繊維製品のクレーム解析と対処法

 繊維製品の生産体制が多品種少ロットになり、欠点事例も多岐に渡っている中、工業試験場では種々の分析機器を導入し、これら欠点解析に対応しています。今回は、工業試験場で取り扱った解析事例の中から、原因が明らかになり、対処法を見出した例について、幾つか紹介します。

1)X線分析装置による生地の汚れ分析
  ウォータージェットルームでポリエステルを製織後、主にたて糸方向に乳白色の汚れが見つかりました。汚れの成分を調べるため、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で元素分析を行ったところ、ポリエステルの成分である炭素と酸素以外に、ナトリウムと塩素が検出されました(図1)。これは製織に用いた地下水に塩分が含まれていたため、塩化ナトリウムが織機のヘルド上に析出し、糸へ付着したものと推察しました。最終的には使用する地下水を脱塩することで、欠点の発生は無くなりました。

2)熱分析システムによるナイロン糸の染着差解析
  ナイロン66のPOY糸に仮撚り加工を行ない、染色検査をしたところ、染着挙動の異なる箇所が発見されました。そこで熱分析システムにより、糸試料を一定の昇温速度で加熱した時の吸熱、発熱量を測定した結果、融点前の170〜230℃付近に、濃、中、淡染箇所で温度と大きさが異なる発熱ピークが確認されました(図2)。そこで、糸加工時の熱処理温度や張力を確認しましたが、異常はありませんでした。しかし、原糸メーカに問い合わせたところ、糸の製造ロットが異なっていたことが判明しました。

3)濃染たて筋の原因解明
  ポリエステル織物を染色後、濃染されたたて筋が発生しました。電子顕微鏡で欠点部分を観察したところ、糸の表面に長さ方向に対して垂直の傷が無数にあることが判明しました(図3)。これはヘルドの糸を通す穴に発生した傷が、製織中の上下運動でたて糸をさらに傷付けた欠点です。ヘルドの交換で欠点は発生しなくなりました。
  近年、県内繊維産地においては、合成繊維中心から、天然繊維を含めた幅広い素材の糸を扱うようになってきています。このため工業試験場では、セルロース系繊維のクレームにも対応すべく多くの試験器を取り揃え、企業の皆様の支援をしています。お気軽にご利用ください。

埋め込んだ試料 埋め込んだ試料 埋め込んだ試料
図1 生地汚れの元素分析 図2 熱分析システムによるナイロン糸の染着差分析 図3 たて筋部分の電子顕微鏡による観察

担当:繊維生活部 神谷 淳(かみたにじゅん)

専門:繊維物性、有機化学

一言:工試の利用をお待ちしております。