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無鉛和絵具における焼成温度の低温化の研究

■九谷焼技術センター ○木村 裕之 高橋 宏

1.目 的
 九谷焼は,高い透明感と独特の色調を持つ「九谷五彩」と呼ばれる色鮮やかな和絵具による装飾がその大きな特長として知られている。陶磁器の上絵具は,800℃前後で溶融する無色透明のフリットと呼ばれるガラスの粉砕物に,遷移金属元素や顔料等の着色剤を混合したものからできている。上絵具の母材であるフリットの成分として酸化鉛が使用されている。鉛は重金属であり,人体に影響を与えるため,食品衛生法により「陶磁器製品からの溶出規格基準」が定められている。1999年にISOの溶出基準の改正(規制値の強化)が行われ,これを受けて食品衛生法においても改正が行われた(2009年8月1日から新規格基準(表1)が実施)。この規制値強化により,業界において無鉛和絵具のニーズが高まっている。
 このような中,業界から無鉛和絵具についての強い改善要望を受けた。従来の鉛を含んだ絵具では800℃前後の焼成温度で,図1上のように製品同士を重ね合わせる重ね焼き(センガイ)という方法で焼成を行う。しかし,無鉛和絵具の焼成温度は850〜870℃であり,鉛を含んだ絵具に比べ50℃程度高く,830℃を超えると素地表面に使用されている釉薬が軟化し,更に製品の重さも加わり融着してしまう。このため,無鉛和絵具の焼成の際には,図1下のように耐火物の板で段組みをして焼成を行う。このような無鉛和絵具の焼成では,一度に焼成できる製品数が少なくなることから,作業性や製造コストが大きな問題となる。そこで,鉛を含んだ絵具の焼成温度帯(800〜820℃)で使用可能な無鉛和絵具の開発を目的とし,研究を行った。

(表1 陶磁器製品からの溶出規格基準)
(図1 重ね焼き(上)と段組み(下)による焼成の図)

2.内 容
2.1 低温焼成用無鉛和絵具の材料開発
(1)無鉛フリットの試作・検討
  無鉛フリットを5種類試作し,着色剤を加えず,個々の無鉛フリットについて絵付け・焼成し,透明性及び耐酸性について検討を行った。更に,試作した無鉛フリットについて混合比率を変化させることにより,透明性及び耐酸性について検討し,無鉛フリットの混合割合の決定を行った。焼成は,790℃まで4時間で昇温させ10分間保持により行った。透明性の評価は,目視により行った。耐酸性の評価は,焼成試料を4%酢酸溶液に24時間浸し,溶出したナトリウム濃度を測定した。
(2)着色剤及び添加剤の検討
  九谷焼に使用する基本色の黄,青(緑),紺,紫について,色素及び添加剤等の検討を行った。試作した絵具を絵付け・焼成し,発色,透明性及び耐酸性について検討を行った。焼成は2.1(1)と同じく790℃で行った。耐酸性の評価も同じく溶出ナトリウム濃度を測定した。

2.2 低温焼成用無鉛和絵具の使用試験
  試験場の設備を使用して700g規模で絵具の試作を行った。試作した絵具を九谷上絵協同組合に提供し,組合で選定した絵付け職人に,使い易さ,発色や溶融状態等の確認のために使用試験を行った。

3.結 果
3.1 低温焼成用無鉛和絵具の材料開発
(1)無鉛フリットの試作・検討
 透明性及び耐酸性について検討の結果,5種類の無鉛フリットから3種類選定した。更に3種類の無鉛フリットの調合割合も決定した。結果,絵具の基礎となるガラス組成が決まった。
(2)着色剤及び添加剤の検討
・青絵具について
 銅系色素,コバルト系色素及び添加剤を使用し,発色及び耐酸性について良好な結果を得た。
・黄絵具について
 プラセオジウム系色素,アンチモン系色  素及び添加剤を使用し,良好な結果を得た。
・紺青絵具について
 コバルト系色素,銅系色素及び添加剤を使用し,良好な結果を得た。
・紫絵具について
 コバルト系色素,銅系色素,金微粒子及び添加剤を使用し,良好な結果を得た。

3.2 低温焼成用無鉛和絵具の使用試験
  使用試験の結果,低温焼成用無鉛和絵具を使用した試作品を図2に示す。また,使用者の意見を取り入れて,黄及び紫絵具について色調調整を行った。

(図2 低温焼成用無鉛和絵具を使用した試作品)

4.技術移転及び無鉛和絵具の普及
  3の試作及び使用試験の結果を受けて,九谷上絵協同組合への技術移転を行った。現在では,製造・販売を開始している。
  九谷上絵協同組合で製造した絵具を使用して、厚みと焼成温度の違いによる色見本、中間色の色見本、顔料添加による色見本等を作成し、今後,無鉛和絵具の普及に活用していく。