CAEを用いた構造解析技術  ―物理現象をモデリング(理解)する―

 コンピュータシミュレーション(CAE)をものづくりに活用する企業が増えてきています。CAEとは、主に有限要素法による数値解析を指す言葉であり、構造解析などの力学的な現象をコンピュータ上でシミュレーションすることができます。特に、近年の3次元CADの普及と共に、CAE技術は製品の設計・製造に必要不可欠なものになりつつあります。このため、工業試験場ではCAE設備を利用した製品開発やトラブル対策の支援を行っています。現在までに約60社の企業の方々にご利用いただき、500ケース以上の解析を実施しました。ここでは、解析事例の中から、掲載のご了承を頂けた内容についてご紹介します。

1)構造解析の事例

 構造解析では、使用環境下における製品の変形や応力を調べることができます。これにより、信頼性の高い製品の設計が可能となるほか、トラブルが発生した場合の原因究明や対策に役立てることもできます。図1は、部品を圧縮する機械製品の構造解析事例です。この製品の機能として、圧縮される部品に、出来るだけ均等に圧力を加える必要があります。そこで、製品の形状(剛性)が、圧力分布にどのような影響を及ぼすかを解析することで、より均等に圧力が加わる製品形状を求めることができました。


図1 構造解析事例

2)振動解析の事例

 環境規制が厳しくなるなか、騒音や振動の低減が一段と重要になってきました。騒音・振動は製品性能を低下させるだけでなく、故障・破損の原因となることもあります。図2はある加工機の振動解析事例を示しています。この事例では、加工中に異常な騒音が発生し、加工形状にも悪影響を与えていました。そこで、この問題の原因究明、ならびに対策のため、CAEによる振動解析と実機の振動測定を行いました。これらの検討の結果、アーム横方向の固有振動モードが原因であることをつきとめ、その対策をおこなうことで、振動・騒音がほとんど発生しない構造を決定することができました。


図2 振動解析事例(工作機械の振動)

3)塑性変形解析の事例

 塑性変形解析では、プレス加工などの塑性変形を伴うシミュレーションが可能です。変形後の形状が予測し難い複雑な加工に効果があり、試作回数の低減に役立てることができます。図3はパイプ圧入後の形状変化を予測した解析事例です。圧入後の形状や応力の解析結果を設計にフィードバックすることで、最適な部品形状を求めることができました。 工業試験場では、CAE設備をより多くの企業の方々に利用していただくため、使い方はもちろん、理論や評価方法の講習を行っています。また、昨年度から、企業のご要望に応じ、職員が依頼試験として解析を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。


図3 塑性変形事例(圧入時の変形分布)

担当:機械金属部 高野昌宏(たかのまさひろ)

専門:材料力学、振動工学

一言:企業の皆様の良きパートナーとしてお役に立てるよう頑張ります。