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 繊維表面のナノ構造改質に関する技術開発
 −酵素を固定化した繊維材料の開発研究−
 繊維生活部 ○守田啓輔 神谷淳 山本孝

1.目 的
 酵素は,常温・常圧・中性という穏やかな条件下で特定の化学反応を促進する天然高分子触媒であるが,溶媒中で使用した後に回収・再利用することは困難である。そこで,繊維布帛など比表面積の大きい担体表面に酵素を固定化させて繰り返し使用すれば,一回毎に使い捨てる場合に比べ効率的といえる。本研究では,加水分解酵素の一つであるインベルターゼをポリエステル(PET)の表面に固定化する基礎実験を行った。また,酵素固定化ポリエステルの水質浄化フィルターへの応用を想定した耐久試験についても検討した。

2.内 容
2.1 実験方法
 PET平織物をエチレンジアミン(EDA)50%水溶液中で前処理・水洗した後,インベルターゼ1%水溶液に浸漬して,PET表面にインベルターゼを固定化させた。これを基質液であるスクロース1%水溶液に浸漬した際,インベルターゼによる加水分解により生成したグルコースの濃度を酵素活性の指標とした。また,固定化インベルターゼの耐久性を評価する目的で,@インベルターゼ固定化PETを繰り返し水洗した場合,A反応槽中で基質液を供給しながら長期間連続使用した場合,B界面活性剤(アニオン界面活性剤3種類,ノニオン界面活性剤1種類)を個々に添加した場合について,固定化インベルターゼおよび遊離インベルターゼの相対活性を測定した。

3.結 果
 PETをEDAで処理すると,PET主鎖に結合したEDAの末端アミノ基の存在により,酵素などタンパク質分子との相互作用が大きくなる一方,PET繊維自体の分子量減少による強度低下を伴う1)。そこで,EDA処理時の温度・時間・濃度が異なるインベルターゼ固定化PETの活性を測定し,出来るだけEDA固着率が高く,かつ強度低下が少ない処理条件を模索した結果,40℃のEDA50%水溶液中に浸漬した場合に最適であることを確認した。
 次に,インベルターゼ固定化PETを繰り返し水洗した場合の,水洗回数に対する固定化酵素の相対活性値(RAIn)を図1に示す。RAInは回数と共に徐々に減少しており,酵素の脱離が進行していると考えられる。ただし,スクロース溶液の温度が20℃の場合,37℃に比べて途中から傾斜がやや緩やかになり,50回後もRAInは50%台を維持していることから,温度が低いほど固定化酵素の安定性が高いことを示している。
 続いて,スクロース水溶液にインベルターゼ固定化PETを浸漬して所定温度に保持しながら,スクロース液の供給と反応液の排出を連続的に行った。その際の経過時間に対する固定化酵素の相対活性(RAId)を図2に,遊離インベルターゼの相対活性(RAid)を図3に示す。20℃の場合,RAIdが実験開始後3日で減少し始めたのに対し,RAidは最初の10日間はほぼ初期値を維持していることから,少なくともその間は固定化インベルターゼの失活は起きておらず,その後は脱離に加えて失活も進行したと推察される。また,RAId,RAidのいずれも,37℃より20℃の方が減少しにくく,スクロース液の温度が低いほど固定化酵素の脱離が起きにくいと考えられる。
 図4に,界面活性剤を添加したスクロース液中における固定化インベルターゼの相対活性(RAIs)を示す。いずれの界面活性剤についても,濃度が高いほどRAIsが減少する傾向がみられる。界面活性剤による酵素の失活の程度を調べる目的で,固定化されていない水溶液状態の酵素(RAis)について同様の実験を行った結果を図5に示す。脂肪酸ナトリウムの場合のみ濃度に対して活性が低下し,他の活性剤では80〜90%台でほぼ横ばいとなった。RAIsの低下は,脂肪酸ナトリウムの場合は主に酵素の失活に起因し,酵素の脱離はほとんど起きていないと考えられるが,残り3種類の界面活性剤に関しては,酵素の脱離による影響が大きいと推察される。

参考文献
1) 吉田,若野,浮田,安東,Chem. Express,4,353(1989)

(図1 水洗回数に対するRAInの変化 )
(図2 経過時間に対するRAIdの変化 )
(図3 経過時間に対するRAidの変化 )
(図4 界面活性剤濃度に対するRAIsの変化 )
(図5 界面活性剤濃度に対するRAisの変化 )



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