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フッ化セリウム含有酸化フッ化物ガラスの作製と光学特性

■九谷焼技術センター 高橋宏
■福井大学 米沢晋 川井昌之 高島正之

研究の背景
 セリウムは,希土類金属のなかで最も地殻存在率が高く,豊富に産出される元素である。3価のセリウムイオンは,光学デバイスの重要な元素として注目され広く研究が行われている。3価のセリウムイオンを含むガラスは,紫外線照射により青色発光を発現しシンチレータ,LEDなどの発光材料としての研究が行われている。また,酸化物イオンとフッ化物イオンが共存する酸化フッ化物ガラスなど,アニオンが複合したガラスは新規の光学材料として期待されている。本研究では,3価のセリウムイオンを効率良く取り込む方法として,フッ化セリウムを用いた酸化フッ化物ガラスの合成方法を検討し,その特性を調べた。


研究内容
  セリウムを含む酸化フッ化物ガラスCeF3-BaF2-AlF3-SiO2を,CO及びAr雰囲気で作製した。本研究では,CeF3が最大で40mol%含むガラスを作製することができた。図1に本研究で検討したガラス組成の範囲を示した。CO雰囲気で作製したガラスは,無色あるいは淡黄色のガラスとなった。10CeF3-20BaF2-10AlF3-60SiO2 及び20CeF3-10BaF2-10AlF3-60SiO2周辺の組成は,焼成温度1300℃で90分保持の条件で再現良くガラスを作製することが可能であった。CO雰囲気下で作製したガラスは紫外線の照射で青色の蛍光が発光した。これは,CO雰囲気下で作製したガラス中には,セリウムイオンが3価のイオンとして存在していることを示している。ガラスの発光スペクトルは,Ce3+のf-d遷移に由来するブロードなスペクトル形状であった。発光特性を調査するため,ピーク分析を行った。発光スペクトルは,410nm付近(ピーク1),445nm付近(ピーク2),490nm付近(ピーク3)を中心とした3つのピークに分離することができた。図2にスペクトル分析の結果の例を示した。ピーク1とピーク2のエネルギー差は,スピン?軌道相互作用によって分裂した 2F5/2と 2F7/2軌道のエネルギー差に対応すると考えられた。ピーク3は,励起波長が長波長側で測定すると強度が高くなる傾向があり,エネルギーの異なるセリウムイオンの存在が示唆された。ガラス中の各元素の状態を,X線光電子分光法(XPS)で分析した。ガラス中の酸化物イオンは,酸化セリウムの酸化物イオンよりも共有結合性が高く,ガラス中のフッ化物イオンは,フッ化セリウムのフッ化物イオンよりもイオン結合性が高い状態であった。図3にO1sスペクトル,図4にはF1sスペクトルを示した。ガラス中のCe3d及びCe4d電子のスペクトルは,CO雰囲気とAr雰囲気でそれぞれ作製したガラスで大きな差はなく,ガラス特有のピーク形状を示した。CO雰囲気で作製したガラスのセリウムイオンは陽イオン性の状態,Ar雰囲気で作製したガラスのセリウムイオンは陰イオン性の状態になっているのではないかと推測された。

(図1 ガラス作製範囲)
(図2 発光スペクトル分析)
(図3 O1sスペクトル)
(図4 F1sスペクトル)

研究成果
  セリウムを含む酸化フッ化物ガラスの作製と物性を検討し以下の結果を得た。
(1)ガラスをCO雰囲気下で作製し,セリウムイオンを最大で40mol%含むガラスの作製が可能であった。
(2)CO雰囲気で作製したガラスは,紫外線照射で青色の蛍光発光が発現した。
(3)ガラスの発光スペクトルは,3つのピークに分離できた。ピーク1とピーク2のエネルギー差は,スピン-軌道相互作用による基底状態の分裂によって生じるエネルギー差に同定できた。
(4)ガラス中の酸化物イオンは共有結合性が高くなり,フッ化物イオンはイオン結合性が高い状態にある。
(5)ガラスのセリウムイオンの状態は,ガラス特有の結合状態にあり,CO雰囲気で作製したガラスでは,陽イオン性が高まり,一方Ar雰囲気で作製したガラスでは,陰イオン性が高い状態にあることが推測された。

論文投稿
  Journal of Fluorine Chemistry 129, 2008, p.1114-1118.