能登の魚醤油「いしり」  ―石川県伝統食品の可能性(JAPANブランド育成事業)―

 石川県能登半島の奥能登地方では、イカの内臓やイワシを原料とする「いしり」と呼ばれる魚醤油が古くから造られており、「しょっつる」、「いかなご醤油」とともに日本の三大魚醤油として知られています。いしりは、原料に食塩を加え1〜2年間という長期間熟成させて造られており、国内でトップの生産量(年間推定220トン)をあげています。一方、近年のエスニック料理ブームにより東南アジアから多くの魚醤油が輸入されるようになり、また他県においても地元の魚介類を利用した魚醤油が製造・販売されるようになってきました。

  そこで、工業試験場では、石川県立大学、能登町商工会と共同で、能登のいしりや他県あるいは国外の魚醤油について代表的な成分(塩分、全窒素、遊離アミノ酸など)や、近年注目されている機能性(抗酸化性など)を分析し、いしりの品質の把握及び他産地の魚醤油との差別化について検討するとともに、いしりの特徴を生かした新規食品開発を行う「平成17年度JAPANブランド育成事業」に取り組みました。
  今回用いた試料は、いかいしり16、いわしいしり12、しょっつる6、県外魚醤油18、海外魚醤油11検体で、それらの比較検討を行いました。まず、うま味成分である総遊離アミノ酸量は、いかいしりが最も高く、次いでいわしいしり、海外魚醤油の順で、いしりはしょっつるの2倍以上の総遊離アミノ酸を含んでいました(図1)。また、いかいしりには血圧降下作用などの効果を持つ機能性タウリンが平均で約700mg/100mlと、他の魚醤油に比べ2〜10倍と非常に多く含まれていることが明らかになりました。さらに、今回分析した魚醤油の中で、いかいしりが最も強い抗酸化力を示しました(図2)。いわしいしりでは、強いACE阻害活性(血圧降下作用)も確認されました。
  以上の結果から、能登のいしりは多量のうま味成分と優れた機能性を持つことが明らかとなり、これらの特徴を生かし、一般の消費者が手軽にいしりを利用できるようにした、ドレッシング、浅漬けの素、貝焼きのつゆなどの新規食品を開発しました(図3)。

  このように工業試験場では、県内公設試、大学と連携しながら、食品の成分分析、研究開発支援を行っています。超臨界抽出装置、凍結乾燥機などの加工機器や、アミノ酸分析計、GC/MSなど各種分析機器を開放するとともに、食品の一般成分、アミノ酸、有機酸、核酸、香気成分、ミネラル、一般生菌数などの分析や異物などのクレーム処理、食品の機能性評価(抗酸化性、ACE阻害活性など)と、食品に関する試験に幅広く対応しています。また、メール、電話などでの技術相談も随時受け付けていますので、企業の皆様がかかえる様々な技術課題や食品成分分析などについて、お気軽にお問い合わせください。

図1 魚醤油の総遊離アミノ酸量 図2 魚醤油の抗酸化力 図3 いしりを利用した食品開発

担当:食品加工技術研究室 道畠 俊英(みちはたとしひで)

専門:食品化学、食品分析

一言:石川県の様々な伝統発酵食品を見直しましょう。