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プラズマMOCVD法による窒化ホウ素(BN)膜の作製

■機械金属部 安井治之
■企画指導部 粟津薫
■金沢工業大学 池永訓昭 作道訓之

研究の背景
 窒化ホウ素(BN)膜は,ダイヤモンドに次ぐ硬度と優れた摺動特性をもつことから,トライボロジー部材への適用が期待されている膜であるが,未だ実用化されていないのが現状である。本研究では,液体有機金属であるトリメチルボレートを原料として,プラズマMOCVD法により新たな構造のBN膜を作製を試みた。作製したBN膜の評価は,膜の構造評価として赤外分光法(FT-IR),ラマン分光法,X線回折法,硬度評価をナノインデンテーション法により測定を行った。その結果,作製したBN膜は,hBN+ホウ酸の複合構造のBN膜であることがわかった。


研究内容
 実験に用いた装置は,図1に示すように真空容器(φ350mm×L400mm),パルス・プラズマ発生用の高周波電源(RF:13.56MHz)とマイクロ波発生装置(MW:2.45GHz),負の高電圧パルス電源部から構成されている。成膜は,ボンバード用のArガスと成膜用のトリメチルボレート(TMB)とN2ガスを用い,Siウェーハ基板と超硬合金(WC)基板上にBN膜を作製した。
 BN成膜は,TMB流量を一定(1Sccm)のまま,同時にN2ガスを350から750Sccmまで変化させて成膜した。成膜時の圧力は40Paであり,その時の温度は最高500℃であった。
 作製したBN膜の膜構造は,赤外吸収(FT-IR)(堀場製作所:FT-730),ラマン分光分析(堀場製作所:RabRam)およびX線回折(XRD)(マックサイエンス:XMP-18X)により評価を行った。機械的特性は,ナノインデンテーション試験機(hysitron)を用いて硬度測定を行った。
 BN膜のFT-IR測定は,赤外領域で透明であるSiウェーハ基板に成膜したBN膜を用い透過法で測定した。測定結果を図2に示す。その結果,800,921,1193,1380,1450,3220cm-1の5カ所に特徴的なピークが現れた。我々のBN膜は,cBNのピークは得られていないが,800cm-1と1380cm-1にhBNのピークが現れている。1380cm-1のピークは1450cm-1のBON結晶のピークに隠れているが,若干1380cm-1付近にショルダーが観察される。その他のピークは,B-O-Siのピークが921cm-1に,B-Oのピークが1193cm-1に,BONのピークが1450cm-1に,さらにB-OHのピークが3220cm-1に現れている。hBN結晶のピーク以外は,酸素とホウ素および酸素と基板のSiとの結合のピークであることから,hBNの結晶と酸化物の混合膜であることが推察される。

(図1 BN成膜装置の概略)
(図2 FT-IR測定結果)

 BN膜のラマン測定は,514.5nmのArレーザを用いてレーザ出力10mW,スポット径50μmにて測定した。測定結果を図3に示す。その結果,208,500,880,1167, 1384cm-1の5カ所に特徴的な鋭いピークが現れている。BN膜のラマンスペクトルは,cBNが1057と1306cm-1付近に,hBNが1380cm-1付近にピークが得られる。図3より1384cm-1はhBNのピークであり,cBNのピークは得られていないことがわかった。また,ホウ酸(H3BO3)ピークである880cm-1に半価幅の小さい鋭く大きなピークが得られており,本研究で作製したBN膜は,hBN構造をベースとしてホウ酸が混じっている混合膜であると考えられる。
 次に,XRD測定結果を図4に示す。XRD測定は,θ−2θ法によりX線管電圧50kV,電流100mAで測定した。その結果,2θ=70°にSiウェーハ基板からの強いピークSi(400)および33°にSi(200)のピークが観察され,その他に28°にhBN(002)のピークが観察された,今回膜構造を測定した3手法すべてからhBNの結晶構造が観察されたことから,本研究で作製したBN膜はhBN構造を有した膜であることがわかった。
 さらに,膜の硬度測定した結果を図5に示す。測定した結果,硬さ値19GPa,除荷曲線から求めた弾性率163GPaが得られた。hBN単体の硬さは,最大でも10GPa程度であり,今回の測定結果である硬さ値19GPaは非常に硬い値を示している。

(図3 ラマン分光測定結果)
(図4 XRD測定結果)
(図5 硬度測定結果)

研究成果
 液体有機金属のトリメチルボレートを原料として,硬質のBN膜をMOCVD法により作製した。その結果,hBN膜にホウ酸を混合した複合BN膜が得られた。得られたBN膜の特性は以下のとおりである。
(1) BN膜の赤外分光測定を行った結果,hBNのピークと酸化物のピークが得られた。
(2) BN膜のラマン分光測定を行った結果,hBNとホウ酸のピークが得られたことから,本BN膜はhBNとホウ酸との複合構造の膜である。
(3) BN膜のX線回折測定の結果,hBN(002)のシャープなピークが得られた。
(4) BN膜のナノインデンテーション硬さ測定の結果,hBN,ホウ酸単体の硬さの値よりもはるかに高い19GPaの硬さ値が得られた。これは,複合化したことによる相乗効果によるものである。

論文投稿
Vacuum Vol.83, 2003 p.582-584.