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 外科用インプラント材料の高速切削加工
 機械金属部  ○廣崎憲一 舟田義則 坂谷勝明
 金沢工業大学  新谷一博 加藤秀治

1.目 的
 金属材料の機械加工は県内機械加工業の根幹技術であるが,従来から機械部品等に多用されている鋼系材料の加工は,アジア諸国との競争において著しいコストダウンを強いられている。一方,従来の鉄系金属に比べ,比強度(質量に対する強度)に優れているチタン合金は,工業用あるいは医療用新素材として需要が高まりつつあり,鋼系材料に比べ,加工付加価値の高い材料として今後の需要が見込まれる。
 本報告では,特に医療用チタン合金の高速切削加工技術の開発を目的に,切削工具として新素材工具であるバインダレスcBN工具の適用を提案し,その切削性能と医療用部品の加工例について紹介する。

2.内 容
2.1 外科インプラント用チタン材料
  チタン合金は,金属の中でも比強度が大きく,耐熱性・耐腐食性に優れていることから,宇宙航空関係や化学プラントの材料として多用されている。さらに,生体適合性に優れている特徴からも,近年では人体に埋め込まれるインプラント材料としても用いられるようになってきている。2002年には表1に示すように「外科インプラント用チタン材料」として6種類のチタン材料がJIS規格として定められた。
 特に,図1に示す人工股関節など強度を必要とするものは合金としてのチタン材料が用いられる。臨床に応用され始めた当初は,工業用に広く利用されていたTi-6Al-4V合金が使用されていたが,近年,その中のバナジウム成分の細胞毒性が懸念されるようになり,バナジウムフリーチタン合金の開発・治験が行われるようになった。

(表1 外科インプラント用チタン材料)(JIS T 7401-2002)
(図1 人工股関節)

2.2 バインダレスcBN工具による高速切削加工
 チタン合金は熱伝導率が小さく,比切削抵抗が大きい,さらには化学的活性が高いことなどから,切削温度が著しく高くなる傾向にあり,切削加工の立場からみると,一般的には難削材と言われる。切削温度の上昇を抑えるためには,切削速度を下げざるを得ないのが現状であり,アルミニウム合金や炭素鋼材料に比べて,チタン合金の切削速度は極度に低く,その値は60m/min程度とされる。そこで,本研究では切削速度の向上を図るため,新素材工具であるバインダレスcBN工具の適用を試みた。バインダレスcBN工具は,高温高圧下でhBN粒子を直接焼結することにより,cBN粒子の合成・結合が行われるため,熱伝導率と耐熱性に優れ,ビッカース硬度は5000HVの高い値を示す。
 図2に各種切削工具材料を用いてバナジウムフリーTi-6Al-2Nb-1Ta合金の旋削加工を行った場合の工具寿命を示す。切削速度は通常の推奨条件よりも高速の250m/minとし,逃げ面摩耗幅が0.1mmに到達した時の切削距離を工具寿命とした。従来から用いられている超硬合金,cBN,焼結ダイヤモンド工具に比べ,バインダレスcBN工具は高い工具寿命を示した。

(図2 工具寿命の比較)

2.3 人工股関節ステムの高速ミーリング加工
 Ti-6Al-2Nb-1Ta合金を用いた人工股関節ステムの高速ミーリングによる成形を試みた。工具として,前述したバインダレスcBN材料による丸駒形のチップを作製し,図3に示すような切削油剤を内部供給できる専用の工具ホルダに取り付けた。ステムのような緩やかな自由曲面形状に対しては,このようなラジアスエンドミル工具を用いることにより,切れ刃の位置による切削速度の変化を小さくすることができる。
 加工機は5軸高速マシニングセンタを用い,図4に示すように傾斜テーブルと旋回テーブルにより5面加工機の形態でステムの削り出し加工を行った。自由曲面の形状創成を行うため,仕上げ加工条件として切り込み量を0.2mm,送り速度0.05mm/刃およびピックフィード0.2mm程度とし,切削油剤の内部供給圧力を5MPaとした。切削速度は工具チップの最外周刃が500m/minとなるように設定した。この結果,工具は刃先に多少のチッピングが観察されたが実用的には問題なく,加工したステムは良好な形状精度が得られた。

(図3 ミーリング工具の作製)
(図4 人工股関節ステムの高速ミーリング加工)

3.結 果
 人体に優しいとされるバナジウムフリーTi-6Al-2Nb-1Ta合金を対象に,各種工具材種を用いて工具寿命試験を行った結果,従来の工具材種に比べて,バインダレスcBN工具は高速切削加工に適していることがわかった。また,微小切り込み条件の下,切削速度500m/minの高速切削条件により,人工股関節ステムの高速ミーリング加工を行った結果,実用的な加工を行えることを確認した。


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