−研究紹介−「香気性味噌の開発」

●松田 章
(化学食品部)

1.はじめに
 近年,味噌の嗜好も多様化,高級化が進み,伝統的な中にも風味の優れた製品開発が望まれています。特に,香りは色,味とともに味噌の品質を決定し,製品の差別化を図る上で重要な要素の一つです。味噌の醸造過程において,酵母は各種香気の生成に重要な役割を果たしています。本研究では芳香性の高い酵母を育種し,香りの良い味噌(香気性味噌)を試醸して,商品化を行いました。

2.香気性味噌の試醸
(1)酵母の育種
 まず,味噌・醤油製造企業で一般的に使用されている主発酵耐塩性酵母 Z.rouxiiから,香りの生成力が高い酵母を育種しました。得られた酵母は,味噌の香気成分とされているイソアミルアルコールを液体発酵で,親酵母の約2.6倍生成できることが分かりました。

(2)小仕込み試験
 この香気性酵母を用いて,仕込み総量が5kgで熟成期間90日の味噌の試醸を潟с}ト醤油味噌の協力で行い,酵母無添加と親酵母添加の場合と比較しました。その結果,香気性酵母を添加した味噌のイソアミルアルコール含有量は,酵母無添加味噌の約5.4倍,親酵母添加味噌の約1.9倍高い値を示しました(図1)。さらに,イソブタノールとn-ブタノールも増加し,味噌の香気向上に効果が認められました。なお,香りに色,味を加えた総合的な官能評価でも40名中26名が最良点を与え,良好な結果が得られました。

3.商 品 化
 この味噌について仕込み総量2.8tの実用化試験を潟с}ト醤油味噌で行いました。その結果,従来製品(酵母無添加)と比較して,小仕込み試験と同様に香気成分の増加が認められ,官能評価でも,香りで高い評価が得られました。
 潟с}ト醤油味噌では,芳香と高級感をアピールするため,吟醸酒にちなんで,この味噌を「吟醸味噌」と名付け,販売しています(図2)。平成11年3月には,この商品が石川県産の大豆と米,及び香気性酵母を使用した無添加味噌として,「石川県ふるさと食品」に認証されました。さらに,平成11年9月には,この香気性酵母を用いた減塩味噌(塩分濃度8.6%,従来製品比30%カット)の開発と商品化にも成功しました。


図1 味噌中のイソアミルアルコール濃度
熟成日数:90日, 仕込み総量:5kg


図2 商品化された「吟醸味噌」



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