有機ELの保護膜形成技術
−高性能フレキシブルディスプレイの実現に向けて−

 人と機械をつなぐマンマシンインターフェイスである表示装置(ディスプレイ)技術は日本の得意分野の一つです。近年、ユビキタス社会※1が注目される中、従来のブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)に代わる新しい機能を持ったディスプレイの開発が行われています。
 次世代ディスプレイとして有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレイが注目されています(図1、2)。これは有機EL材料に電流を流すと発光する現象を利用しています。すでに一部の携帯電話やカーオーディオなどに実用化されています。これらは、ガラス基板上に形成された有機EL素子であり封止缶により密封され、中に寿命を延ばすために乾燥剤が入っています。これは、有機EL材料は空気中の酸素や水蒸気でも劣化が進むためです。
 ガラス基板の代わりにプラスチックフィルム上に有機ELを形成すれば、紙のように軽く、丸めたり、持ち運ぶことができるようになります。また、明るく、応答速度も速いため、動画表示に適している上、消費電力も小さいことから究極のディスプレイとも言われています。
 ガラス基板とは異なり、プラスチックフィルムはわずかではありますが、酸素や水蒸気を透過するため、それらを通さないバリア(保護)膜が必要であり、有機ELディスプレイでは酸素透過率を10-3cc/m2/day以下、水蒸気透過率を10-6g/m2/day以下にする必要があります。
 一般に有機EL材料の耐熱温度である80℃以下で形成した従来の保護膜の品質が悪いため、80℃以下で形成できる高品質な保護膜材料の開発が求められています。その中で窒化シリコン(SiNx)膜は耐薬品性、酸素および水蒸気バリア性が高く、透明であることから、有機ELディスプレイの保護膜として期待されており、低温形成が望まれています。
 工業試験場では、研究成果活用プラザ・石川において(株)石川製作所(松任市)と北陸先端科学技術大学院大学と共同で「低温触媒CVD(Cat-CVD※2)装置の開発」をテーマとして、80℃以下でバリア性の高いSiNx膜を形成する装置の研究開発を行っています。その結果、酸素透過率10-2cc/m2/day以下、水蒸気透過率10-2g/m2/day以下(現在の測定法(モコン法)の検出限界以下)の膜の形成に成功しています。また、室温形成でも、加温加湿加圧試験(121℃、100%RH、2気圧、24時間)に耐える膜も形成可能であり、Cat-CVD SiNx膜の性能が高いことが明らかになってきました。
 現在、主流のLCDの生産技術は中国などに移行し、より高い技術力の必要な有機ELディスプレイの成功は電子立国日本の復活に不可欠です。今後、この研究等により従来の技術、方式に捕らわれず、新しい原理のディスプレイが日本から生まれていくことを期待しています。
※1 「同時に、いたるところに存在する」の意、コンピュータがその存在を意識させない形で生活環境に溶け込んでいる状態
※2 真空装置内に設置した加熱触媒体により原料ガスを接触分解し、低温で薄膜を形成する方法

図1 有機ELディスプレイの構造
 
図2  フラットパネルディスプレイの市場規模
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(研究成果活用プラザ・石川)の支援を受けて行っています。


担 当 電子情報部 部家彰(へやあきら)
専門 半導体物性、薄膜形成
一言 低温薄膜形成技術の応用をぜひご一緒に!



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