清酒開発の将来展望  ―酸味酵母の利用と清酒の多様化へ向けて―

 近年、食の多様化や嗜好の変化に伴いアルコール飲料の嗜好も変化しています。このため、清酒の需要はビールや発泡酒、焼酎、ワインなどに押され低迷しています。清酒の需要拡大と差別化を図るため、各地で独自の原料米や酵母の開発が盛んに行われています。これまでに吟醸酒特有の香り成分の一つであるカプロン酸エチルを高生産する酵母等が開発され、香り高い清酒の開発は一定の水準に達したと見られます。最近は、杯を重ねても飽きの来ない清酒が求められ、研究の焦点は香りだけでなく、特徴ある味や香味の調和にも向けられてきています。

 ここでは、工業試験場の取り組みとして、若年層や女性をターゲットとした、清酒の旨味を残しつつ洋風料理とも相性の良い、ワインのような酸味を付与した清酒の開発について紹介します。

 清酒の酸味のもととなる有機酸は一般的には約40種類も含まれていますが、乳酸、リンゴ酸、コハク酸の3種類がその80%以上を占めます。このうちリンゴ酸は「さわやかな」味で官能的にも高い評価が得られています。そこでアルコール発酵力の低下がなく、リンゴ酸生成能の高い酵母3株を選抜し、それらを用いて総米3kgの清酒の小仕込試験を行いました。選抜株は、[1]北陸地域で広く用いられている金沢酵母を変異させた株(A株)、[2]石川県内の酒蔵の清酒もろみ中から分離した株(B株)、[3]清酒酵母とワイン酵母とを細胞融合させた株(C株)です。その結果、いずれの酵母も一般的な酵母(きょうかい酵母K-9)と比較して、リンゴ酸を1.5〜2倍多く生成しました(図1)。

 また、清酒のタイプは、図2に示すように日本酒度*と酸度**との組み合わせで大まかに淡麗辛口、淡麗甘口、濃醇辛口、濃醇甘口の4種類に分けられます。石川県の大部分の市販清酒は編み目で示した味の狭い領域に集中していることがわかります。これに対して前述のA、B、C株とK-9酵母を用いて、仕込みの際に加える水の割合(汲水歩合(くみみずぶあい):総米に対する水の割合)を130%、120%の2条件とし、計8通りの試験醸造を行いました。その結果、濃醇甘口に近い濃醇辛口タイプの清酒も製造することができ、味の幅を広げることができました(図2)。


図1 清酒のリンゴ酸含量 (総米3kg)

図2 清酒のタイプ

 工業試験場では、これらの成果を基に企業支援を行い、A株を使用したリンゴ酸含量の多い清酒が(資)金紋酒造(小松市)より商品化されました(図3)。さらに今後は、多様性に地域性、独自性を加味した商品開発が重要視されてくるものと考えられ、現在、新規県産酒米に適した酵母の選別や県産花木から抽出した天然酵母の利用に取り組んでいます。


図3 商品化された酸味清酒

 

担当:化学食品部 松田章(まつだ あきら)

専門:醸造

一言:地域に密着した清酒の新商品開発を支援します。