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 インターネットによる問い合わせの自動振り分けシステムの開発
 電子情報部 ○上田芳弘 加藤直孝 林克明
 (株)コスモサミット 室田博文 金沢大学 木村春彦

1.目 的
 顧客からの問い合わせに対応する企業のコールセンター等では,電話やFAXに換えてホームページで問い合わせを受け,メールで回答するシステムの構築が望まれている。これは,電話では多くの対応人員が必要とされることや,電話回線が通話中となり繋がりにくくなること,さらには問い合わせ内容をデータとして顧客ニーズを分析したいというような要請に基づいている。
 しかし,専門的あるいは詳細な内容の問い合わせは,これを最初に受け取る受付者から回答に最適な担当者や担当部署に振り分けして回答しなければならない。ITを活用しても,受付者は1件ずつ問い合わせ内容を読む必要があるので,件数が増加するとこの振り分け業務がかえって大変になる。そこで,問い合わせの自動振り分けシステムを開発し,顧客の問い合わせの入力から担当者の回答,並びにこれらのデータ管理までを効率的に行うことを目指す。

2.内 容
2.1 問い合わせの入力
 顧客は図1に示したインターネット上のホームページに問い合わせの内容や返信用メールアドレス等を入力する。ここで入力された問い合わせは,ファイアウォールで守られた自動振り分けシステムに瞬時に送信される。また,顧客には問い合わせを受け付けた旨を連絡するメールが送信される。

(図1 問い合わせの入力)

2.2 問い合わせの自動振り分け
 受け付けた問い合わせ文を自動振り分けシステムが解析し,回答に適する担当者を検索する。この解析方法については次節で述べる。検索の結果は,図2に示したように回答者の候補を一覧として参照できる。この画面では候補者の人数と,メールアドレス,氏名等が回答に適する順に表示される。また,問い合わせ文中の単語のうち,候補者の重要語と照合した単語を参照できる。
 なお,本自動振り分けシステムでは,利用する組織の特徴を考慮して以下2種類の運用方法を選択できる。
(1) 全自動型振り分け
 図2の順位が1位の候補者を回答者に決定して問い合わせを振り分ける。
(2) 半自動(受付者介在)型振り分け
 問い合わせはすべて受付者に送信され,受付者が図2の結果を参照して回答者を選定し,振り分ける。

(図2 回答者候補の表示)

2.3 振り分け先の解析方法1)
 振り分け先を解析するために,予め全担当者の重要語辞書を担当者ごとに構築する。この辞書は担当者が日常業務で作成した文書ファイルを収集して,この中に含まれる単語の重要度を算出することにより構築する。すなわち,担当者数分の重要語辞書が構築され,各々の担当者の重要語辞書には,その担当者が使用した単語とその重要度が蓄積される。なお,この重要度は,ある担当者が他の単語より多くの頻度で使用した単語で,かつ使用する担当者がより少ない単語であり,さらに一文中で特定単語と同時に使用される頻度の多い単語に大きな重要度が与えられるようにした。なお,このような単語の重要度を,過去の問い合わせや担当者の最新の文書ファイルを用いて学習し,振り分け精度を向上できることが特徴である。
 次に振り分け先を解析するために,問い合わせ文中の全単語と全担当者の重要語辞書を照合して,一致する単語の重要度の総和を求め,その問い合わせに対する各担当者のスコアとする。最後に,最大スコアの担当者から順に,平均スコアから有意な差を持つ担当者までを回答者候補とした。

2.4 回答及び転送
 振り分け先の担当者にはメールによって問い合わせがあった旨と,回答を入力するURLを通知する。このURLにアクセスすると図3に示したように問い合わせ内容を参照でき,回答する場合は[メールで回答]を押下して回答文を入力し、送信する。回答できない場合や他の担当者の方が回答に適している場合,通知メールを受けた担当者は,[他の担当者へ転送]を押下して転送先の担当者を指定する。このとき問い合わせ文が再表示されるのでキーワードを抜き出す等の編集を行い,回答候補者を再検索することもできる。
 上記の他に本システムは問い合わせと回答の管理機能を有しており,回答が遅延している問い合わせの確認と警告メールの自動送信,過去の問い合わせと回答の検索や分類等ができる。

(図3 回答・転送の選択)

3.結 果
 本振り分けシステムの精度は,61.2%を達成した。これはベテラン受付者の精度63.2%とほぼ同等なものであり,他の最新技術を用いた場合の精度を超えていることも確認できた。工業試験場では実際に本システムを運用し,振り分け業務の効率化が達成できた。
 なお,本開発では金沢大学の協力を得て,自動振り分け機能を研究の中心とし,この機能をPFUアクティブラボ(株)の製品に組み込んだ。現在,PFUアクティブラボ(株)と(株)コスモサミットがe-community「お問い合せシステム」として市販している。

参考文献:1)上田,他,"テキストマイニングと強化学習を用いた電子メール自動分配"
        電子情報通信学会論文誌 Vol.J87-D-T No.10 pp.887-898 2004


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