熱可塑性CFRPの樹脂含浸向上技術  ―コミングル繊維を用いたCFRPの開発―

 近年、炭素繊維強化複合材料(CFRP)の中でも、加工性、リサイクル性に優れることから熱可塑性樹脂を母材とした熱可塑性CFRPが注目を集めています。しかしながら、従来の熱硬化性樹脂に比べ流動性に乏しく炭素繊維間に樹脂が浸透しにくい問題があります。

 そこで、コミングル法と呼ばれる手法でCFRPを試作し、評価しました。この手法は、繊維化した母材樹脂と炭素繊維を混繊したコミングル繊維(種類の異なる繊維の混合繊維)を用いることで、炭素繊維間に予め樹脂を配置する手法です図(a)。本研究では、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を繊維化し、空気の噴流を用いて炭素繊維とのコミングル繊維を作製しました。作製したコミングル繊維を用いて織物にした後、PPSフィルムと交互に積層し、「高温型プレス機」にてCFRP板に成形しました。作製したCFRP板の断面を拡大写真で観察したところ樹脂が内部まで含浸していることが確認できました図(b)。また、曲げ試験の結果から、炭素繊維が占める体積比率を50%に換算すると、コミングル繊維を使わないで作製したCFRP板の762MPaに対し、コミングル繊維を用いたCFRP板では814MPaと約7%の強度の向上が認められ、コミングル繊維の有効性を見出すことができました。

 コミングル繊維は、コスト面の課題はありますがCFRPだけでなく多くの複合材料に活用可能で、これらの加工・評価に関心のある方は、ぜひご相談ください。

(a) (b)

(a)コミングル繊維の模式図、(b)コミングル繊維を用いたCFRPの断面(黒:炭素繊維、白:PPS)

 

担当:繊維生活部 長谷部 裕之(はせべ ひろゆき)

専門:繊維物性、高分子物性

一言:熱可塑性複合材料の開発を支援いたします。