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1.目 的 機械材料の品質評価は,短納期・簡略化が求められており,それに関する要望も増えてきている。中でも機械製品の破損原因解明や引張強さ・硬さの評価が多くの割合を占めている。破損には疲労破壊,表面損傷などさまざまな種類があり,破損を支配する要因には材質(化学組成,金属組織など),荷重,残留応力および雰囲気など数多く存在する。 このことに対して,X線回折法は機械構造物の破損に密接な関係をもつ残留応力,残留オーステナイト量(金属組織)の測定ができまた鉄鋼材料の硬さ等を非破壊で検査できる有力な材料評価法である(図1)。しかし実製品に対する事例については,まだ不明な点が多い。そこで本研究では金型部品に対して用いられているTiN膜を被覆した超硬合金に対し,新手法であるインプレーン法(面内)と従来のX線回折法を組み合わせることで,残留応力分布を非破壊で求めた適用例について報告する。 (図1 X線回折による材料評価 ) 2.内 容 2.1 X線回折による評価 X線回折法とは,健康診断のレントゲン撮影のような物体を透過するX線を利用する方法とは異なり,材料に当たって跳ね返ってきた情報を読みとる手法である。金属材料やセラミックス等の結晶でできている材料であれば,2dsinθ=λ(d:結晶の格子面間隔,λ:X線の波長)というブラッグの式によって,跳ね返ってきた角度(θ)を読みとればその結晶の長さ(ひずみ,応力)を評価することができる。また,この現象はフェライト,オーステナイト等の鉄鋼組織の結晶構造が異なれば,別々の位置に返ってくることから残留オーステナイト量の評価にも対応でき,その回折図形の拡がりを利用すれば硬さも推定することもできる。いずれも非破壊検査であることが大きな特徴である。 2.2 TiN膜の材料評価 コーティングによる表面改質は材料の耐摩耗性,耐疲労強度特性を向上させるための技術として多くの分野に活用されている。ところが成膜や使用中の外部負荷環境による残留応力の発生が,膜の剥離やき裂の発生に影響し,材料の寿命を縮める恐れがあり,その解明が必要となっている。特にCVD(化学的気相蒸着)によって成膜したTiN膜をコーティングした超硬合金(WC-Co)の場合,成膜時に引張応力が発生することが知られており,その原因を明らかにする必要がある。そこでX線回折法を使って残留応力測定を行った。試料は薄膜であるため試料の表面すれすれにX線を入射させるインプレーン法(図2)を応力測定に応用した。 試験片は鏡面仕上げした超硬合金にTiN膜をコーティングしたものを用いた。 本研究に用いた装置を図4に示す。X線の入射角は全反射付近の0.25度とした。この場合の侵入深さは,TiN膜の場合,約0.2mmであり,TiN膜自身の評価を行っている。 測定した結果を汎用法で得られた結果と併せて図5に示す。上図に示す汎用法の場合,基板であるWCとTiN膜回折線が重なってしまい判別が難しい。それに対して,下図に示す本法より得られた回折結果は基板であるWCの回折図形は消失しており,膜のみの情報を得ることができる。 (図2 表面すれすれ入射のX線 ) (図3 サンプルの概略図 ) (図4 X線回折装置の外観 ) (図5 X線回折測定結果 (上:汎用法,下:インプレーン法) ) 2.3 残留応力 得られた格子面間隔から残留応力を解析した結果を図6に示す。汎用法で得られた結果および本法を使って膜の応力分布を求めた。図からは極表層部においても引張の残留応力が発生していることがわかる。この原因として基板であるWC-Coとの界面からの距離が異なることが原因として考えられる。 (図6 残留応力の分布 ) 3.結 果 インプレーン法と汎用のX線法を組み合わせることで,試料における表面からの深さ方向の残留応力分布,結晶構造分布を評価することができた。これらの手法を利用することで,製品の強度評価,破損原因を解明する手がかりが得られる。また,今後も機械材料の疲労強度の推定やX線回折による硬さの非破壊評価に応用していく予定である。 本研究にあたり,超硬合金へのCVDコーティングに関して多大なご教示をいただきました(株)サン・アロイ 佐々木 賢氏に感謝の意を表します。 |
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