トライボロジー試験の紹介  ―トライボロジーの世界に足を踏み入れよう―

 トライボロジー(tribology)とは、「摩擦する」を意味するギリシャ語のtribosと学問を意味するlogyからなる造語で、一口で言えば、摩擦・摩耗・潤滑に関する科学技術を指します。摩擦・摩耗・潤滑をコントロールすることで機械の高性能化・高機能化・省エネルギー化等を実現できます。本稿では工業試験場が依頼試験および研究開発に活用しているトライボロジー試験機器と摩擦係数評価の有用性を紹介します。

 金属材料の摩擦摩耗を評価する指針の一つに「摩擦係数」があります。これは、2つの部材をこすりあわせた時の摩擦の度合いを示す値です。一般的に鉄と鉄をこすると摩擦係数は約0.8と高い値を示しますが、フィギュアスケートにおける氷とスケート金具間では0.01以下と非常に低い値を示します。このようにこすれる(摺動する)相手の材料が変わると摩擦係数も変化します。摺動特性の良い(摩擦係数の低い)材料の組合せを選択することで、摩耗による部品の損傷やクレームを減らすことができるため、最近では設計段階で摩擦係数の試験やデータを利用する企業が増えてきています。

 トライボロジー試験機器の中でも、JIS(日本工業規格)に採用されている一般的な試験機が、図1に示すボールオンディスク型のトライボメータです。本試験機は、図2に示すとおりφ6mmのボール材(b)を母材(a)上にセットし、一定荷重F(1〜10N)で試験片に接触させ,母材側の0を中心として半径rの円を描くように一定速度で回転させ、ボールとの抵抗力を測定することにより摩擦係数を算出します。ボールの材質は、焼入鋼(SUJ2)、ステンレス鋼(SUS304、SUS440C)、アルミニウム合金(A5052)を標準で準備しており、それ以外のボールも対応可能です。図3にトライボメータを用いた摩擦係数測定結果の一例を示します。工業試験場では、工具や金型等の摩擦係数低減に有効なダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の研究を行っており、SUS304試料とこれにDLC膜を成膜した試料を比較しました。相手ボール材は両試料ともSUJ2を使用し、横軸は摺動距離、縦軸は摩擦係数を示しています。その結果、DLC膜は摩擦係数0.1程度と非常に低い値(良くすべる)であるのに対し、基材のSUS304試料は0.5以上と高い値であることがわかります。

 工業試験場では、トライボロジー試験を通じて機械金属業界の摩擦摩耗に関する材料選択およびクレーム対策の支援を行っています。今回紹介した機器の他にも、様々な評価機器を取り揃えておりますので、お気軽にご相談ください。



図1 トライボメータの概観

図2 ボールオンディスク試験の概略



図3 トライボ試験結果の一例
(DLC膜とSUS304)

 

担当:機械金属部 安井治之(やすい はるゆき)

専門:表面改質、トライボロジー

一言:表面処理で摩擦摩耗の問題を解決しましょう!