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プリント基板における銅マイグレーションの評価

■電子情報部 ○筒口 善央 米澤 保人 奥谷 潤

1.目 的
 マイグレーション(エレクトロケミカルマイグレーション)は,電極や配線から電気的または化学的要因により溶出した金属イオンが電極間や配線間を移動し,他方の電極や配線から金属を生成する現象であり,短絡故障を引き起こす。電子機器は,部品の小型化,回路の高密度化によって配線パターン間隔が狭くなり,銅のマイグレーション現象による故障の増大が懸念されている。そこで,プリント基板において,電界強度及びはんだレジストが銅マイグレーションに与える影響を明らかにするため,評価方法を確立し,その発生メカニズムを解析した。

2.内 容
2.1 銅マイグレーションの評価方法
(1)試験基板
  電界強度による影響を調べるため,試験基板の回路パターンは図1に示すように配線間隔0.3mm〜2.0mmの 5種類の配線間隔を持つ櫛型電極にした。また,はんだレジストによる影響を調べるため,はんだレジストなしと熱硬化及び紫外線硬化樹脂を用いた3種類の基板を作成した。
(2)評価システム
  図2に示すような評価システムを作製した。試験基板の配線間抵抗が108Ω以下への低下を銅マイグレーションによる短絡現象の発生目安とし,分圧抵抗を用いて電圧(Vx)の時間変化を計測するシステムとした。
(3)評価試験
  試験基板を60℃90%rh環境中で,各配線間に400Vを印加し,先の評価システムを用いて,2000時間まで,銅マイグレーションによる短絡現象の発生を観察した。

(図1 評価用プリント基板)
(図2 銅マイグレーション評価システムの模式図)

2.2 銅マイグレーションの評価試験の結果
(1)銅マイグレーションの発生
  評価試験の結果,はんだレジストなしと熱硬化樹脂基板では,2000時間において銅マイグレーションの発生は確認できなかった。一方,紫外線硬化樹脂では,0.3mm配線間において最短約360時間で銅マイグレーションの発生を示す配線間抵抗の減少がみられた。
(2)紫外線硬化樹脂における電界強度と銅生成物の成長
  銅マイグレーションが発生した紫外線硬化樹脂基板の各配線間における銅生成物の長さを計測した。その結果,図3に示すとおり銅生成物の長さは配線間の電界強度にほぼ比例していた。

(図3 電界強度と銅生成物の成長(紫外線硬化樹脂基板))

2.3 紫外線硬化樹脂における銅マイグレーションの発生メカニズムの解析
(1)銅生成物の成長
  図4(a)に示すように,銅生成物は,正極から発生した。電極間の銅生成物の成長メカニズムを調べるため,図4(a)に示す観察位置で,はんだレジスト膜断面における銅の分布状態をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で調べた。その結果,図4(b)に示すように,銅生成物の成長が基材とはんだレジスト間ではなく,はんだレジスト表層に沿って進んでいることが分かった。このことから,表層への水分吸着が銅マイグレーションの発生要因と考えられる。
(2)溶出イオン評価
  図4(a)に示した銅生成物は,負極から発生する一般的なマイグレーションとは異なっていたため,銅マイグレーションの発生は介在する不純物イオンが要因の1つと考えられる。この不純物イオンを特定するため,イオンクロマトグラフにより,基板上の溶出イオンを計測した。その結果,陰イオンは検出されず,陽イオン(Na+,NH4+,Ca2+)が検出された。プリント基板の基材に含有されているアンモニア成分が加水分解により溶出し,NH4+イオンとともに生じたOH-イオンが正極の銅と反応して,酸化銅が成長したことが報告されている1) 。今回の結果は,はんだレジストなし基板では起きていないことから,はんだレジスト中から溶出した陽イオンがマイグレーションの発生要因と考えられる。

(図4 マイグレーションによる銅生成物成長の解析(紫外線硬化樹脂基板))

3.結 果
  銅マイグレーション評価試験において,銅マイグレーションが発生した紫外線硬化樹脂基板について解析を行い,以下のことが分かった。
(1)マイグレーションによる銅生成物の長さは配線間の電界強度に比例する。
(2)銅生成物の成長は,はんだレジスト表層で起きた。表層の水分吸着がマイグレーションにおける銅イオンの移動経路を形成したと推定される。
(3)銅生成物は陽イオン(Na,NH4,Ca2+)が介在して発生し,正極から成長したと考えられる。

謝 辞
本研究は(独)科学技術振興機構(JST)の地域イノベーション創出総合支援事業「シーズ発掘試験」に基づき行った。
参考文献
1)プリント基板の試験と評価,電気学会・イオンマイグレーションの発生特性と防止方法調査専門委員会編,オーム社,2007,p.26