全文 (PDFファイル:307KB、5ページ)


 新しい染着法による繊維材料の開発例
  繊維部 ○沢野井康成 木水貢 守田啓輔 神谷淳

1.目 的
繊維製造業が生き残るためには,消費者ニーズを反映した付加価値製品を迅速に開発することが不可欠である。それには,糸そのものの高付加価値化やITに代表されるコンピュータを活用した製造技術が重要かつ有効と考えられる。繊維製品は,生地素材と色彩との相乗効果で付加価値を高めているが,色彩については,一般に顔料等の着色剤を紡糸時に練り込む方法(原着法)と,糸もしくは生地の状態で,染料を用いて着色する方法(後染め法)の二通りがある。
本研究では,県内繊維産業への新規編・織物開発支援のため,原着法と後染め法による方法で,より視覚性に優れたポリエステル繊維材料の開発について検討する。 その手法は,(a)パール調の光沢を有する顔料(パール顔料)を直接繊維に練り込む方法,(b)テキスタイル用インクジェットプリンタによる着色方法,の2種類である。
2.内 容
2.1 原着法による繊維材料の作製

原着法によるポリエステル繊維の作製手順は,@2軸混練押出機を用いて,パール顔料を単独あるいは複合したものを所定量練り込んだマスターバッチペレット(以下,MP)を作製した。AMPとホモポリマーペレットを混合したものを,マルチフィラメント製造装置を用いて繊維化する。ポリエステル樹脂は,ポリエチレンテレフタレートホモポリマーを使用した。Bパール顔料(表1中A〜D)は,天然雲母の表面を酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物でコーティングしたもので,光沢タイプの異なる4種を用い,従来型の緑色顔料(同E)は含有率が5%のMPを使用した。

(表1 試験に用いた各種顔料)

2.1.1 混練り試験
ポリエステル樹脂は,混練り中の加水分解による分子量低下を防ぐため,150℃で4時間乾燥させた後,顔料を所定量混合して押出成形,温水により冷却後切断,そしてMPを作製した。MPは,150℃で4時間乾燥して結晶化させたものを溶融紡糸試験に使用した。
2.1.2 溶融紡糸試験
上記の方法で作製したMPとホモポリマーペレットより,パール顔料の含有が所定量になるように混合して繊維化した。紡糸ノズルは,丸型(0.6mmφ 86ホール)とY型(76ホール)を使用した。
2.2 顔料入り繊維の視覚的効果の評価
人が物の表面に光沢を感じたり,あるいはその表面状態(滑らかさ,凹凸感)を判断する情報には,正反射光の強度が関係するといわれる。そこで,作製したパール顔料入り繊維の視覚的効果の評価は,三次元変角光度計を使用して行った。繊維を平行に並べて作製した試料表面に対して,入射角を一定に固定し,受光範囲を変化させた時の反射光強度分布を測定した。
2.3 後染め法による繊維材料の開発
後染め法によるポリエステル繊維の作製手順は,@一旦緯編物状にした生地にテキスタイル用インクジェットプリンタ(以下,IJP)で模様をプリントする。Aプリントした生地を発色後,これを解ぐして,断続的に染色(スペースダイニング)された糸を作製する。
3.結 果
3.1 原着法による繊維材料の試作結果
3.1.1 混練り試験結果
ポリエステル樹脂と各顔料を混合し2軸混練押出機に投入後,温度および投入量を調整し測定トルクを確認することで,顔料2%含有のMPを作製することができた。また,2%より多い含有量のMPを作製するため,ポリエステルホモポリマーを小さく粉砕し顔料と混ぜることで,同5%含有のMPを作製することができた。
3.1.2 溶融紡糸試験結果

(表2 各種顔料を用いた溶融紡糸試験結果)

(図1 顔料0.5%含有繊維の延伸倍率と強度および伸度の関係)

表2に,各種顔料を用いた溶融紡糸試験での配合割合および延伸倍率を示す。紡糸試験では,部分的にフィラメント切れが発生したが,単糸で3.6〜5.6dtexの繊維を製造できた。図1に,顔料を重量比で0.5%含有した繊維の延伸倍率と強度あるいは伸度の関係を示す。延伸倍率に対して,強度は直線的に増加し伸度は減少しており,ホモポリマーで作製した繊維と同様の傾向となった。一方,その傾向は1.0%含有も同様であり,繊維の強度および伸度は0.5%に比べ1〜2割程低下した。図2に,丸型ノズルを使用して試作した繊維の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果の一例を示す。図2(a)より,繊維表面には凹凸が多く見られたが,この凹凸部分にはおそらく顔料が存在しているものと推測される。図2(b)のフィラメント中の白色のすじ状部分は,エネルギー分散型X線分光法による定性分析結果から,顔料であることが確認された。この結果より,パール顔料はフィラメント内部まで分布していることがわかった。パール顔料の視覚的効果を有効に発現させるには,繊維表面付近に顔料がより多く分布することが望ましく,これには,繊維断面は丸型より異形の方が適していると考えられる。そこで,Y型ノズルを使用して試作した繊維について観察した結果,顔料は丸型のものと同様に,フィラメント内部まで分布していることがわかった。今回使用したパール顔料は鱗片状の形をしているが,その形状が特に繊維表面への分布には,影響しなかった。

