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石川県工業試験場のモノづくり支援と機械金属加工技術の開発

■機械金属部 多加充彦 廣崎憲一 舟田義則 安井治之

研究の背景
 石川県工業試験場は,「中小企業の試験室・実験室」として,技術相談・指導,依頼試験(測定,分析),研究開発及び技術情報提供を行っている。さらに,近年は「連携新産業の創造」,「次世代企業の育成」を目標に産学官連携による共同研究,国際試験所認定等の高度計測試験体制の整備,試験機器の整備等の事業を推進している。本報では,当場におけるモノづくり支援に関するこれらの取り組みの概要とこれまでに実施した機械金属加工技術に関連した研究開発3テーマについて紹介した。


研究内容
1.モノづくり支援の取り組み
 石川県工業試験場が県内のモノづくり企業を支援するために行っている主要事業として,モノづくり支援センター整備による試作支援,国際試験所認定(表1参照),企業参画による研究開発,研究員等派遣指導の概要を紹介した。

2.機械金属加工技術の研究開発
 社会的ニーズや本県の機械金属加工業のニーズに応えるために実施した,(1)外科インプラント部品の設計加工技術,(2)半導体レーザによる超薄板溶接技術および(3)DLC成膜技術の3テーマの研究開発について紹介した。主な内容は以下のとおり。
(1)外科インプラント部品の設計加工技術
 整形外科治療に用いられるインプラント部品は,形状・サイズの固定された既製品であるため,十分な初期固定や長寿命化には限界がある。そのため患部個々に適合した形状に設計・加工されることが望まれている。本研究では,人工股関節ステムのカスタムメイド化を構築する目的で(図1参照),金沢工業大学,金沢医科大学との共同研究を実施し,その要素技術となる[1]ステムのカスタムメイド設計手法の開発と,[2]ステムの金属材料として有望な生体用バナジウムフリーチタニウム合金の高速切削加工技術の開発を行った。

(表1 石川県工業試験場の国際試験所認定分野)
(図1 人工股関節ステムのカスタムメイド化の構築)

(2)半導体レーザによる超薄板溶接技術
 近年,使用される部材の薄肉化が進む電気電子製品や精密機械製品において,超薄板を高精度に溶接する技術が求められている。これにはレーザ溶接が有効であるが,従来のレーザ機器は高価で電力効率が高く,取り扱いが難しい等の問題がある。本研究では,電力効率が高く安価で扱いが容易な半導体レーザを用いた超薄板溶接技術に取り組み,楕円ビームの特徴を活かした超薄板溶接(図2参照)を開発し,実製品への応用について検討した。

(図2 ビーム形状による貫通溶接可能条件範囲の違い)

(3)DLC成膜技術の開発
 近年,各種産業界で使用されている工具,金型,機械部品等にはますます高精度化,高機能化,長寿命化が要求され,その使用環境も過酷になってきている。このような要求に対し,当場では1980年代後半からDLC膜に着目し,三次元複雑形状物への均一成膜技術の開発及びDLC膜とナノダイヤモンドを積層した高硬度DLC膜の開発(図3参照)を行った。

(図3 HND膜の断面TEM像(DLC+ナノダイヤモンドの二層構造))

研究成果
 紹介した研究の主な成果は以下のとおり。
(1)本研究で考案した人工股関節ステムのカスタムメイド設計手法は,単調な直線的なスライス断面の手法に比べ高い髄腔占拠率が得られた。また,ステム等の生体用チタニウム合金の切削にバインダレスcBN工具が有効であることが確認された。
(2)楕円ビームをそのまま集光して照射する半導体レーザ溶接は超薄板溶接にとって有用な技術である.また溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ溶接に半導体レーザ溶接を適用した結果,YAGレーザ溶接に比べ溶接歩留まりが大幅に改善された。
(3) 三次元複雑形状物への均一成膜技術としてハイブリッド型パルス・プラズマ・コーティング(HPPC)システムを開発し,パイプ等の内面DLCコーティングが可能となった。また,DLC膜とナノダイヤモンドを積層したハイブリッドナノダイヤモンド(HND)膜を開発し,従来のDLC膜の摺動特性を失わずに,硬度4000〜5000HVと硬さの約2倍を実現した。
 最後に,本報で紹介した指導事業やモノづくり支援センター設備の利用案内,関連の研究報告は,石川県工業試験場ホームページに掲載されている。

論文投稿
 砥粒加工学会誌 2008. Vol.52, No.12, p.694-697.
 特集「北陸信越地区における工業技術センター・工業試験場の取り組み ―先端加工技術と周辺技術―」