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能登の魚醤油「いしり」を用いたサプリメントの開発

■化学食品部 ○笹木 哲也 勝山 陽子 武 春美 中村 静夫
■企画指導部 道畠 俊英
■石川県立大学 榎本 俊樹 小柳 喬 谷口 肇
■(株)車多酒造 油谷 美幸 河道 真理 徳田 耕二

1.目 的
 石川県奥能登地方では,「いしる,いしり,よしる,よしり」(以下,いしり)と呼ばれている魚醤油が古くから造られている。我々は,いしりにはアミノ酸,ペプチド,タウリンが多く含まれること,また優れた機能性(抗酸化性,血圧上昇抑制効果)を持つことを明らかにしてきた。しかしながら,いしりは高濃度の塩分(25%程度)を含んでおり,調味料や機能性食品素材として利用するうえで大きなネックとなっている。そこで,優れた特徴を残したまま,塩分を取り除いた脱塩いしりの調製を試みた。さらに,いしりのサプリメントを開発するため,脱塩いしりの粉末化,錠剤化について検討した。

2.内 容
2.1 いしりの脱塩技術
  本研究では,市販のイカいしり((有)カネイシ製),およびイワシいしり(ヤマサ商事(株)製)について,電気透析装置(マイクロアシライザーS3,旭化成(株)製)による脱塩を試みた。電気透析法はイオン交換膜に挟まれた試料に電気を流すことで試料中のイオンを排出する技術である。アミノ酸などの呈味成分,機能性成分を維持したまま塩分だけを除去できるように,分画分子量100のイオン交換膜を用いた。図1にイカおよびイワシいしり1Lを電気透析処理した場合の電気伝導度,塩分濃度の経時変化を示す。電気伝導度は,脱塩開始後150分前後までほぼ一定で推移し,その後急激に低下した。一方,塩分濃度はほぼ直線的に減少し,いしりは約250分で完全に脱塩された。また,遊離アミノ酸,タンパク質などの有用成分,抗酸化性や血圧上昇抑制効果などの機能性は,電気透析処理後も残存していた。

(図1 電気透析処理による伝導度と塩分濃度の経時変化)

2.2 いしりサプリメントの試作
  脱塩いしりに乾燥性の高いトレハロースを賦形剤として添加し,熱風乾燥法によるいしりの顆粒化を試みた。熱風乾燥法は試料に熱風を吹き付ける乾燥法で,野菜や水産加工品などの乾燥に一般的に使われている方法である。完全脱塩いしり液100 mlをステンレストレイに入れ,熱風乾燥(60 ℃,風速約0.4 m/s)で約3時間乾燥した。その後,トレハロース((株)林原製)を約50g(いしりエキス分に対し3倍量)添加し,混練,ミキサー粉砕した後,一晩熱風乾燥(60 ℃,風速約2 m/s)した。続いて,保存性を高める目的で1 %プルラン水溶液を噴霧し,さらに3時間熱風乾燥(60 ℃,風速約2 m/s)した。得られた粉末を4 mmから500 μmにふるいで分級し,いしり顆粒を作製した。(図2)
  続いて,いしり顆粒にショ糖脂肪酸エステルを滑沢剤として3%添加し,φ7mmの円筒金型に入れて,油圧プレス機により荷重1tで打錠成型した。試作した錠剤の写真を図2に示す。錠剤の硬度を錠剤硬度計(大岩薬品機械(株)製)で測定したところ,実用レベルの5kgfを上回った。なお,顆粒,錠剤のどちらの形態でもサプリメントとして利用可能である。

(図2 いしりサプリメント)

2.3 いしりサプリメントの成分,機能性評価
  試作したイカ,およびイワシいしりサプリメント(顆粒タイプ)とM社,Y社の天然素材サプリメントの有効成分,機能性の評価結果を表1に示す。いしりサプリメント100gあたりの総遊離アミノ酸量は約18g,タウリン量は400-1000mgであり,他社製品よりも多く含まれていた。いしりサプリメントのDPPHラジカル消去能(抗酸化性)は4-7μmol/g(没食子酸相当量)であり,いしりの機能性がそのまま維持されたサプリメントであることが確認された。さらに,イカいしりサプリメント(顆粒タイプ)のモニター試験(30人,1ヶ月,対象:一般ユーザー)を行った。その結果,「今後も購入したい」と回答した人が33%であり良好な結果が得られた。なお,製造コストから販売価格を試算した結果,市販サプリメントと同等以下に設定可能である。

(表1 各種サプリメントの有効成分と機能性)

3.結 果
  電気透析法によるいしりの脱塩,脱塩いしりの顆粒化,錠剤化により,いしりサプリメントを試作した。いしりサプリメントは,他社製品よりも遊離アミノ酸,タウリンが豊富で,高い機能性を示す食品素材であった。天然素材のサプリメントとして,応用が期待される。なお,脱塩,顆粒化技術は,減塩いしり,いしり粉末調味料の開発への活用も可能である。

謝 辞
  本研究を遂行するに当たり,顆粒化に関してご助言を頂いた(株)林原商事片桐直彦氏に感謝します。本研究は経済産業省「平成20年地域資源活用型研究開発事業」,「平成21年地域イノベーション創出研究開発事業」として実施されました。ご支援を頂いた関係各位に感謝します。