産業廃棄物を原料とした人工軽量骨材の製造技術

[化学食品部] 宮本正規、中村静夫、塚林和雄
[金沢生コンクリート(株)] 北村義治、坂本正司、大野和城、加成義之

 生コンスラッジ,鋳造廃砂及び浄水場発生汚泥等の産業廃棄物を利用して,JISに適合した人工軽量骨材の開発を行った。更に使用原料に含まれる炭素成分を利用した自己燃焼方式で焼成した骨材の用途開拓についても検討し,以下の結論を得た。
 (1) 最適な基本的配合比率は重量比で生コンスラッジ1,鋳造廃砂1.8及び浄水場発生汚泥0.4であった。
 (2) 最適な焼成条件は炉内酸素濃度5〜10vol%の雰囲気下で1135℃で1時間焼成することにより,JIS A5002及び5308に適合した人工軽量骨材が得られた。
 (3) 自己燃焼炉で焼成した骨材を用いて透水性に優れた透水平板を試作できた。
キーワード:生コンスラッジ,鋳造廃砂,浄水場発生汚泥,人工軽量骨材,透水平板

Manufacturing Technology of Artificial Lightweight Aggregates Using Industrial Waste

Masaki MIYAMOTO,Sizuo NAKAMURA,Kazuo TSUKABAYASHI
Yoshiharu KITAMURA,Shouji SAKAMOTO,Kazuki OHNO and Yoshiyuki KANARI

 The artificial lightweight aggregate which conforms to JIS, was developed by using industrial waste as raw materials, such as raw concrete sludge ,casting abolition sand and the sludge of water purification plant. In addition, the application of the aggregate fired by the self -combustion method using the carbon included in the raw material was examined. The results are summarized as follows:
(1) The weight ratio for the best mixing of raw concrete sludge , casting abolition sand and sludge of water purification plant was 1:1.8:0.4.
(2) The artificial light weight aggregate which conformed to JIS A 5002 and 5308, was produced under the firing condition for 1 hour at 1135℃.
(3) The excellent water permeable panel was developed using the aggregate fired by self-combustion furnace.
Key Words:raw concrete sludge, waste sand, sludge of water purification plant, artificial light weight aggregate, water permeable panel

1.緒  言
 我が国の産業廃棄物の発生量は年間3億tonに達しており1),産業廃棄物埋立場の残余年数はわずか10年未満と言われている。21世紀を迎えようとしている現在,負の遺産を最小限度に抑えることが我々の責務であり,今後廃棄物の再資源化を積極的に行い,調和のとれた持続ある用途開発を行う必要がある。
 石川県工業試験場は金沢生コンクリート(株)(野々市町)と共同で平成6年度から生コンスラッジ,鋳造廃砂及び浄水場発生汚泥などを原料とした人工軽量骨材の開発を進めてきた。又,金沢生コンクリート(株)では平成9年度創造技術研究開発事業によって実証化規模での人工軽量骨材を試作するまでに至った。その間,1件の人工軽量骨材及びその製造方法について特許を既に保有し,1件が出願中である2),3)
 人工軽量骨材は構造用軽量コンクリート骨材(JIS A 5002)として用いられ,主に高層建築用資材として年間65万mが消費されている4)
 本製造技術では,人工軽量骨材の製造する際に必要な可塑性,自硬性,高強度発現性及び有利な低温易焼結性に優れた原料となる3種の産業廃棄物の機能を利用して,JIS規格に適合した新しい造粒系の人工軽量骨材を開発した。
 本報告では廃棄物の発生量,製造方法,骨材の品質及び用途などについて述べる。

2.産業廃棄物からなる原料
 人工軽量骨材の主原料となる廃棄物は,砂利,砂を分離した生コンスラッジ,鋳造工場の廃砂及び石川県手取川水道事務所鶴来浄水場(鶴来町)から発生する汚泥の3種類である。

 2.1 生コンスラッジ
 産業廃棄物としての生コンスラッジは汚泥に分類されており,その発生量は生コンクリート総出荷量1億7500万mに対するスラッジ発生量(湿潤ベース)の割合は1.72%になっており5),全国では約300万mと推定されている。生コンスラッジはアジテータ車に付着したモルタルや残コン及び戻りコンが主で,多くの企業では大半埋立処分されているのが現状である。

表1 生コンスラッジの化学組成(mass%)

図1 生コンスラッジの熱分析プロフィール  生コンスラッジの特徴は自硬性と可塑性を有しており,表1に示す化学組成からCaOとして1社を除いて概ね40%を超えている。不溶残分は生コンスラッジ中に残留している細骨材の微砂である。この不溶残分とIg.Lossを補正すれば普通ボルトランドセメントの組成に近似する。
 図1の熱分析プロフィールから6),加熱開始後の穏やかな吸熱反応とその後の2つの大きな吸熱反応が認められ,それらの反応に伴う重量減少がある。セメントの固化は水和反応に基づくもので,化学組成から100〜300℃までの穏やかな吸熱反応は水和水の脱離であり,500及び825℃付近の吸熱反応は,Ca(OH)の脱水とCaCOの脱炭酸反応によるものである。これらの反応による重量減少率は,水和水の脱離は3.6%,Ca(OH)の脱水が5.0%及びCaCOの脱炭酸が30%に達しており,図1に示す試料は炭酸化が相当進行していることがわかる。

