはプレス温度による曲げ強度の影響を示す。プレス温度が上昇することで曲げ強度,曲げ弾性率が増加した。また,図4にはプレス温度が外観に及ぼす影響を示す。力学特性はプレス温度が高いほど強くなるが,240℃と高すぎると図4に示すように炭素繊維織物の織組織が乱れた。これはプレス温度が高くなると,PP樹脂の溶融粘度が下がり流動性が増すことで樹脂が炭素繊維間へ含浸されるが,逆に流れ易くなり過ぎることで,織組織を乱すものと推察される。これらの結果から,プレス温度を220℃として成形を行った。
 図5には,フィルム法とラミネート法により試作したプリプレグの曲げ強度及びボイド率を示す。曲げ強度はほぼ同じであるが,ボイド率はフィルム法よりラミネート法で小さく,サイジング剤を除去することでさらに小さくなった。このことから,ラミネートにより予め炭素繊維にPP樹脂を含浸させることで空気が入りにくく,ボイド低減に寄与できることがわかった。

(図3 プレス条件による曲げ強度への影響)
(図4 プレス条件によるプリプレグ外観への影響)
(図5 フィルムとラミネートからのプリプレグの曲げ強度及びボイド比較)

2.3 接着性の検討
 PP樹脂は軽量で力学特性に優れ化学的に安定であるが,逆に表面や界面における化学的な反応が乏しいため,炭素繊維とPP樹脂との接着性が弱い。そのため,無水マレイン酸等の改質剤を添加し,接着性について検討した。図6には,無水マレイン酸添加による曲げ強度への影響を示した。無水マレイン酸を添加することで曲げ強度が向上し,1wt%添加したものでは無添加(0wt%)のものと比較して約3倍以上の強度を示すことがわかった。また,図7には,曲げ試験におけるプリプレグ破壊状況の断面写真を示す。無添加では,曲げ試験での破壊が炭素繊維とPP樹脂との間における界面で層間剥離のように起こっているが,無水マレイン酸を加えることで層間剥離だけでなく炭素繊維自体も切断されるようになった。

(図6 無水マレイン酸添加による曲げ強度)
(図7 曲げ試験によるプリプレグの破壊状況)

3.結 果
 本研究では,プリプレグ作製においてよりボイドの発生をしにくくする方法として,炭素素繊維織物に熱可塑性樹脂をラミネートする方法を試みた。その結果,ラミネート法を用いることで曲げ強度が同等で,ボイド率を低減することができた。また,炭素繊維とPP樹脂との接着性についても検討し,無水マレイン酸を添加することで接着性が向上することがわかった。