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制御盤自動配線装置の開発 ―画像処理技術の応用―

■電子情報部 ○笠原 竹博 上田 芳弘 米沢 裕司
■ライオンパワー(株) 山戸 博一 八田 直樹 北森 英明 和佐 田進
■石川工業高等専門学校 三吉 建尊 越野 亮

1.目 的
 制御盤(図1)は工作機械,鉄道車両など多様な装置を制御するために用いられており,その製造はすべて人手作業で行われている。特に,ワイヤーハーネスの配線作業が製造所要時間の80%以上を占めており,数百〜数千本のハーネスを配線するため,人手作業では誤配線やネジ締め不良などの問題が発生している。そこで,製造工程の効率化と製品の信頼性向上を目指して,ハーネスをネジ締め結線する工作機械用制御盤と,差し込み結線する鉄道用制御盤を対象に自動配線装置の開発を進めている。本開発において工業試験場は,画像処理技術を用いて,配線用ダクトやネジの位置検出,ロボットによるハーネス端子把持状態の検査および,結線検査の機能開発を担当している。

(図1 制御盤外観と構成要素)

2.内 容
 開発中の自動配線装置は,あらかじめ電気部品とダクトが取り付けられた制御盤の中板に対して,ロボットハンドによりハーネスをダクト内に引き回し,ダクト穴に通し,電気部品にハーネス端子をネジ締めあるいは差込みを行い,結線することを繰り返す(図2)。
 電気部品とダクトの取り付けは人手作業で行うことから,設計位置からのズレが発生するため,画像処理により正確な位置を検出する。ダクト穴位置検出では,穴通しの際のハーネスとダクト穴端との摩擦によるハーネス損傷を防ぐためにハーネス径や変形特性を考慮して目標精度は1.00mm以内とした。また,ネジ位置検出の目標精度は0.10mm以内した。これはネジとドライバーの形状を詳細に調査・測定したところ0.39mmの許容誤差が得られたため,この値を画像処理誤差とハンドを移動させるステージなどの可動機械的誤差とで配分したことによる。これらの精度を目標として,ダクト穴位置とネジ位置検出機能の開発を行った。

(図2 装置概要)

2.1 ダクト穴位置検出機能
  ダクトを撮像した画像に対して,キャリブレーション,エッジ抽出,太線化処理,粒子解析処理などを組み合わせることでダクト穴位置を検出するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムの概要は,配線前で空のダクト内側を撮像し,等間隔で続くダクト穴のエッジを認識することで,ダクト穴の内側に映る景色に依存せずダクト穴位置を検出することを実現したものである。このようなダクト穴検出機能の精度を評価したところ,前述の要求精度1.00mm以内に対して,0.04±0.14mm(3σ)の精度を得た(図3)。

(図3 ダクト穴位置検出の誤差)

2.2 ネジ位置検出機能および端子把持検査機能
  電気部品を撮像した画像に対して,ネジモデル画像を用いてパターンマッチング(以下,PM)を実施することとした(図4)。評価実験の結果,前述の要求精度0.10mmに対して,0.09±0.03mm (3σ)の精度を得た。
  また,PMを用いず,特徴量抽出と学習を用いてネジ位置検出を行う機能を開発した。この方式はモデル画像が不要なため,新しい種類の電気部品やネジに対しても位置検出が可能となるので有益である。評価の結果,4個以上のネジを持つ電気部品に対して実用上十分な98.7%以上の検出率を得たが,位置精度が要求精度を満足していないため,今後精度の向上を目指す。
  端子の種類の1つである鉄道用ハーネス端子を扱う場合に,柄の長い端子をクランプハンドで把持する必要がある。この把持が適正でない場合は,その後の差込結線作業に不具合を生じるためにロボットハンドによるハーネス端子把持検査を行っている。そこで把持状態を撮像した画像に対して,クランプの左右のモデル画像と端子先端モデル画像を用いてPMを実施することで,3点の位置情報から把持の確認検査を行う機能を開発した(図5)。その結果,端子のどの位置を把持したかという把持位置の検出および基本的な把持状態の認識が可能になった。

(図4 ネジ位置検出)
(図5 鉄道用端子把持検査)

3.結 果
  本研究では,画像処理を用いて制御盤自動配線装置に必要な機能の開発を行った。これらの開発に加えて,照明機器の検討を行った。製造現場で実用する場合,工場内での照明や太陽光などが外乱光として悪影響を及ぼす可能性がある。これを防ぐため,装置開口部は青色透明フィルターで覆い,照明に赤色LEDを,レンズに赤色透過フィルターを用いた。また金属部品などからの反射影響を低減するため,LED照明に拡散フィルターを用いた。今後は画像特徴量を用いたネジ位置検出の精度向上を図っていく。さらに,端子把持検査機能の実機評価を行うとともに,結線後にネジ締めが適正に実施できたかを検査する結線検査機能の開発を進める。