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紫外線利用による合成高分子の高機能化技術の開発

■繊維生活部 ○神谷 淳 奥村 航

1.目 的
 低価格の海外生産品との差別化から,繊維加工業では新製品開発が不可欠である。本研究では,分子内部に機能性成分を取り込み,安定化や徐放効果などの特異な性質を示す環状構造のシクロデキストリン(以下CD)の性能に着目し,その性能を活かした高付加価値製品の開発を目的とした。

2.内 容
2.1 シクロデキストリン含有プレポリマーの合成
  分子中央に空洞を有している糖の一種であるCDは,それぞれ内径が異なるα,β,γCDが存在する(図1)。近年ではCDは消臭剤や食品,飲料等へその用途が広がっている。また,CDは水溶性であるが,重合でポリマー化し,不溶化が可能になれば,これまで利用できなかった分野への用途拡大が見込める。そこで,処理時間が短く,重合時に廃液が出ない等の利点がある紫外線重合に着目した。しかしながら紫外線重合させるには,重合部分をCDに付与させたプレポリマーを合成する必要がある。合成反応は工業的に入手が容易な試薬を用い,なるべく低い反応温度で行うため,触媒として酸あるいは酵素を種々検討した(表1)。その結果,ジメチルホルムアミド(DMF)中で触媒としてリパーゼ,付加させる重合部分としてメタクリル基ビニルを用いることで,CDに二重結合(重合部位)を付加させたプレポリマーを効率良く合成できることを見出した。また,1H-NMR測定から,合成したプレポリマーには重合部位がα,β,γCDそれぞれで7.4,10.2,8.5個付加しており,重合に充分な状態であることを確認した。

(図1 αシクロデキストリン)
(表1 プレポリマーの合成条件)

2.2 紫外線照射によるポリエステル布への固定化
  合成したCDプレポリマーの溶液に重合開始剤(イルガキュア2959,チバスペシャリティケミカルズ製)を添加した。この溶液をポリエステルフィルム上に延ばし,紫外線照射したところ,水にもアルコールにも不溶化する固体が得られ,CDがポリマー化することを確認した。
  次に,布へのCD固定化を検討した。重合開始剤を添加したα,β,γCDプレポリマーの5wt%溶液にポリエステル短繊維織物(目付108g/m2,たて糸密度51本/cm,よこ糸密度35本/cm)を浸せきし,マングルでピックアップ量を調整後,自然乾燥した。この布をコンベアで搬送しながら連続的に紫外線を照射することで,重量増加率3.1〜3.4%のCDポリマー固定化布を得た。なお,照射条件は4.8kWメタルハライドランプ3灯,線源距離200mm,コンベア速度 5m/minとした。

2.3 機能性物質(ヨウ素)の固定化
  前項で調製したCDポリマー固定化布に対し,機能性成分として抗菌性を示すヨウ素の固定化を試みた。ヨウ素は多くの細菌に対して抗菌効果を示すが,高い揮発性のため通常では長期保存が困難な物質である。
  CDポリマー固定化布を5mMヨウ素溶液に浸せきし,マングルでピックアップ量を調整,自然乾燥させ,ヨウ素を布に固定化した。未処理布の場合は,乾燥と共にヨウ素由来の褐色が退色し,ヨウ素の揮発が認められたが,CDポリマー固定化布は一昼夜経過後も濃褐色が残存し,ヨウ素が固着されていると考えられた。
  また,ヨウ素を固定化した布の抗菌性を調べたところ,(社)繊維評価技術協議会における抗菌効果基準をクリアしており,さらに基布との色差(ΔE*ab)が約3以上あれば,抗菌性を示すのに充分であることを確認した(表2)。加えて保存耐久性を検討するために,室温で100日放置後にヨウ素固定化布の色差を測定したところ,αCDポリマー固定化布の場合17.4,βCDの場合で7.5,γCDで4.4となり,いずれもヨウ素を充分に保持しており,抗菌性能を保っていることが示唆された。特に,αCD固定化布がヨウ素の保存性能に優れていることがわかった。
  さらに,最もヨウ素保持性能が良かったαCDポリマーを用い,抗菌性を有する靴の中敷きを試作した(図2)。

(図2 試作品)
(表2 ヨウ素固定化布の色差と抗菌性能)

3.結 果
(1)酵素を触媒に用いることで,温和な条件でCD含有プレポリマーを合成できた。
(2)ポリエステル布にCDを紫外線で固定化することが可能になった。
(3)CD固定化布はヨウ素を吸着し,抗菌性能を示した。色差から100日保存後でも抗菌性能が残存すると考えられる。