3.4 カーボンブラックの添加量と変色防止効果

     図15 カーボンブラック添加量と
        促進熱水試験による色差の変色
    図15 カーボンブラック添加量と促進熱水試験による色差の変色  図15にカーボンブラック添加量と促進熱水試験による色差の変化を示す。
     カーボンブラックの隠蔽効果を利用することで、熱水による変色を抑える効果があった。
     カーボンブラックの添加量は、多い方が変色を防止する効果はあるが、多量に添加すると漆液の粘度が増大し、塗布時に刷毛目筋が付き塗面の直りも悪いので、塗膜の仕上がりが悪くなった。
     従って、カーボンブラックの添加量は、漆100部に3〜4部が良好であった。

    3.5 改質漆(ウルシオール添加、分散乳化処理)の変色防止効果

     図16に改質漆と促進熱水試験による色差の変化を示す。  ウルシオールを添加した塗膜は、促進熱水試験460時間後の色差がΔΕ5.5と変色防止に効果があることが分かった。これは、図17が示すように、塗膜中に添加したウルシオールの粒子(2〜3μm)が点在している状態が観察でき、ウルシオール添加によりゴム質が減少したこととウルシオールの表面が滑らかであるため、変色が減少したと考えられる。また、同漆にカーボンブラックを3部添加した塗膜は、促進熱水試験460時間後で色差がΔΕ4.0と変色が一番少なかった。  なやしの代わりに分散乳化処理を行った塗膜は、色差がΔΕ11.4と大きいことが分かった。これは、高速分散乳化機でゴム質が小さく分散されたためと考えられ、なやしを長時間行ったのと同様の効果と考えられる。  図18に改質漆と促進熱水試験による色味の変化を示す。  常法製漆塗膜、ウルシオール添加塗膜は、促進熱水試験の時間の経過と共に黄褐色の方に色相が移動するが、カーボンブラックを添加した塗膜は、黄緑色を経て460時間後には、鈍い赤褐色に変化した。また、明度 はL*5.0と小さく、他の塗膜より黒く感じられ変色の防止に効果があった。

    図16 改質漆と促進熱水試験による色差の変化
    図17 ウルシオール添加(NO.16)浸漬熱水試験80時間後
    図18 改質漆と促進熱水試験による色味の変化

    3.6 椀の繰り返し熱水試験及び実用試験

     図19に椀の繰り返し熱水試験による色差の変化を示す。  図20に椀の繰り返し熱水試験による色味の変化を示す。  椀の繰り返し熱水試験を行った結果、ウルシオールを添加した塗膜は、使用回数50回で色差がΔΕ1.2、300回でΔΕ3.2と変化が小さく、変色の防止効果が大きいことが分かった。しかし、常法製漆や分散乳化処理の塗膜は、50回で色差がΔΕ5.6、ΔΕ5.3、140回で色差がΔΕ9.1、ΔΕ7.5と初期の段階で変色した。また、色相の変化は、試験前は青紫かかった黒色であるが、繰り返し熱水試験を行うと赤褐色や黄褐色に変化した。特につや剤20部添加塗膜の色相は、黄褐色に変化し明度の変化も大きいため、視覚的に変色が大きかった。  ウルシオール添加塗膜は、鈍い赤褐色で色相の変化は小さいが、もともと明度の値が大きいため少し白く見えた。しかし、明度の変化は小さいため変色は少なかった。  従って、促進熱水試験での結果と同様に椀による試験でも変色の防止効果が実証された。  図21に椀の家庭実用試験の色差の変化を示す。  椀の一般家庭での実用試験は、繰り返し熱水試験(図19)より試験条件が緩やかである。また、試験条件(使用回数、汁の温度、洗浄方法等)が一定ではないので、数値の比較は難しい面がある。しかし、得られた数値や視覚的ものから判断をすると、カーボンブラックやウルシオールを添加する方法が最も変色の防止に効果があった。  使用回数と変色の関係では、使用初期の段階で急速に変色が進むが、その後は、徐々に変化し安定した色味が保持できることが分かった。従って、漆器製品のクレームの発生は、使用回数の少ない初期の段階で発生していると考えられる。

    図19 椀の繰り返し熱水試験による色差の変化
    図20 お椀の繰り返し熱水試験による色味の変化
    図21 家庭実用試験の色差の変化

  1. 結 言

     黒漆塗り什器に熱い汁を入れて使用すると熱水によって灰褐色に変色することが知られていたが、防止する方法が無く、業界では困っていた。
     本実験では、製漆技術の方法や改良漆等による変色の防止を検討した結果、次のことが明らかになった。
    (1) 鉄による着色は、多く添加した方が変色防止の効果が大きい。しかし、多く添加すると粘度が増加し、刷毛塗りができない。従って、鉄の添加量は、0.3〜0.4wt%が適量であった。
    (2) なやし(攪拌)時間は、熱水による変色に大きく影響する。 なやし時間が短いと見た目の変色(色 相変化)は小さいが、光沢の減少が大きいので白く見える。また、なやし時間が長いと変色(色相変化)が大きく、光沢の減少は小さい。(3) つや剤の添加量の違いで、変色の進行速度が左右される。生漆100部につや剤10〜15部添加した場合、初期段階の変色防止に効果があった。
    (4) カーボンブラックは、多く添加した方が変色防止効果が大きい。しかし、多く添加しすぎると粘度が 高くなり、塗り肌が悪くなるので、生漆100部に3〜4部添加するのが適量である。
    (5) ウルシオールを添加すると変色を少なくすること ができた。しかし、多量に添加すると漆の乾燥が遅くなるので、生漆に30wt%以下加え製漆する。
    (6) 椀の繰り返し熱水試験や家庭での実用試験でも、上記の変色防止技術の効果を確認した。
     以上のことから、黒漆塗膜の熱水性を向上するには、生漆の組成の見極め、なやし時間、つや剤の添加、ウルシオールやカーボンブラック添加等、製漆技術と漆の改良方法を組み合わせることで、熱水にさらされても変色の少ない漆器の製造が可能となる。

     
    参考文献
    1)池田光男:色彩工学の基礎,朝倉書店,P148 (1984)
    2)坂本誠、市川太刀雄、江頭俊郎:黒漆の変色防止に 関する研究、石川県工業試験場研究報告,41,p.23-31(1993) 3)日本工業規格 JIS K 5950
    4) 〃 JIS K 5400 7.6
    5) 〃 JIS D 0502 7.3
    6) 〃 JIS Z 8729
    7)   〃 JIS Z 8730 6.1


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