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加圧プロセスによる高品質鋳造品の製造技術の開発

■機械金属部 ○藤井 要 谷内 大世 上村 彰宏
■谷田合金(株) 谷田 由治 駒井 公一 砂山 昇

1.目 的
 アルミニウム合金鋳物は,軽量化のニーズから構造部材へ広く利用されている。今後さらに需要を広げるためには,信頼性を保証する疲労強度特性を向上させることが必要であり,そのため,内在する微小欠陥を抑制することが重要課題とされている。
 欠陥抑制を行う鋳造技術の一つに,大気圧以上の圧力下で凝固を行う鋳造法がある。溶湯の鋳型充填時に差圧を用いることから差圧鋳造法と称され,その歴史は古く,約50年前での東欧ブルガリアでの特許公報が公知の初めとされる。1990年代には,日立金属(株)が金型鋳造での実用化を試みたが工業化技術まで発達せず,現在,普及には至っていない。
 近年,石川県内鋳造企業の谷田合金(株)が砂型鋳造に適応した装置開発を試み,高品質鋳造品製造での工業化を目標に技術開発に踏み切った。
 本報告では,圧力下での鋳造による欠陥抑制に注目し,それによる疲労強度特性の向上とX線CTによる微小欠陥観察を行い,開発中の鋳造技術の有効性の検討を行った。

2.内 容
2.1 鋳造装置
 鋳造装置の概略を図1に示す。装置は,溶湯を保持した保持炉室と,鋳型をセットし製品鋳造を行う鋳型室からなる。鋳型空間へ溶湯充填中と充填後において,大気圧以上の加圧環境下(圧力:P)で鋳造を行い,溶湯含有ガス放出による鋳造品中のピンホール欠陥の抑制を目的とする。そのため,鋳型充填を可能とする差圧条件(ΔPxΔPy)及びその加圧時間の条件検討を要する。また,凝固収縮による引け巣を抑制する目的で,押し湯効果を高めるため溶湯充填後に保持炉容器側からの溶湯圧の追加圧(ΔPz)の制御も行っている(図2)。
 製造技術の開発に関し,谷田合金(株)は加圧,差圧条件の精密制御技術の開発を行い,石川県工業試験場は,鋳造品の欠陥抑制挙動の評価を担当した。

(図1 鋳造装置概略図)
(図2 加圧及び差圧状態の圧力変化模式図)

2.2 欠陥形態の観察
 アルミニウム合金鋳物は,ピンホールと呼ばれる微細な気孔が数多く発生する。ピンホールは,ガスポロシティと微細な引け巣欠陥に大別される。ガスポロシティは,溶湯中に吸収されたガスが鋳物の凝固中に放出され発生するもので,引け巣欠陥は鋳造時の凝固収縮に伴って発生する。
 本研究では,鋳型室の静水圧加圧によりガスポロシティ抑制し,さらに差圧充填における注入溶湯圧力により引け巣欠陥の抑制を図ることとした。そこで,加圧環境下での鋳造による両欠陥の発生挙動を調査検討するため,欠陥の識別が容易な円錐形状の試験鋳型を用い欠陥形態を評価した。内部の微小な欠陥の評価には,X線マイクロフォーカスCT装置による撮影を行った。X線CTの分解能は,X線の透過能に左右されるので,透過性を確保するためには試験体を最小限のサイズにする必要がある。そのため,試験体を回転対称と見なし,4分の1形状に縦方向に切断後にCT撮影を行った。

2.3 疲労強度試験
 加圧下での鋳造品の有効性を検証するため,JIS規格砂型引張り試験片を鋳造し,500℃ 4時間の溶体化処理及び180℃4時間の時効処理後,平行部直径8mmの疲労試験片に加工し,回転曲げ疲労試験を行った。また,比較のため大気圧雰囲気で鋳造を行った鋳造材も同様な疲労試験を行った。なお,疲労試験片の鋳造は,ガスポロシティ抑制効果の検証を目的としているため,引け巣が含まれない鋳造方案である。

3.結 果
 欠陥形態の観察を目的とした円錐形状試験片のCT像観察結果を,図3に示す。左側写真は,比較のための従来の大気圧環境下での鋳造品であるが,試験片全体に粒状の黒点が分布し,ガスポロシティと思われるピンホールが全体に見られた。また,視野左下,試験体の中央部溶湯注入口に最も近い部位では引け巣と思われる粗大な空隙欠陥が確認できた。一方,右側に示す加圧下での試験体では,引け巣は残存するが,試験片全体に見られるガスポロシティ欠陥は消失していることが確認できた。また図4に示す疲労試験の結果においては,大気圧鋳造材に比べ,圧力下での鋳造品の疲労強度向上を確認した。
 以上,加圧下での鋳造は,ガスポロシティ欠陥を抑制し、鋳造品の高品質化に有効であることがわかった。

(図3 円錐形状試験体 X線CT像)
(図4 回転曲げ疲労試験結果)