 2.2 鋳造廃砂
図2 生型砂の循環サイクル  鋳造工場から排出される廃砂は廃棄物の処理及び清掃に関する法律によって管理型の産業廃棄物に指定されており,企業の処理費用の軽減と環境保護の観点からも廃砂の減量化,再資源化が求められている。
 銑鉄鋳物関係の生型砂における廃砂発生量は,製品1ton当たり215〜317kgになり,国内では年間約200万tonに達している。県内の鋳造工場は建設機械,繊維機械及び工作機械の部品を生産し,年間8000tonの廃砂が発生しており,管理型廃棄物としてほとんど県外で埋め立て処分されている7)
 鋳物工場における生型砂は,珪砂をベースにベントナイト(スメクタイトを主成分とする岩石),石炭粉及びαーデンプンなどからなる合成砂である。
 図2のように生型砂は循環しており,約90%の砂が回収されている。鋳造工場では作業環境面から各工程で発生した粉塵や劣化した粘土分を強制的に集塵しており,集塵ダスト,解枠ダストそして砂処理ダストが排出される。更に解枠した製品に付着している砂を落とすためにショット球でブラストしており,その工程からは鉄の金属粉を多く含むショット砂,ショットダストが排出される。これらのダスト類の他に型砂の老化防止のためラインから一定比率で間引きしている。
県内の6社から10試料の廃砂を採取して化学分析を行い,その化学組成を基にノルム計算によって鉱物組成を求めた結果を表2に示す。

表2 鋳造廃砂の化学組成   (mass%)

 廃砂の鉱物組成の特徴は表2より,ショットを除いて生型砂の組成目標値(全粘土:12±1%,活性粘土:7±0.5%,炭素:4±1%,石英:55%)と比較して,粘土の比率が2〜3倍多くなっており,逆に石英がいずれも下回っている。各工程別では解枠,集塵ダストが最も粘土分を多く含み,次に砂処理ダストの順になる。ショット系は解枠工程で相当粘土分が脱離していることから石英の比率が高くなっている。
 ショット系を除いて各ダストに含まれる混入鉄は,ほとんど酸化され,Fe2O3として1〜3%含まれている。ショット系の残留炭素は,直接高熱に晒される箇所にあたるためほとんど酸化して残留しておらず,ショット以外の各ダストについては8〜23%の範囲にある。
 人工軽量骨材の原料となる鋳造廃砂は,ショット系を除くダストに絞り,基礎研究から実証化実験に至るまで梶鋳工所(株)(高松町)の集塵ダストを実験に供した。
 この鋳造廃砂の特徴は適度に炭素を含むため,骨材製造の際自己燃焼原料となるほか,気孔付与材として期待できる。又主成分である石英が焼成後の骨材の強度を高める機能として働き,粘土は低温での焼結及び発泡による軽量化を期待した。

 2.3 浄水場発生汚泥
 石川県鶴来浄水場(250000m3/日)では,手取川を取水源とし,河川水に含まれる粘土等の懸濁成分をポリ塩化アルミで凝集沈殿処理した後,上澄水を砂ろ過して最後に塩素滅菌した水を県下広域に配水している。
 浄水場発生汚泥は,この凝集沈殿処理工程で発生したもので,加水分解によりギブサイトゲルを生成するため,必然的にAl2O3が多く含まれている。従って発生汚泥の化学組成は表3に示すように比較的季節変動が小さく,SiO2とAl2O3 が主成分である。発生汚泥の鉱物組成は,SiO2-Al2O3-K2Oの3成分からなるイライト(雲母族)とカオリナイト(Al2O3・2SiO2・2H2O)及び石英などが主成分であった8)

表3 浄水場発生汚泥の化学組成  (mass%)

 河川水の濁度は,平成5年度の実績9)によると取水口で平均29ppmである。7〜9月にかけて高く,最高200ppmに達している。一方,平均的に冬場は低濁度になっている。従って,浄水によって発生する汚泥量は年間1400ton以上になる。
 乾燥前の発生土は水分80%を超えているが,保管場で堆積している過程で乾燥し,強固な塊となるために粉砕が必要である。
 人工軽量骨材の原料となる浄水場発生汚泥は,表3よりR2Oで4〜5%含まれているので,最適焼成温度を引き下げることと焼成温度幅の拡大を目的とした。又,骨材中に占めるCaOの比率を調整する役目としても添加した。

 2.4 その他の補助原料
 その他原料としては,山砕汚泥,火山灰,製紙スラッジ等が目的に応じて添加された。



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