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日本の伝統的魚醤油「イシル」の生理学的機能

■石川県立大学 谷口肇 榎本俊樹
■化学食品部 道畠俊英

研究の背景
 魚醤油は,古くから世界各地,特に東南アジア諸国で代表的な調味料の一つとして生産されている。石川県能登地方においても,イカの内臓やイワシを原料とした魚醤油「イシル」が生産されてきた。しかし,イシルについてはこれまで成分や機能性について明らかにされていないのが現状であった。そこで,能登の伝統的調味料であるイシルの呈味性に及ぼす主要な成分と,生理学的機能について検討を行った。


研究内容
  能登地方で製造販売されている市販のイカイシル(SQ)およびイワシイシル(SA)について,成分および機能性について分析を行った。

 イシルの一般成分を表1に示す。SQの全窒素は1.73〜2.49g/100ml,塩分は14.81〜26.54g/100mlであり,SAの全窒素は1.42〜2.16g/100ml,塩分は25.74〜27.33g/100mlで,いずれも高塩分で全窒素含量が高く,一方糖分,粗脂肪はほとんど含まれていなかった。次に,市販イシルのペプチドおよび遊離アミノ酸について表2に示す。うま味成分である総遊離アミノ酸量は,SQが62.3〜81.5mmol/100ml,SAが44.5〜76.1mmol/100mlであり,イシルには一般的な濃口醤油の約2倍近い遊離アミノ酸が含まれていた。遊離アミノ酸組成では,SQ,SAいずれも,アラニン,グルタミン酸,グリシン,リジン,バリンなどが主なアミノ酸であり,これらは総遊離アミノ酸中の41〜63%を占めていた。また,SQではプロリン,SAではヒスチジンが多い傾向を示した。また,総ペプチド量についても,SQで3.7〜9.6mmol/100ml,SAで9.5〜18.8mmol/100mlと,多量に含まれていることが明らかとなった。また,SQとSAを比較すると,総遊離アミノ酸量はSQ,総ペプチド量はSAが多い傾向がみられた。従って,イシルには多量のペプチドや多種類の遊離アミノ酸が豊富に含まれていたことから,これらの成分によりイシル独特の呈味性が形成されているものと考えられる。

(表1 市販イシルの一般成分)
(表2 市販イシルのペプチドおよびアミノ酸量)

 次にイシルの機能性について検討を行った。まず,イシルの抗酸化活性をDPPHラジカル消去能法でのIC50値における没食子酸相当量の比較を図1に示す。没食子酸相当量でSQが3.02〜4.48μmol/ml,SAが1.85〜3.48μmol/mlと,すべてのイシル試料において非常に高い抗酸化活性が確認された。血圧上昇抑制効果の指標であるACE阻害活性について図2に示す。ACE阻害活性のIC50値の比較したところ,SQが0.38〜0.52μl/ml,SAが0.14〜0.25μl/mlとこちらも非常に高いACE阻害活性を示し,SAの方がSQよりも高い傾向がみられた。イシルの高い抗酸化性やACE阻害活性は,イシルに含まれる多量のペプチドが関与しているものと推察され,現在詳細な検討を行っている。

(図1 市販イシルの抗酸化活性)
(図2 市販イシルのACE阻害活性)

研究成果
  能登の魚醤油イシルについて成分,機能性について検討した結果,以下の結果が得られた。
(1)イシルには,うま味成分である遊離アミノ酸やペプチドが多量にかつ多種類含まれており,これらによりイシル独特の呈味性を形成しているものと考えられる。
(2)イシルには,非常に強い抗酸化活性およびACE阻害活性を持つことが明らかとなった。従って,イシルは調味料としてだけでなく,機能性食品素材としての可能性も示唆された。

論文投稿
  Biocatalysis and Agricultural Biotechnology, 2009 p.199-206.