(a) 表面(500倍)
(a) 表面(500倍)
(b) 断面(1500倍)

(図2 試作した糸の表面および断面観察結果の一例(丸型ノズル使用))

3.1.3 三次元変角光度計による反射光強度分布測定結果
図3に,試作したパール顔料が入った繊維と入らないもの(ブランク)について,入射角が60度で受光角範囲が-90度〜+90度の反射光強度分布を測定した例を示す。パール顔料が入った繊維はブランクに比べ,反射光強度は全体的に弱くなった。この理由として,先の図2の結果から,繊維表面に多くの凹凸が見られることが考えられる。凹凸があればあるほど入射した光は拡散,屈折を繰り返して,光は吸収され反射強度は低下するためである。しかしながら,パール顔料が入った繊維は,反射光強度は小さいものの広範囲でブロードな反射分布特性を持つことが確認された。一方,図4に示すようにY型ノズルと丸型ノズルでそれぞれ試作したパール顔料含有繊維を比較すると,前者は後者に比べ,ピーク値の幅がより広くなった。また視感判定の結果,今回試作したパール顔料が入った繊維は,ブランクに比べると,いらつきは無く落ち着きのある光沢を示した。

(図3 パール顔料が反射光強度におよぼす影響)

(図4 紡糸ノズル形状が反射光強度におよぼす影響)

3.2 後染め法による繊維材料の試作結果
3.2.1 編地の作製とこれへのインクジェットプリンタによる出力結果
編地は巻き現象があるので,IJPでプリントする場合,この現象が少ないゴム編を用いた。また,インクジェットプリントでは,編地の密度が粗いとインクジェットノズルから射出されたインクは生地を透過してしまう。それに,細番手の糸や低伸縮性の糸は,製編中あるいはプリント・発色後に編地を解く時に糸切れが発生する可能性が高い。そのため,糸は290dtexのポリエステルウーリ糸(2ヒータタイプ)を2本引き揃えたものを使用し,無縫製編物システムで幅50pで編成した。次に,IJPを用いて,長さ方向に8色(黄,橙,紫,紺,緑,茶,青,赤)のストライプ模様をプリントした。編生地はよこ方向に特に伸びる傾向があるため,プリント時に生地の幅が変動しないように固定した。
3.2.2 インクジェットプリント生地の発色と繊維材料の試作結果

(図5 試作した糸)

インクジェットプリント後,生地上の染料インクを繊維中に拡散させて発色させる工程が必要となる。一般的にポリエステルを発色させるには,170〜180℃の加熱蒸気によるスチーミング処理か200℃前後の乾熱処理が必要となるが,今回は後者の方法で生地を良好に発色することができた。発色した生地の一端から解して糸を取り出した結果,図5に示すような,糸自体のクリンプとともに,繊維の長さ方向に対してスペースダイニングされた糸を製造することができた。スペースダイニングされた理由としては,編地の下側つまりインクジェットノズルのヘッドと反対側にある糸には,射出されたインクが到達しなかったためと考えられる。

(図6 試作した糸を用いて製織した織物表面)

3.2.3 織物の試作
たて糸に未染色のポリエステル糸を,よこ糸に上記で試作した糸を用いて朱子織物を製織した結果,図6に示すように,織物全面にむら模様が観測された。これは8色のカラーが断続的に繰り返された糸がよこ方向に打ち込まれたことによるものと考えられる。

4.まとめ
(1) 粒度分布が5〜60μmのパール調の光沢を有するパール顔料を1.0〜5.0%含有したポリエステペレットを用いて紡糸することができた。
(2) 試作したパール顔料を含有した繊維表面には,凹凸が多く見られ,また顔料はフィラメント内部まで分布していることが確認された。
(3) 三次元変角光度計により,パール顔料を含有した繊維と含有しないものとの反射光分布特性を比較した結果,前者は後者に比べ反射光強度は小さいが,反射分布は広いことが確認された。
(4) テキスタイル用インクジェットプリンタを活用することで,断続的に染色したポリエステル糸を試作することができた。
(5) (4)の糸を用いて,その表面にむら染め模様効果を付与した織物を試作することができた。

本研究で得られた試作繊維・織物については,工業試験場の新繊維製品開発グループ研究会および技術指導・相談等を通して,今後もその活用を進めていく予定である。


* トップページ
* 技術ふれあい2003もくじ

概要のページに戻る