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小型ハイブリッド油圧システムの開発 −狭小空間作業ロボットへの応用を目指して−

機械金属部 中島明哉 根田崇史 舟田義則 廣崎憲一
金沢大学 関啓明

 油圧機器の新規用途開拓を目的に,自走式管内作業ロボットによる穿孔加工に応用可能な小型ハイブリッド油圧システムの開発を行なった。工作機械に穿孔用の専用工具を取り付けて行なった切削抵抗の測定結果を基に,最大トルク4.5Nmの回転型と最大推力392N,ストローク140mm,分解能0.05mmで位置決めが可能な直動型の2つの小型ハイブリッドシステムを試作した。これらを組み合わせて穿孔加工システムを試作し,加工実験を行なった結果,工具回転速度3000rpm,送り速度0.2mm/sの条件の下で,φ300mm厚さ9mmの塩化ビニル管の加工が可能であった。
キーワード: 油圧,ハイブリッド,小型

Development of a Compact Hybrid Hydraulic System
- Application to the Power Unit of Robot Systems Working in Tight Spaces -

Akichika NAKASHIMA, Takashi KONDA, Yoshinori FUNADA, Kenichi HIROSAKI and Hiroaki SEKI

For the purpose of exploring a new market for hydraulic devices, we developed a compact hybrid hydraulic system for self-propelled robots to engage in in-sewer work. Two units were prepared based on the result of cutting force measurement of the machining tool. One was a rotary type with a maximum torque of 4.5Nm, and the other was a linear type, which had a maximum thrust force of 392N, a total stroke of 140mm and a linear positioning resolution of 0.05mm. The prototype, which combined the two units, was able to cut a PCV pipe of 300mm in diameter and 9mm in thickness at a tool revolution of 3000rpm and a feed rate of 0.2mm/s.
Keywords : hydraulic, hybrid, compact

1.緒  言
  油圧システムは,以下に示す特長1),2)を有しており,大きな力を迅速かつ正確に伝達・制御できることから,建設機械やプレス機械などの重厚長大な分野で利用されている。
 ○空気圧に比べ小形で強力
 ○高い潤滑性・防錆性
 ○遠隔操作が可能
 ○電気・機械システムに比べ過負荷防止が容易
 ○空気圧に比べ高精度,高応答
  一般的な油圧システムは,圧油を供給するポンプ,制御するバルブ,仕事に変換するアクチュエータ,そして油を貯めておくタンクから構成されている。図1に示すような従来のシステムでは,ポンプから常時供給される圧油の流れをバルブの開閉によって制御することでアクチュエータをコントロールしている。そのため,アクチュエータを駆動しない状態においても圧油の供給は続いており,無駄なエネルギーを大量に消費していることが問題視されている。
  一方,近年の電気制御技術や情報処理技術などの発展に伴い,油圧システムもセンサやコンピュータが搭載され知能化・高機能化が図られている3)。その一つにハイブリッド油圧システム4)がある。
  ハイブリッド油圧システムは,図2示すように圧油を供給する装置自体の動作を精密に制御することによりアクチュエータをコントロールするシステムである。そのため,アクチュエータを駆動しない状態では圧油の供給を止めることができ,無駄なエネルギー消費を抑えられるばかりでなく,システムに充填される油量が少なくて済むことから,小型・軽量化が期待できる。しかし,油圧は重厚長大な分野においてその特長を最大限に発揮するため,他分野へ応用可能な小型・軽量な油圧機器がほとんど無く,既存の油圧システムを置き換えるためにしか活用されていないのが現状である。
 そこで本研究では,ハイブリッド油圧システムの特徴を生かした油圧機器の新規用途開拓を目的に,管内作業など狭小空間かつ水関連の環境下にて作業を行なう移動型ロボットへの適用を想定した小型ハイブリッド油圧システムの試作を行なった。

(図1 従来の油圧システム)
(図2 ハイブリッド油圧シス)

2.小型ハイブリッド油圧システム
2.1 直動型システム
  管内作業ロボットに求められる作業として樹脂製パイプの穴加工があり,これには工具を回転させながら送る動きが必要となる。そこで,工具を送るための直動型と工具を回転させるための回転型の2種類のハイブリッドシステムについて検討した。
  直動型システムの概要を図3に示す。これには,リニアアクチュエータを取り付けた制御用油圧シリンダにアクチュエータ用油圧シリンダが連結されている。電動モータにより直動機構を介して制御用油圧シリンダを動作させることにより,これに連結したアクチュエータ用油圧シリンダの動きを遠隔で制御することができる。制御用油圧シリンダは,圧油を供給するポンプと油を貯めておくタンクの両方の機能を兼ねている。また,これに位置センサを搭載すればアクチュエータ用油圧シリンダには位置センサを搭載する必要が無いことから,水関連の環境下などでの使用が可能であり,油圧システムの特長である高い潤滑性・防錆性が維持されている。

(図3 直動型システム)

