海外産学官研究交流事業報告
−絹織物の染色加工技術の調査とポリエステル織物の表面加工に関する研究−

[繊 維 部] 木水 貢

 石川県の繊維産業において、国際的な産業振興を図るため、繊維工業関連分野で世界的な研究機関と工業試験場との間で相互技術交流を実施している。
 平成9年9月23日〜12月21日の約3ヶ月間、絹織物の世界的な産地であるイタリア共和国のコモ市にあるシルク研究所コモ研究所を訪問し、イタリアにおける絹織物の精練・染色技術について調査した。併せて、ポリエステル織物の表面加工に関する研究を行った。
キーワード:絹織物、精練、染色、表面加工

International Research Exchange
- Research of dyeing technique for silk fabric and study on coating process for polyester fabric -

Mitsugu KIMIZU

 In order to promote activation of textile industry in Ishikawa prefecture, we carry out a research exchange between our institute and foreign institute in the fiber industry.
 I visited Como office of silk research institute(Stazione Sperimentale per la Seta, Ufficio di Como) in Italy from 23rd September to 21st December 1997, and researched about the technique of the scouring and the dyeing for a silk fabric in Como area. And, I investigated the coating of nature fiber on the polyester textile.
Key Words:silk fabric, scouring, dyeing, coating

1.緒  言
 石川県の基幹産業である繊維産業の活性化を図るために,世界的に有名なイタリアの繊維産地との地域交流を平成8年度より進めている。工業試験場では,この交流の中で技術的な面から支援を行うために,イタリアのコモ地区の研究機関であるシルク研究所と研究交流を行っている。平成9年度は,コモ地区が最も得意としている絹織物の染色加工について,調査研究と,同研究所との共同研究として,天然高分子であるキトサンを用いたポリエステル織物の表面加工について検討を行った。

2.イタリア・シルク研究所
 2.1 イタリア・コモ市
 研究交流を行ったシルク研究所があるコモ(Como)市は,イタリア北部のロンバルディア州の第1の都市ミラノから北へ約40kmのところに位置し,コモ湖に面しており,中世期からのイタリア有数のリゾート地として栄えた都市である。同時に,絹織物の世界的な産地で,絹織物に携わる撚糸,製織,精練・染色・プリント,デザイン,商社等の企業が数多く存在している。特に,絹織物の浸染・捺染は世界的に有名で,他の産業としては,家具や玩具などの産地である。

 2.2 シルク研究所コモ研究所
図1 シルク研究所コモ研究所  本事業で研究交流を行っているシルク研究所コモ研究所(図1)は,国立ミラノ工科大学コモ校が創立されたことに伴い,1994年2月にミラノのシルク研究所の一部が分離する形で創設された。シルク研究所は,絹繊維を中心に絹タンパク質の物理的・化学的特性や,絹染色に用いられる染料等の研究が盛んに行われている。その他に,獣毛(羊毛)等の動物系繊維の研究も合わせて行われている。主な業務としては,ミラノ工科大学学生の卒業研究指導,企業からの相談および共同研究業務,絹織物等の標準試験等がある。
 コモ研究所に設置されている機器としては,液クロマトグラフィー,ガスクロマトグラフィー,赤外分光光度計,紫外分光光度計,原子吸光,ラマン分光光度測定装置等がある。同研究所の研究員グループでは,絹染色に用いられるアゾ,アントラキノン染料等の分離・崩壊と絹タンパクであるセリシンの諸物性のテーマで研究が行われている。

3.絹織物の精練・染色技術の調査について
 3.1 絹織物の精練・染色技術
 絹繊維・織物の精練技術(精練方法と精練機械),染色技術(染色方法と染色機械)について調査した。 精練は (1) 水による抽出, (2) 石鹸煮沸, (3) アルカリ精練, (4) 酵素精練, (5) 酸性精練, (6) 有機アミノ精練の精練方法について研究されている。この中で,工業的に行われているのは, (2) 石鹸煮沸と (3) アルカリ精練である。
 精練装置は枷法,オープンベック,スター機,ウィンチ,連続工程機が用いられている。
 染色技術は, (1) 天然染料, (2) 酸性染料, (3) その他の染料について研究され,工業的には酸性染料を中心に使用されている。 染色装置は,浸染の場合,スター染色機,ジッカー染色機が用いられ,捺染の場合,スクリーン捺染機,ローラ捺染機等が用いられている。

 3.2 コモ地区おける染色現状の調査
 コモ市近郊にあるラッテイ社(RATTI)を訪問し,精練,染色技術について調査した。同社は,絹織物の精練・染色を行っており,特に捺染を得意とする会社である。同社と石川県企業との染色技術の比較を,表1にまとめた。表1より精練技術は,石川県企業では,絹織物が着物用の狭い一定幅の織物が大半を占めるためバッチ式で精練されているのに対し,イタリアでは幅の異なった絹織物が作られているため処理幅が可変の連続装置を用いて精練を行っている。また,染色技術は,石川県企業は浸染だけであるのに対し,イタリアでは浸染と捺染を行っている。また,このイタリアにおける捺染のデザインは,世界的評価を得ている。

 同社では,各工程においてコンピュータシステムが導入されていた。精練染色工程は,生産管理,色合わせ(CCM),自動色調合でコンピータ化が図られ,デザイン作製ではホストコンピュータと数台のワークステーションを結び,ネットワーク化でデザイン作りが行われていた。デザイン作製には,同社創設以来のサンプルデータ(300万点以上)が再利用され,デザインのサイクル化を読み,世代にあったデザインへの変換が行われていた。
 現在の同社の課題は,捺染に使用するスクリーン管理があり,5棟の倉庫に約10万枚以上のスクリーンを保管している。そのため,スクリーンを用いないインクジェットプリントに強い関心を持っている。



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