FRPの強度評価技術  ―FRPの特性把握と構造設計への応用―

 複合材は、強化材とそれを支持するための母材から構成されていますが、近年注目されているのは、強化材=繊維、母材=プラスチックからなる繊維強化プラスチック(FRP)です。中でも炭素繊維を用いたCFRPは航空機材料や自動車部品などへの利用が大変増加しています。例えば、昨年日本で就航したボーイング787では、CFRPの使用比率は一次構造材の重量で約50%に達し、炭素繊維の色から「黒い飛行機」とも呼ばれるほどです。

 FRPは異方性材料であるため、金属材料などとは異なった試験方法で強度を評価する必要があります。昨年4月に開所したいしかわ次世代産業創造支援センターには、FRPの評価機器を数多く整備しました。ここでは、これら機器によるFRPの強度評価技術について説明します。

(1)FRPの強度評価について

 万能試験機で行う引張、曲げ、圧縮試験などは一般的な材料試験ですが、異方性材料であるFRPは強度評価の際には注意が必要です。例えば引張強度は、繊維の軸方向では最大を示しますが、垂直方向ではむしろ母材であるプラスチックの物性に近くなり、強度は大幅に低下します(図1)。当然、強度は繊維、母材、繊維の体積含有率(Vf)などに依存しますが、一例としてエポキシ樹脂を用いたVf=60%のCFRPでは、軸方向で1.7GPa、垂直方向で0.06GPaという値が報告されています。そこで、積層の際に繊維軸を回転させ、なるべく等方性に近づけるなどの工夫がされています。


図1 FRPの異方性と積層構造

(2)FRPの耐衝撃性評価について

 FRPの耐衝撃特性の評価として、落錘型衝撃試験機が注目されています(図2)。例えば、積層構造のCFRPの場合は、衝撃が加わった箇所を起点に層間はく離が発生し、本来の強度を発揮しないことがあります。そこで、落錘型衝撃試験機で衝撃を与えたCFRPについて、強度測定やCFRP内部の異常を観察することで、耐衝撃性の評価を行います。図3は、約12Jの衝撃を与えた後のCFRPについて、超音波探傷試験機による層間はく離の様子を可視化した図です。材料内部で起こったはく離が観察されています。圧縮強度も衝撃により低下していることがわかります。これら一連の試験は、CFRPへの工具の落下衝撃による強度低下を懸念して想定されたものです。

図2 落錘型衝撃試験機 図3  衝撃を与えたCFRPの圧縮強度と複合材料欠陥評価
システム(超音波探傷試験機)による耐衝撃性評価

 落睡型衝撃試験の他の活用例としては、食品包装用等のフィルムの衝撃貫通応力や吸収エネルギーの評価(JIS K7124-2)、プラスチックの打ち抜き強度の評価(JIS K7211-2)などのJIS規格試験や、ヘルメット、地中配管の衝撃強度などの製品評価が挙げられます。なお、航空機用複合材料に適合した落錘型衝撃試験機は、北陸の公設試では石川県にのみ設置されています。

 また、その他の衝撃試験として、ハンマー型衝撃試験機によるアイゾットおよびシャルピー衝撃試験があります。これらは動的評価の一種であり、どちらもよく似た試験ですが、アイゾットは試料を両持ち、シャルピーは片持ちの状態でハンマーにより衝撃を与え、試料の破壊時に吸収されたエネルギー量を測定します。

 以上のように、FRPを構造材として用いる際には、その異方性などの特性を考慮した設計が重要です。今回ご紹介した評価機器はすべて開放機器として利用可能ですので、是非ご活用ください。

 

担当:繊維生活部 神谷 淳(かみたに じゅん)

専門:繊維物性、有機化学

一言:工業試験場の利用をお待ちしております。