2.2 回転型システム
  回転型システムの概要を図4に示す。これは,電動油圧ポンプと油圧モータを直結し,油圧タンクをなくすことで油量を必要最小限としたシステムである。油圧モータに工具を取り付けることで,工具の回転数を電動モータにより油圧ポンプと油圧モータを介して遠隔制御できる。そのため,工具近傍に回転数センサを取り付ける必要が無く,油圧システムの特長が維持されている。

(図4 回転型システム)

3.実験システムの設計と試作
  システムの試作を行なうにあたり,目標とする管内作業ロボットの穴加工に必要な加工力の測定を行なった。NC旋盤に図5に示すような専用穴あけ工具(φ80mm,6枚刃)を取り付け,樹脂製パイプにみたてた被削材を加工したときの切削抵抗を動力計により測定した。穴加工では穴を貫通させた後拡張させる必要があることから,軸方向への切り込みと半径方向への送りの二方向について測定を行なった(図6)。その結果,工具の回転に必要なトルクは約4Nm,工具の送りに必要な推力は120Nであることが分かった。その結果を基にφ300mmの管内にて穴加工作業を行なうロボットへの適用を可能にするため,表1に示すように,工具回転用に最大トルク4.5Nm,最大油圧20.6MPaの油圧モータとそのためのポンプを選定した。また,工具を送るために,最大推力392N,ストローク150mmの電動シリンダとそのための油圧シリンダを選定した。なお,油圧シリンダは制御用に2本,アクチュエータ用に2本の計4本使用することとした。これらを組み込んで製作した加工試験システムを図7に示す。これを基に管内作業ロボットシステムを製作すると外形寸法は805mm×370mm×195mm (長さ×高さ×幅)となることが予想される結果となった。これは,従来の油圧システムに比べれば格段に小さいが,φ300用管内作業ロボットに実用するには,より一層の小型化が必要である。この解決手法としては,一つのシリンダで全ストロークに対応せずに複数のシリンダで多段階化を図ることや,必要最小限の出力の電動モータを選定することなどが考えられる。

(図5 専用穴あけ工具)
(図6 切削抵抗測定の様子)
(図7 加工試験システム)
(表1 システム構成部品の仕様)

4.性能評価
4.1 直動型の位置決め分解能
  管内作業ロボットはカメラ画像を頼りに遠隔操縦される。穴あけ作業においてその必要加工公差は数ミリ程度とされていることから分解能が1mm程度あれば十分である。そこで,試作した直動型システムの位置決め分解能を把握するため,電動シリンダを一定時間毎に0.05mmでステップ送りした際の工具送り用油圧シリンダの変位(位置)をレーザ測長機により測定した。その結果を図8に示す。3ステップ目以降は送り量が0.05mmに近い値を示していることがわかる。2ステップ目までは0.05mmの送り量より小さいが,これは油圧シリンダ内に作動油を封入した際に空気が混入したためと考えている。しかしながら,この影響は多く見積もっても管内作業において必要な分解能1mmの10分の1以下であり,十分な位置決め分解能が得られていることがわかる。

(図8 油圧シリンダのステップ送り時の変位)

4.2 回転型の油温
 一般的な油圧作動油の高温使用限界は70℃5)である。そこで,試作した回転型システムについて,作動油が室温(16℃)の状態から,電動モータを500rpmの一定速で回転させた際の油温の変化を測定した。その結果を図9に示す。電動モータ始動後1時間程で12℃近く油温は上昇したが,その後の温度上昇はほとんど無いことが分かる。このときの油温は30℃未満であり,油の高温使用限界より十分低いことから,長時間の連続運転には支障がないことがわかった。

(図9 油温変化の測定結果)

4.3 加工実験
  試作した加工試験システムにφ80mm,6枚刃の専用工具を取り付け,図10に示すような半径方向送りでの加工実験を行なった。工具回転速度3000rpm,送り速度0.2mm/sの条件の下で,厚さ9mmの塩化ビニル管の加工が可能であった。

(図10 加工実験の様子)

5.結  言
 回転型と直動型の2種類の小型ハイブリッド油圧システムの試作を行なった。その結果は以下のとおりである。
(1)直動型は位置決め分解能が約0.05mmと管内作業ロボットとして十分な性能を有している。
(2)試作したシステムでは厚さ9mmの塩化ビニル管の加工が可能であった。
(3)試作システムの最小構成時の外形寸法は805mm×370mm×195mm (長さ×高さ×幅)であり,より一層の小型化が必要である。

謝  辞
  本研の遂行にご協力頂いた株式会社北菱,株式会社ダイアディックシステムズに感謝します。

参考文献
1) 手島力. 油圧のカラクリ. 大河出版, 1982.
2) ハイドロニクスチーム. 新・知りたい油圧 基礎編. ジャパンマシニスト社, 1993.
3) ハイドロニクスチーム. 新・知りたい油圧 活用編. ジャパンマシニスト社, 1996.
4) 西海孝夫. “油圧システムの概要”. 機械設計. 2008, vol. 52, no. 6, p. 11-19.
5) データシート. 油研工業総合カタログ. 2004, p. 754.