水系テープ成形技術の圧電セラミックスへの応用

[化学食品部]   北川賀津一
情報指導部]   中村静夫
金沢工業大学]   小板橋正康

 PZT(Pb[Zr,Ti]O3)仮焼粉末をテープ状に成形する条件を調べた。水(溶媒)と結合剤の配合比を最適とすることで,成形性に優れて,乾燥時にクラックの入らないグリーンシートを得ることができた。界面活性剤はスラリーとフイルムの塗れ性を改善するために少量添加する必要があった。
 密度7.54g/cm3,電気機械結合係数(k31)30.1%,機械的品質係数(Qm)1280のPZT圧電体は,1240℃で3時間大気中で焼成することで得られた。
キーワード:テープ成形,スラリー,電気機械結合係数,機械的品質係数

Application to Piezoelectric Ceramics by Water-tape Casting Method

Kaduichi KITAGAWA Shizuo NAKAMURA and Masayasu KOITABASHI

 A tape casting condition of calcinated powder of PZT(Pb(Zr,Ti)O3) was investigated. A green sheet which showed excellent casting and no crack after drying was obtained under the best mixing condition of water(solvent) and binder. In order to improve wettability between slurry and film, it was necessary to use small amounts of surface active agent.
  PZT ceramics with density 7.54g/cm3, electromechanical coupling factor(k31) 30.1%, and mechanical quality factor(Qm) 1280, respectively was obtained by sintering at 1240℃ for 3 hours.
Key Words:tape casting, slurry, electromechanical coupling factor, mechanical quality factor

1.緒  言
 鋳込み成形の一種であるテープ成形法は,アルミナ基板をはじめとする,小型化が要求される電子部品の分野で広く用いられ,その用途も多様化してきている。この鋳込み成形では,一般に粘性の低いスラリーを型に流し込んで,硬いセラミックスの成形体を得る手法であるが,テープ成形法では,比較的粘性の高いスラリーを使用し,ドクターブレードと呼ばれる鋭い刃に通して,一定の厚みを持つ緻密なセラミックスの板状成形体を得る1)
  圧電セラミックスとして代表的なPZTは,センサ,アクチュエーター,そしてトランス素子として広く用いられている。小型・薄型化して高出力を目指すには,テープ成形を応用して積層圧電セラミックスとするのが有効である。
 PZTは,反強誘電体であるPbZrO3(斜方晶系)と,強誘電体であるPbTiO3(正方晶系)との固溶体で,チタン酸バリウムに次いで早くから応用展開されている。
  PZTは,Zr:Ti=57:43の組成付近を境にして,チタン濃度の増加とともに結晶系は,菱面体晶系から正方晶系に転移し,自発分極の向きは[111]から[001]へ変化する。この過程で結晶構造が不安定になり,誘電的圧電的性質が著しく高められる。組成によって結晶系が変わる相境界は,モルホトロピック相境界(MPB)と呼ばれる。
  今回の報告では有機物の排出が問題となることが少ない,水系結合剤によるスラリーの実験結果について述べる2)。水による電気二重層を考慮して,スラリーの安定性や粘性などの検討も行った。

2.テープ成形の特徴
 通常は,原料粉末と有機結合剤を混合して液状スラリーとし,図1に示すように,スラリーをタンクに投入してブレードの隙間から,一定厚さのスラリーを流し出し均一で強い薄膜とする。この成形されたシートをグリーンシートと呼ぶ。グリーンシートは適当な形に切断したり,高速パンチプレスで穴をあけたりして加工される。



 スラリーが刃(ドクターブレード)を通るときにはせん断力がかかる。大塚はシート成形を以下のように解析している3)。スラリーがニュートン流体であると 仮定すると次式が得られる。

(μ:粘性率,V:流速,ρ:スラリー密度,g:重力加速度, H:タンクのスラリーの高さ,l:ブレード厚み)
グリーンシートの厚みTは次のように表される。

 第一項はキャリアテープが停止しても流れ出す粘性流第二項はキャリアテープの移動により引っ張られて流れ出す索引流である。
(μ':非ニュートン粘性率,h:ブレード隙間)
グリーンシートの厚さを一定に保つには,索引流項を大きくする必要があり,そのためには次の条件を満たせばよい。
(1)スラリータンク内のスラリー高さHを低くする。
(2)スラリー粘度μ'を大きくする。
(3)ブレードの厚みlを大きくする。
(4)キャリアテープ送り速度V0を大きくする。
(5)ブレード隙間hを小さくする。
本研究では上述の項を考慮しながら実験を進めた。

3.実  験
 3.1 グリーンシートの作製
 圧電セラミックスの原料には,林化学工業製のPZT粉末を使用した。スラリーはPZT粉末と水(溶媒),結合剤,界面活性剤を所定の重量比で,48時間以上ボールミルで混練混合して調製した。混練混合した後スラリーは真空脱泡を行い,一昼夜間放置した後,図1のようなシート成形機でキャスティングを行った。キャスティング条件は第1ブレード隙間を1.5mm,第2ブレード隙間を1mm,シート送り速度を0.56cm/秒とした。シート成形したグリーンシートは室温で自然乾燥した。

 3.2 圧電セラミックスの試作
 乾燥したグリーンシートは,所定の寸法にカッターで切断して重ね,加熱プレス機で積層した。プレス条件はプレート温度70℃,荷重110kgfとした。成形体は40℃で10時間乾燥した後,電気炉で脱脂,焼成そして焼鈍を行った。
 物性評価は高温型示差熱分析,X線回折,走査型電子顕微鏡で行った。PZT焼結体に銀電極を焼き付け,シリコンオイル中で3kV/mmで30分,直流電界を印加し分極を行った。150℃で4時間短絡した状態で,エージングを行い圧電特性を調べた。圧電特性は,日本電子材料工業会標準規格EMAS-6100に準じて,インピーダンスアナライザー(HP-4192A)で調べた。


* トップページ
* 研究報告もくじ
 
* 次のページ