簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:248KB、2ページ)

組紐を用いたFRP用立体高性能基布の開発

■繊維生活部 ○森 大介 吉村 治 守田 啓輔

1.目 的
 組紐(組物)は織物や編物と並ぶ繊維製品の一つであり,製品の長手方向に対して複数の糸が互いに斜めに交差することによって形成されており,円筒形状(丸打ち)と平板形状(平打ち)に分類される。我が国における組紐の歴史は,土器の文様に見られるように縄文時代にまで遡り,武具等の装飾品から着物の帯締め等に用いられてきた。近年は靴紐やロープ等に加えて,携帯電話のストラップ等にも利用されている。一方,炭素繊維強化材料(以下、CFRP)は高強度や軽量性という特徴から主に航空宇宙分野に用いられてきたが,今後,自動車や産業機械分野等において需要の伸びが期待されている。
 本研究は,組紐を長手方向に異なる断面を有するCFRPの立体基布製造手法として活用するため,糸ボビンの回転速度やマンドレルの移動速度の関係等を実験及び解析により調べた。その結果を基に瓢箪や円錐形状の組紐やCFRP等の試作開発を行ったので報告する。

2.内 容
2.1 組紐構造
 組紐は,ブレード装置(図1)の軌道上を糸ボビンが移動する回転運動とマンドレルが移動する直進運動を合成することにより,3次元の筒状に形成される(図2)。CFRPの強度や弾性率等の性能を左右する要因の一つに糸の配列(組角度)があり,長手方向に異形断面を有する組紐工程においては,糸をCFRP等の強度設計に応じた所定の組角度に傾斜させることが要求される。

(図1 ブレード装置(組紐機))
(図2 組紐構造)

2.2 組紐製造条件のシミュレーション
 本研究は,糸ボビンの回転速度を一定とし,マンドレルの移動速度を変化させることにより,所定の組角度が得られる方法を用いた。図3より,組角度は糸ボビンの回転速度とマンドレルの移動速度に加えて,マンドレルの形状,糸の長さ等から解析することができる。これらの関係からシミュレーション用のプログラムを作成し,マンドレルの移動速度や組角度等を求めた。
 円錐と瓢箪形状のマンドレルを用いた場合のシミュレーション結果を図4,図5に示す(Z方向がマンドレル移動方向)。また,円錐形状のマンドレルを用いた場合のマンドレル移動速度の変化を図6に示す。
 図4,図5より,円錐と瓢箪形状のマンドレルの軸方向(Z方向)に対して,糸が組角度一定で傾斜しており,組角度が大きいほど多くの糸量が必要となることがわかる。
 図6より,組角度を小さくするには,マンドレルの移動速度を大きくする必要があり,また,断面形状の半径が小さくなるに従って,マンドレル移動速度を小さくする必要があることがわかる。
 組角度を30°→60°→30°に変化させた場合の応答性を図7に示す。組角度を大きくする場合は小さくする場合と比較して組角度が安定するのに要する時間が長く,また,補助リングを用いることにより,組角度の応答性が向上している。

(図3 解析モデル)
(図4 円錐のシミュレーション結果)
(図5 瓢箪のシミュレーション結果)
(図6 マンドレル形状と移動速度)
(図7 組角度の応答性)

2.3 立体組紐とCFRPの試作
 前述のシミュレーションの結果を基に,瓢箪や円錐(バット)形状のCFRP等を試作した(図8)。具体的には水溶性の粘土材でマンドレルを作製し,組紐加工と樹脂成形加工後にマンドレルを水で溶かして除去した。糸は東レ製炭素繊維T700-12K,樹脂は昭和高分子製ビニルエステルを用いた。

(図8 試作CFRP例)

3.結 果
 複雑な最終成形品(マンドレル)に対して,マンドレルの移動速度を制御する手法について製造条件の確立を目指した。この手法による立体組紐やCFRPは,織物等を裁断して巻き付けた場合と比較して,シームレス(糸の切れ目がない)で優れた強度特性等を有している。