海外産学官研究交流事業報告
−ドイツにおける中小企業技術支援体制とセミドライ切削加工技術に関する研究調査−

[機械電子部] 廣崎 憲一

 ドイツ・バーデンヴュルテンベルグ州において中小企業の技術開発支援に高い評価を受けているシュタインバイス財団とフラウンホーファー協会を訪れ,企業への技術支援体制について調査を行った。また,シュツットガルト大学工作機械研究所では,クーラント剤コストの削減と環境改善のため,微少量クーラントを供給して切削加工を行うセミドライ切削加工技術に関する研究について調査を行った。
キーワード:シュタインバイス財団,フラウンホーファー協会,機械加工技術,セミドライ切削加工

Report of the International Research Exchange Program in the Industry,
University and Government Cooperation

- Investigation of the technological support system
for the enterprises and the study on semi-dry cutting technology -

Kenichi HIROSAKI

 The support systems promoted by the Steinbeis Fundation and the Fraunhofer Gesellschaft which have successfully supported the technological development of the small and medium sized enterprises in Germany are reported. And in the University of Stuttgart the study on semi-dry cutting technology with the minimum quantity cooling lubrication for the purpose of reducing the cooling lubricant cost and the environment pollution was investigated.
Key Words:Steinbeis Fundation, Fraunhofer Gesellschaft, machining technology, semi-dry cutting

1.緒  言
図1 シュタインバイス・トランスファーセンター エスリンゲン工科専門大学(自動車工学)Issler教授  工業試験場では,中小企業の技術の高度化,国際化を支援するため,中小企業の技術支援にたいへん高い評価を受けているドイツ・シュタインバイス財団とその関連研究所に職員を派遣する海外研究交流を実施している。
 今回は,シュタインバイス財団とフラウンホーファー協会を訪れ,ドイツにおける産学官の研究開発や技術移転など企業の技術革新への支援体制について調査を行った。また,シュツットガルト大学工作機械研究所では,微少量クーラントを供給して切削加工を行うセミドライ切削加工技術に関する研究について調査を行ったので,以下に報告する。

2.バーデンヴュルテンベルグ州における産学官連携体制
 2.1 シュタインバイス財団の取り組み
 シュタインバイス財団は1971年に中小企業への技術コンサルティングサービスを目的に設立され,産学官共同プロジェクトとして,大学,研究機関の持つ学識と研究成果を効果的に企業へ技術移転し,企業の技術革新を支援している。財団本部は,バーデンヴュルテンベルグ州の州都シュツットガルトにあり,1982年には州の政府機関となっている。
 バーデンヴュルテンベルグ州は,図2に示すように,ダイムラー・ベンツ社,ロベルト・ボッシュ社のような巨大企業と数多くの中小企業が集中している工業地域であると共に,高等教育・研究機関も多数設立されている地域である。特に,州全体における研究開発のインフラ整備はドイツ国内でも有数であり,企業の技術革新にそれらの有効利用を図ることがシュタインバイス財団の最大の目的である。
 実際に企業への技術相談・指導を行うスタッフは,トランスファーセンターと呼ばれる本部の直下組織に所属している。トランスファーセンターの守備範囲は,機械系,電気電子系,化学系などの工学技術分野からデザイン関係,経営学関係の分野まで多岐にわたっており,そのほとんどは大学に併設され,それらの教授や研究者,学生などがスタッフとなっている。現在,州内外に300程度設置されている。

図2 バーデンヴュルテンベルグ州における研究開発のインフラストラクチャー

 2.2 フラウンホーファー協会の取り組み
図3 研究成果の企業化体制  フラウンホーファー協会は,ドイツの代表的な応用研究機関として1949年に設立され,1970年代から急速に発展してきた。現在ドイツ国内には,今回訪れたシュツットガルトのIPA研究所(製造・自動化技術研究所),アーヘンのIPT研究所(生産技術研究所)をはじめ49の研究所があり,約8500名のスタッフが企業への技術移転に力を注いでいる。この研究所の名称である“フラウンホーファー”は光学分野で著名なドイツの研究者の名に由来している。これは,彼が決して科学者ではなく,研究者,発明家,そして企業人であったということから,企業化できる実用的な研究開発を志すこの研究所の理念に合致するものである。
 図3のように,研究所のほとんどは近隣の大学と一対となった形で設置され,所長は大学教授が兼任することが多い。ここでは,企業からの委託研究のほか,大学で行われている基礎研究の成果を企業へ技術移転,実用化するための応用研究・開発を行う体制がとられている。実際に,IPA研究所では抽象的な基礎研究ではなく,特殊な大型ロボットや光ファイバ部品組立ラインなどの実践的な“モノづくり”の開発が行われていた。開発スタッフも博士,研究員,学生,技能員というように分けられ,研究,実験,製品化までを段階的にすすめられるようになっていた。

図4 シュツットガルト大学 工作機械研究所 3.セミドライ切削加工技術に関する研究調査
 3.1 研究背景
 環境問題からクーラント剤の使用に関する法的規制が厳しいドイツでは,クーラント剤に関わる経費が高く,できる限り使用せずに機械加工できることが強く望まれている。そこで,シュツットガルト大学工作機械研究所(図4)では,クーラント剤の使用量を極力微小量に抑え,かつ,従来と同等な加工能率・加工性能を実現できるセミドライ切削加工技術の開発1)を目指している。近年,日本でも環境問題からクーラント剤の使用を抑える傾向にあり,セミドライ加工またはドライ加工技術は今後の課題として挙げられる。以下に,研究内容について報告する。



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