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伝統発酵食品への先進的発酵システムの利用と新規機能性食品開発 -新規発酵食品の試作事例-

■化学食品部 ○勝山 陽子 辻 篤史 中村 静夫
■企画指導部 道畠 俊英

1.目 的
 石川県では豊富な農産・海産資源を活かした伝統的発酵食品が古くから多種製造されており,近年これらの食品の生理活性機能が明らかにされつつある。しかし,機能性成分を生成する微生物の菌種や発酵過程での消長といった発酵過程のメカニズム等は解明されていないのが現状である。そこで,石川県立大学,金沢大学,県内企業と連携し,微生物叢解析,食品機能評価技術,速醸等の先端技術を活用し,生産技術のイノベーションを行うとともに安全性テスト,人における実証試験等を経て,科学的エビデンスに基づいた高い付加価値をもつ機能性食品を開発し,新産業の創出を目指す取り組みを行っている。
 本発表では,発酵微生物のうち特に乳酸菌に着目し,3種の新規発酵食品の開発を目指して試作を行った結果について報告する。

2.内 容
2.1 お米ヨーグルトの試作
 (株)福光屋製「おこめみるく(プレーン)」20mLを乳酸菌639株(L. plantarum:JCM1149(pickled cabbage由来))で30℃静置発酵させ,乳酸菌数,pH並びに官能評価の経時変化を追い,発酵条件の検討を行った。その結果,24時間程度でpH3.5以下までの低下が見られ,乳酸菌数は1×108cfu/mL以上となることを確認した(図1)。また,官能評価により,24時間以上の発酵液では酸味が強くなりすぎることが確認できたことから,30℃における発酵では24時間が適当な発酵時間であることが明らかとなった。なお,発酵時間の経過とともに乳酸量が増加していることを確認しており,24時間発酵液の乳酸量は550mg/100mLであった。さらに「おこめみるく」9Lを乳酸菌639株で30℃,24時間発酵させたところ,20mLの発酵試験と同様の発酵液が得られた。本発酵液をレトルト殺菌したものを「お米ヨーグルト」とし,試飲アンケートを行った結果,酸味や甘味,並びにそのバランスについてはちょうど良いという意見が多数であった(図2)。しかし,味は少し濃いという意見が多く,麹臭さが気になるといったコメントもあり,商品化に向けた課題が得られた。

(図1 「おこめみるく」発酵液の乳酸菌数及びpH)
(図2 「お米ヨーグルト」の試飲結果)

2.2 豆乳プリンの試作
 (株)金沢豆腐製豆乳20gを乳酸菌LB-K-2株 L. plantarum (kaburazushi由来)で30℃静置発酵させ,乳酸菌数,pH並びに官能評価の経時変化を追い,発酵条件の検討を行った。その結果,24時間程度でpH5程度までの低下が見られ,乳酸菌数は1×108cfu/g以上となることを確認した。また,24時間程度経過すると発酵物は乳酸の生成によりゲル化することが確認された。さらに,(株)金沢豆腐製豆乳200gに50%グラニュー糖水溶液40gを添加したものを,乳酸菌LB-K-2株で30℃,24時間発酵させて豆乳発酵物を得た。豆乳発酵物を加熱殺菌したものを「豆乳プリン」とし,試食アンケート(30名)を行った結果,硬さやなめらかさが足りないといの意見が多く得られた。そこで「豆乳プリン」の加熱前後における硬さの比較を行うために,レオメーターにて破断荷重を測定した。その結果,加熱後サンプルでは,加熱前サンプルの約2.7倍の破断荷重を示し,加熱により硬くなっていることが明らかとなった。商品化に向けては,食品添加物の添加等によるテクスチャの改善が課題であることが判った。

2.3 酒粕アイスの試作
 (株)車多酒造製酒粕を凍結乾燥して得られたフリーズドライ酒粕を(FD酒粕)を,水:50%ショ糖水:FD酒粕=10:2:1の比率で混合したものを原料とし,乳酸菌LB-K-2株 L. plantarum (kaburazushi由来)で30℃静置発酵させた。乳酸菌数,pH並びに官能評価の経時変化を追った結果,24時間でpH3.6までの低下が見られ,乳酸菌数は1×108cfu/g以上となることを確認した。本酒粕発酵物60mLに対して,卵3個,砂糖70g,生クリーム200mLを混合したものを加えてフリーザーにて凍結し,得られたものを「酒粕アイス」とした。試食アンケート(30名)を行った結果,全般的に好評であったが,酒粕の風味が弱いとの意見もあり,商品化における課題が得られた。

3.結 果
 発酵食品より分離された乳酸菌を用いて,発酵条件の検討を行い,お米ヨーグルト,豆乳プリン,酒粕アイスの試作を行った。その結果,今回用いた乳酸菌株及び原料の組み合わせに関しては,いずれにおいても30℃の発酵温度では,約24時間程度でpH低下が安定化し,得られた試作品の評価は概ね良好であった。今後は,今回得られた結果を基に,機能性の高い分離乳酸菌を用いた発酵試験と試作を行い,新規高機能食品の開発を支援していく予定である。

謝 辞
 本事業は文部科学省・地域イノベーションクラスタープログラム(都市エリア型)として実施されました。ご支援を頂いた関係各位に感謝します。